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闇の結界

 魔神たちとアロジュートの口論の後、恭也はゼオグの家に向かい、ゼオグにギルドの概要を説明するとともに参加を強制する気は無いことを伝えた。


「オーガのみなさんの腕力を借りることができれば色々なことができて便利だとは思いますけど、みなさんが外との交流を持たずに静かに暮らしたいというならディアンさんや上級悪魔が現れない限り今後は顔を出しません。ただし異世界人や上級悪魔の様なみなさんで対処できない相手が現れた場合、ギルドの支部を置かせてもらえれば対処しやすくなりますし、平和な時もけがや病気の治療や移動手段の提供などはできると思います」


 そう言って恭也はアクアの作り出す治癒効果がある水の説明をゼオグとその後ろにいるオーガたちに行い、その後エイ型の悪魔を実際に召還して見せた。


「悪魔の召喚までできるのですか?」

「いえ、これはこの世界の人間の技術で、大量の魔力が必要ですけど僕以外でも召還できます」


 先程獲得したばかりの能力、『悪魔召還』を使えば話は別だったが、今この話題を出しても話が脱線するだけだと考えて恭也は『悪魔召還』のことは口にしなかった。


「これは人間用に開発したのでオーガには小さいかも知れませんけど、多分頼めばもっと大きいのも作ってもらえると思います」

「……なるほど、能様の話を聞き、あれだけの無礼を働いておきながら図々しい話なのですが私としては能様のおっしゃったギルドというものにオーガ全体で参加したいと考えています。お許しいただけるでしょうか?」

「もちろんです。ゼキア連邦のみなさんが人間にされたことを考えると外部の人間を警戒するのは無理もないですから、これから仲良くできるっていうなら今日のことは気にしません。具体的な話は他の種族の代表とも話してからになると思うので、とりあえず今日のところはこれで失礼します」


 オーガの数はそれ程多くないが、ここ以外にも二つの集落があるらしいのでそこのオーガたちとの話し合いも必要だろう。

 そう考えた恭也はゼオグたちとの会談を終え、ゼオグたちに見送られる形でオーガの集落を後にした。

 

 恭也がゼオグの家を去ったのとほぼ同時刻、タトコナ王国南東部の港街、カーツに一隻の船が寄港した。

 その船には武装した人間数百人と数人のエルフやラミアが乗っており、港で待っていた集団に迎えられて彼らは街へと入って行った。


(一時はどうなるかと思いましたけれど、無事オーガとも協力できそうでよかったですわね)

(うん。まあ、正直な話、自分が絶対勝てない相手が完全な善意であれこするって言ってきて、それを頑なに断る人ってなかなかいないと思うから当然の結果だとは思うけど)

(なるほど、こっちは善意でやってるって思わせるためにあくまでも精神的に痛めつけたわけっすね)


 ホムラの発言に対する恭也の返事を聞き、ライカが微妙に引っかかる言い方をしたもののすでに慣れていたので恭也はそれには強く突っ込まずあいまいな返事をするだけに留めた。


(じゃあ、次行くラミアとも戦うのか?)

(さすがにラミアとハーピィは仲間を助けてるわけだからそこまで乱暴なことにはならないと思うよ)

(それで平和に済んだ試しがねぇからなー)

(人聞き悪い事言わないでよ。口論ぐらいならともかく毎回戦ってるってわけじゃないんだから)


 茶化す様なウルの発言に反論しながら恭也はウルの羽で空を飛び、ラミアの居住地域へと向かった。


 オーガの集落を後にした後途中で一泊した恭也は、その日の午前中にはラミアの居住地域へと到着した。

 しかしラミアの居住地域を上空から見下ろした恭也は、見慣れないものが各地に存在するラミアの居住地域の現状を見て困惑した。


(何あれ?)

(結界のようですけれどこの世界の住民が結界を張っているというのは驚きましたわね。何らかの魔導具かも知れませんわ)


 ラミアの居住地域に点在する結界を見たホムラの感想を聞きながら恭也は『魔法看破』を発動した。


「へぇ、すごいな」


 恭也たちの眼下にある濃い紫色の結界はラミアたちの力のみで張られたもので、侵入者を物理的に阻む効果は無いが闇属性の持ち主以外が入ると五秒と持たずに意識を失うらしい。

 それでいて闇属性の持ち主には全く害が無いという結界を張る技術をラミア単独で編み出したと知り、恭也は思わず感嘆の声をあげた。


(これ異世界人はどうなるんだ?)

