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天敵

「こんなものをそのディアンという異世界人は何十体も従えているのですか?」

「本人が言ってるだけで確認はしてませんけど、僕が戦っただけで四体の上級悪魔を持ってました」


 ここで恭也は『情報伝播』でこれまで戦った他の上級悪魔の映像もリシャルたちに見せようと思ったのだが、この時点でリシャルたちが相当怯えていたので止めにした。

 アロジュートに異世界人の力の一端を見せられ、その上自分たちの国が知らぬ間に上級悪魔の侵入を許していたという事実を聞かされてリシャルたちは言葉を失っていた。

 そんなリシャルたちに恭也は声をかけた。


「いきなりこんな話を聞かされて怖くなるのは無理も無いですけど、でも僕もできる限りのことはしたいと思っているので安心して下さい」

「能様が私たちを守って下さるとおっしゃいますが、能様は見返りとして何をお求めでしょうか?正直な話私共に能様に差し出せるものなど無いと思うのですが……」


 恭也がリシャルたちを守ると言ってもリシャルは安心した様子は見せず、むしろ恭也がリシャルたちを守る見返りに何を要求してくるかを警戒していた。

 そんなリシャルに恭也はゼオグにしたのと同様の説明をし、それを聞いたリシャルは驚いていた。


「大勢の上級悪魔とそれを従える異世界人を倒して見返りはいらないとおっしゃるんですか?」

「はい。僕としては今回ここに来たのはギルドの説明とこれからたくさんのラミアがヘクステラから帰って来るのを知らせるのが目的で、ディアンさんの件はどっちかというとついでですから」

「ついで……」


 異世界人と上級悪魔への対処をついでと言い放った恭也を見てリシャルはあぜんとし、リシャルの後ろのラミアたちも絶句していた。

 そんなリシャルたちの反応を見て、恭也は慌てて自分の発言を訂正した。


「いえ、もちろんディアンさんに簡単に勝てると思ってるわけじゃないですよ?まだどんな能力持ってるかも分からないわけですし」


 現時点でディアンの能力が『物質の破壊と再構成』であることは分かっていたが、ディアンもガーニスやアロジュート同様切り札を持っているはずだ。

 またディアンがいくつかの小技も持っている可能性もあり、それに加えてディアンは数十体の上級悪魔を従えているのだ。

 恭也は別にディアンに楽に勝てるとは考えていなかった。


「僕が言いたかったのは僕はゼキア連邦のみなさんとお互いに協力できる関係を結びたいと考えていて、それとディアンさんの件は分けて考えて欲しいってことです」

「分けてですか……」

「はい。ディアンさんのしていることは僕のしたいことと真逆なので僕がただで何とかします。リシャルさんたちにはその後のことを考えていて欲しいんです。オーガのみなさんにも言いましたけど具体的な話はヘクステラの件が片付いてからになると思うので、僕が帰ってからゆっくりとみなさんで話し合って下さい」

「オーガとも話を、……ゼオグさんは何と言っていましたか?」

「一度戦うことになりましたけど、その後は僕の話に興味を持ってギルドに参加したいって言ってもらえました」

「ゼオグさんがですか……」


 恭也の発言を聞き驚いた様子のリシャルを見て、ゼオグは誰にでもあんな態度を取っていたのかと恭也は呆れてしまった。

 しかし自分に負けたのだから多少は丸くなるだろうと考えてそれには言及せず、恭也は聞き忘れていたことをリシャルに確認した。


「ラミアのみなさんの結界を僕の持っている街でまねさせてもらっていいですか?」

「まねですか?」

「はい。僕は魔法に関しては素人なのでよく分かりませんけど、僕が見て感じたことを魔法の研究してる人たちに伝えたら多分この結界の再現は難しくないと思うので」


 恭也の発言を聞き少し考えてからリシャルは口を開いた。


「もし私が能様の頼みを断ったらどうなるのでしょうか?」

「特に何もありません。ギルドの説明もしましたし、このまま帰るだけです。ただ僕が眼で見たことを伝えないってだけでこういう結界をラミアが作ってたということは伝えるつもりなので、遅かれ早かれ僕の街の研究所で似た様な結界は作られるかも知れません。僕が元々いた大陸にもラミアはいましたし」


 自分たちが長年かけて編み出した結界が外部の人間にいずれ模倣されるという事実はリシャルにとって衝撃的だった。

 しかしディアンの件を除いてもすでに魔神を引きつれた異世界人二人の侵入を許している以上、今後の外部との交流は避けられないとリシャルは考えた。

 そのためリシャルは結界については恭也の好きにさせるつもりだった。


「結界の件は好きにして下さって構いません。この件に関しては能様を信じるしかありませんから」

「ありがとうございます。代わりと言っては何ですけどこれをどうぞ」


 そう言うと恭也は『格納庫』からウル製の剣を二本取り出し、リシャルたちに剣の説明を行った。

 直接的な殺傷力を持つ闇属性の魔導具の存在と何も無い空間から武器を取り出した恭也にリシャルたちは驚いた様子だったが、恭也が両方について説明をすると驚きながらも一応は納得してくれた。

 その後リシャルの後ろに控えていたラミアがウル製の剣を受け取った後、リシャルは先程から気になっていた二つのことを確認した。


「能様のいた大陸にもラミアがいるとのことでしたが、そのラミアたちはどの様な生活を送っているのでしょうか?」


 リシャルの質問を受けてしばらく考え込んだ後、恭也はダーファ大陸での人間以外の種族の暮らしぶりについて説明した。


「僕がいた大陸にはラミアの他に獣人とエルフもいて、ラミアは獣人やエルフとは別の国に住んでいます。そして僕のいた大陸ではラミアは人の街の近くに住んでました」

「人の街の近くに、それは奴隷としてという意味ですか?」


 恭也の説明を聞きリシャルだけでなくこの場のラミア全員が驚く中、恭也は『情報伝播』で以前オルルカ教国で見たラミアの集落の様子を見せた。


「こんなに近くで……」


 ラミアが人間の街の近くで束縛を受けることもなく集団生活をしている光景を見せられ、リシャルたちは放心状態となっていた。

 リシャルたちが今後ダーファ大陸に行く可能性は現状では低いのでここで話を終えてもよかったのだが、都合のいいことだけ伝えて話を終えるのは良心がとがめたので恭也はオルルカ教国でのラミアたちの現状を正確にリシャルに伝えた。


「見てもらった通り街の近くにラミアは住んでますけど、でもラミアの代表は子供だけで街に行かせるのは怖いって言ってましたし、他の所に住んでる獣人とエルフも国を作って他の国と交流も持ってますけどあんまり国民は他の国には行かないって聞きました。嫌な言い方になりますけど、この大陸よりはましってだけで決して人間と仲がいいってわけではないですね」

「……なるほど、正直に話して下さってありがとうございました。私としましてはラミア全体で能様のおっしゃるギルドという組織に参加したいと思っていますし、次に会った時はいい返事ができると思います。それとこれは大変失礼な質問なのですが、異世界人に私の魔法は効くのでしょうか?」

「リシャルさんの魔法ですか?闇の魔法は魔導具無しだとこの世界の人間相手でも効果が薄いって聞いてますけど」


 恭也のこの発言の後、室内の空気が妙なものになり、また自分が何か地雷を踏んだのかと焦った恭也だったが今回に関しては杞憂だった。


「能様は見ただけで魔法について分かるのでは?」


 リシャルの質問の意味が分からず、とりあえず『魔法看破』を発動してリシャルを見た恭也はようやくリシャルの質問の意味を理解した。


「リシャルさん精霊魔法が使えるんですね」

「はい。この魔法のおかげで私はおさになれたのですが、私の魔法が異世界人に通用するかは私たちにとって重要な問題です。もちろん能様と敵対する気はありませんが、一応確認をしておこうと思いました」


 緊張した表情でそう言ったリシャルを見て、恭也は申し訳なく思いながらも事実を述べた。


「さっき紹介したアロジュートさんも入れて僕は三人の異世界人と会ったことがありますけど、三人全員に属性関係無く精霊魔法は通用しません」


 自分の質問に対する恭也の答えの内容自体は予想していたのだろう。

 恭也の答えを聞いてもリシャルは驚いた様子を見せず、そんなリシャルに恭也は自分の考えを伝えた。


「ちゃんと数えたわけじゃないですけど、この世界に来た異世界人の内半分以上がこの世界の人に殺されてて、今残ってる異世界人は防御とか無効化みたいな死なないための能力を持ってる人が多いんです。だからディアンさんもそうだと考えた方がいいと思います。今この世界にいる異世界人でリシャルさんの魔法が通用するの僕だけです」