(魔力が五千以上あると大丈夫みたい。でも害が無いわけじゃないからあんまり長時間はいない方がいいかな)


 ウルの質問に答えながら恭也はこの結界に心底感心していた。

 今はウルと融合しているので問題無いが、『魔法看破』によると恭也単独でこの結界に入った場合三時間程で視覚や聴覚、呼吸などに異常が出てその後も居続けると意識を失い、最終的には死に至るらしい。


 恭也がこれまで出会った異世界人にはそれぞれの能力で防がれるが(ガーニスはその内酸欠になるが)、それでもこの結界がこの世界の技術体系を考えると大変すばらしい発明であることに変わりはない。


 できればこの結界の張り方を知りたいものだと思いながら恭也はラミアの張った結界へと入った。

 結界に入って程無く恭也はラミアに会うことができた。

 自分たちの結界内に人間がいることにそのラミアは驚いた様子だったが、恭也が自己紹介をすると先日のゼキア連邦の国民の救出が功を奏したようで円滑にこの集落の代表に会うことができた。


 しかしラミア全体の代表は別の集落にいるということだったので、恭也はこの集落の代表に別れを告げるとすぐにラミアの代表がいるという集落に向かった。

 オーガの集落からは見物を兼ねて飛んで来たが、恭也はすでにラミアの居住地域全体の様子を観察し終えていた。


 そのため恭也は光速移動で十秒とかけずにラミアの代表がいる集落、ジャイノに着き、昨日同様無造作にラミアの結界へと入った。

 そして出会ったラミアに取り次いでもらい、恭也はようやくラミアの代表、リシャルに会うことができた。

 リシャルは恭也が見たところまだ十代半ばといったところで、こんな少女が何故代表をしているのか恭也は疑問に思ったがまた何らかの地雷を踏んでも困るので自分の疑問を口にはしなかった。


「初めまして、能恭也様。先日は私たちの同胞を救い出していただき、私はもちろんラミア一同能様には大変感謝しております。本来ならこちらからお礼に出向かなくてならないところをわざわざお越しいただきありがとうございます」

「いえ、気にしないで下さい。それ程手間じゃなかったですから」

「そう言っていただけると助かります。ところで一つ質問をしてもいいでしょうか?」


 国の首脳部や種族の代表へのあいさつなどすっかり慣れたものの恭也と比べて明らかに緊張した様子のリシャルだったが、この質問をした途端リシャルの表情がさらに硬くなった。

 恭也としては警戒されるのには慣れているのでリシャルの態度を気にせずに何でも聞いて構わないと伝えた。

 恭也は自分が来た目的などを聞かれると思っていたのだが、リシャルの質問は恭也とは直接関係の無いものだった。


「どうして私たちの結界の中で能様は平気なのですか?異世界人は六属性の魔法のいずれも使えないと聞いているのですが」

「ああ、そっちですか」


 緊張した様子のリシャルを前にして何を聞かれるかと身構えていた恭也は、まるで予想していなかった質問をされてあっけにとられた。

 しかしこの質問がラミアにとって死活問題だとすぐに気づき、恭也は先程『魔法看破』で知った事実をリシャルに伝えた。


「つまり魔力が高い異世界人や上級悪魔には私たちの結界は通用しないということですか?」


 恭也の説明を聞き、リシャルだけでなくリシャルの後ろにいたラミアたちも驚きと恐怖の表情を浮かべていた。

 自分たちを守ってくれると信じていた結界の限界を知らされたのだからリシャルたちが恐怖を感じるのは無理も無い。

 そう考えた恭也はリシャルたちに声をかけた。


「そこまで落ち込むこともないと思います。この結界は闇の魔神の力が無かったら僕は数時間で限界を迎えるみたいですし、上級悪魔に関してはこの世界のどの国も対策なんて取れてませんからあまり気にしてもしょうがないですよ」

「なるほど魔神と契約しているのですか。それでは私たちの結界が通用しないのも当然ですね。しかし数時間ですか、ずいぶん具体的ですね」


 自分たちの結界の効果はともかく耐えられる時間は実際に実験でもしない限り分からないはずだ。

 それにも関わらず自分がどれだけ結界に耐えられるかを把握してるかの様な話し振りの恭也を見て、リシャルは不思議そうにしていた。

 そんなリシャルに恭也は『魔法看破』の説明をした。


「僕は魔法関係のものは見ただけでどんなものか分かる能力を持っているんです。だからみなさんの結界もどういうものかは見ただけで大体分かりました。僕は別の大陸から来たんですけどこの結界はこの世界の人が突破するのは不可能に近いと思うので、十分信頼していいと思います」