「……そうですか」


 恭也には自分の魔法が通用すると聞きリシャルが何を考えたのか恭也には分からなかったが、数秒の沈黙の後リシャルは口を開いた。


「自分からそうおっしゃるということは何か対策をしているんですよね?もちろん能様を洗脳する気など私にはありません。これからよろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いします。それにしても精霊魔法が使えるなんてすごいですね。人数が多い人間の国でも一つの国に一人いればいい方なのに」


 先程の何かを考え込むかの様なリシャルの沈黙に少なからず恐怖を覚えたため、恭也はそれをごまかす様にリシャルに賞賛の声をかけた。

 そんな恭也の発言を聞き、リシャルは驚いた様子だった。


「そうなのですか?獣人の長のゴーザンドさんも精霊魔法が使えるので、精霊魔法がそこまで珍しいものだとは思っていませんでした」

「へー、一つの国に二人はほんと珍しいですね。まあ、いいや。とりあえず今日のところはこれで失礼しますね」

「はい。シーオシアさんのところに行くのでしたね。シーオシアさんは気が強い方ですからお気をつけ下さい」

「分かりました。それじゃ、また後日」


 リシャルのハーピィの長、シーオシアへの評価を聞き、恭也は気の強い相手の方がやりやすいと思いながらジャイノを後にした。


 すっかり慣れた光速移動でジャイノから十秒とかからずハーピィの居住地域に着いた恭也だったが、ハーピィたちは山岳地帯に隠れ住んでいるため集落を探すのは容易ではなかった。

 このこと自体はあらかじめ知っていたため恭也は特に慌てず、ホムラの眷属十体を放ちながらハーピィたちの集落を地道に飛んで探していた。

 その道中恭也たちは先程のリシャルの魔法について話をしていた。


(いやー、闇属性の精霊魔法は何か対策考えないといけないね。ネースにいるっていう子供とリシャルさんの二人がいるんだから。僕が洗脳された時ってみんな僕の命令に逆らえないんでしょ?)

(えぇ、マスターが本気で命令をしたら、それが洗脳された状態でもわたくしたち魔神は逆らえませんわ)

(俺がずっとついてれば問題無いだろ)


 これまでは精霊魔法など防ぐなりよけるなりすればいいと思っていた恭也だったが、使われたらほぼ終わりの闇属性の精霊魔法の使い手を目の当たりにして遅ればせながら対抗策を考え始めた。

 もっともホムラを含むほとんどの魔神が恭也同様闇属性の精霊魔法を警戒する中、ウルは自分が恭也に同行する理由ができたと嬉しそうにしていたが。


(ティノリスでの死体探しも一段落ついたからしばらくはそれでもいいけど、でも選択肢は多いに越したことは無いからホムラ悪いんだけど研究所の人たちに何かいい方法無いか考えてもらえる?今さらだけど殺さないで操る魔法って僕の天敵だし)

(はい。最優先で研究させますわ)


 恭也が常時気を抜いていられる一番の理由、『自動防御』も発動条件が体が傷つく攻撃をされそうになることなので、闇属性の精霊魔法による洗脳は『自動防御』では防げない。

 そのためこの問題は恭也が考えている以上に恭也にとって死活問題だった。

 恭也の指示を受けたホムラは恭也以上にこの問題を深刻に受け止めていたので強い警戒感を持ちながら返事をしたのだが、そんなホムラと恭也の会話にアロジュートが口を挟んできた。


(そこまで警戒する必要無いでしょ。闇の魔神があんたと別行動取ってもあたしがいればあんたにかけられた魔法消せるし)

(そうしてもらえると助かりますけど、でもやっぱ今後のことを考えると魔導具か僕の能力で何とかしたいんですよね)


 アロジュートの提案を聞いた魔神たちがやはりアロジュートの能力は便利だなと怒りと感嘆が混じった複雑な感想を抱くのを感じながら恭也は話を進めた。


(これからすることはますます増えるでしょうからウルやアロジュートさんの行動が制限されるっていうのはできれば避けたいですし、僕の方でも何か考えておきます。ま、今すぐどうにかしないといけないことでもないんでおいおい考えましょう)


 そう自分を含めたみんなに言い聞かせながら恭也はハーピィを探すべく飛行を続けた。


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