 恭也のこの発言を受けて多少は安心したのかリシャルたちの表情がわずかながらやわらいだ。

 しかしこの結界で止められない存在の話をしに来た恭也にとってはここからが本題だったので、リシャルたちを再度怖がらせることになっても恭也は話を続ける必要があった。

 恭也がオーガの集落でしたのと同様の説明をリシャルたちに行うと、リシャルは顔を青ざめながらも口を開いた。


「そのディアンという方は私たちの結界に入って来れるのでしょうか?能様が闇の魔神と契約しているということは他の異世界人は闇の魔神の力を使えませんよね?」


 すがる様に質問してきたリシャルに対して恭也は肯定も否定もできなかった。


「確かに僕が生きてる間はディアンさんは闇の魔神の力を使えません。でもディアンさんの異世界人としての能力が分からない以上この結界を突破できるかどうかまでは分かりません」


 厳密に言うと恭也が死ななくてもウルとの契約は解除でき、またディアンはどうやっても魔神との契約はできない。

 しかしこの話をすると恭也たちをこの世界に送り込んだ神関連の話もしなくてはならず、話が長くなりそうだったので恭也はリシャルに対する説明は最低限にとどめることにした。


「異世界人の能力と言いますのは、能様の場合見ただけで魔法の仕組みが分かる能力になるのでしょうか?」


『魔法看破』の効果が地味だったためリシャルを含むラミアたちは異世界人の危険度が理解できていない様子だった。

 ここで恭也の能力を説明してもよかったのだが、魔神の力抜きの恭也の能力は相手に危害を加える能力が少なく蘇る能力に至っては殺傷能力は皆無だ。


 そのため恭也は自分以外の異世界人の能力をリシャルたちに見せることにした。


「まったく、気軽に見世物にしてくれるわね」


 恭也に頼まれて実体化したアロジュートは、異世界人の力をリシャルたちに示すという用件のために実体化を命じられて不満な様子だった。


「すいません。僕の能力、地味なのが多くて」

「で、何すればいいの?まさかラミア消すわけにもいかないでしょ?」


 突然アロジュートが現れただけでも驚いていたリシャルたちは、アロジュートの物騒な発言を聞きわずかに後ずさった。

『不朽刻印』が発動できる程恭也を恐れているリシャルたちを見て、恭也は早く話を進めた方がいいと判断した。


「この人は魔神じゃなくて異世界人です。そして何でも、すいません。アロジュートさんの能力、リシャルさんたちに教えていいですか?」

「別にこのラミアたちだけじゃなくて必要だったら好きに話してくれて構わないわよ。この世界の人間があたしの能力知ったって対処なんてできないだろうし、ディアンとかいう男にばれてる以上今さら警戒しても遅いでしょ」

「言われてみればそうですね」


 アロジュートの了承を得た後、恭也はリシャルにアロジュートの能力を説明した。


「アロジュートさんはどんなものでも消すことができるんです。岩でも城でも人間やラミアでもです」


 そうリシャルに説明した後、恭也はアロジュートに直接脳内で話しかけ、リシャルたちの周囲の酸素を消すように頼んだ。

 すぐにアロジュートは恭也の頼みを実行し、リシャルたちは程無く苦しみ始めた。


「もういいです」


 リシャルたちが数秒苦しんだ後、恭也の合図で能力を解除したアロジュートはそのまま体を解き、その後恭也は風魔法でリシャルたちの周囲に新鮮な空気を送った。

 今も息を荒げているリシャルたちに恭也は謝罪した。


「手荒なことをしてすいませんでした。でもこれで異世界人の怖さは分かってもらえたと思います。僕は異世界人の中では一番弱いので僕はあまり参考にしないで下さい。そして残念なことに異世界人の一人が上級悪魔を創り出して色々な街に送り込んでいます。実を言うとゼキア連邦にはすでに一体送り込まれてました」


 そう言って恭也は『情報伝播』を使い、以前戦った猿型の上級悪魔の映像をリシャルたちに見せた。

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