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オーガとの交渉

 ヘクステラ王国西部の街、ゾアースに着いた恭也は、息つく暇も無く各種族の代表へのあいさつのためにゼキア連邦へと向かった。

 今回恭也があいさつする予定のゼキア連邦に住む種族は西から順にオーガ、ラミア、ハーピィとなっており、ラミアとハーピィは今回だけでなく前回にもヘクステラ王国にさらわれた住民たちを助け出しているので話ぐらいは聞いてもらえるだろうが問題はオーガだった。


 助け出したゼキア連邦の国民によるとオーガは個人の戦闘力ならゼキア連邦に住む種族でも随一で、そのため自分たちの強さに強い誇りを持っているらしい。

 そんな彼らがディアンとその悪魔の脅威を知った時に恭也の庇護を受け入れるだろうか。

 そんな不安を抱きながら恭也はゼキア連邦に向かったのだが、この恭也の不安は残念ながら現実のものとなってしまった。


「貴様に守ってもらう必要など無い。他の種族のことにまで口を出す気は無いが、我々は自分の身ぐらい自分で守れる。帰ってくれ」


 恭也からディアンという異世界人が上級悪魔を送り込み各地で街を襲っているという説明を聞き、オーガたちの長、ゼオグは口を開くなり恭也の提案を断った。

 オーガがヘクステラ王国に一人もさらわれていなかったこともありオーガの恭也に対する態度はかなりぞんざいなものだった。

 しかしこれ自体は予想通りだったので、恭也はひるむことなくゼオグの説得を続けた。


「自分たちの身は自分で守れるって言いますけど、オーガのみなさんがそんなに強かったら人間相手にここまで逃げる必要無かったですよね?この世界の人間にも勝てないような力じゃ上級悪魔には通用しません。どうか考え直して下さい」


『魔法看破』によるとオーガは六属性いずれの魔法も使えない代わりに身長三メートル程の巨体に加えて怪力と高い耐久力と再生力を持つ肉体を持っているらしい。

 といっても肉体の耐久力は魔法を受けても無傷という程ではなく、刃物でも普通に傷つけられてしまう。


 種族としての平均的な強さならおそらくオーガがこの世界で一番強いのだろうが、数の暴力でこの世界の人間に負けるような種族がディアンの上級悪魔に対抗できるわけがない。

 そう考えていた恭也の説得を聞き、ゼオグは声を荒げた。


「調子に乗るなよ?ヘクステラでさらわれた者たちを助けて調子に乗っているのかも知れんが、我々は人間の数に負けただけだ。各地に散り散りとなっていた昔とは違い、今はオーガ全員が一丸となって敵に対処できる。今の我らなら打って出るのは難しくても侵略者を退けるぐらいわけもない!さあ、分かったらさっさと帰れ!」


 本気で自分たちの身は自分で守れると思っている様子のゼオグを前に恭也は『情報伝播』を発動し、ゼオグとその後ろにいたオーガ数人に鳥型の上級悪魔と竜型の上級悪魔が暴れている様子を見せた。

 上級悪魔の姿を直接脳内に伝えられてゼオグの後ろのオーガたちが動揺し、ゼオグも表情をこわばらせたがすぐに平静を取り戻して後ろのオーガたちに怒号を飛ばした。


「妙な術に怯えるな!こんなものはまやかしだ!」


 オーガたちをたしなめたゼオグは次に恭也に視線を向け、先程まで以上の敵意が込もった表情を見せた。


「異世界人は妙な術が使えるとは聞いていたがなかなかおもしろい見世物だったぞ。こんなもので我々が怯えるとでも思ったか?仮に今のが本当だったとしても我らなら勝てる。仮に犠牲が出たとしても誇り高く死ぬだけだ」


『情報伝播』を使っても説得できなかったゼオグを見て、恭也は話が長引きそうだなと思った。

 しかしゼオグの発言の最後の部分を聞き、恭也はゼオグを言葉で説得するのをあきらめた。


「すいません。今すごい馬鹿な発言が聞こえたのでもう一度言ってもらっていいですか?多分聞き間違いだと思うんで」

「何?」


 突然恭也の雰囲気が変わったことにゼオグが戸惑う中、恭也は怒りを隠そうともせずに口を開いた。


「今誇り高く死ぬとか言いましたか?死ぬの前に余計な言葉つけないで下さい。死んだらそれで終わりです。誇りも何もないですよ」

「貴様、我らを侮辱する気か!」

「はい。死ぬって分かってる戦いに考え無しに挑むのがあなたたちの誇りだって言うなら、鼻で笑ってあげます」


 無表情でこう言い放った恭也を前にゼオグは怒りに体を震わせ、そんなゼオグに恭也はある提案をした。


「もうこうなったら話し合いで決めるのは無理だと思うので、あなたたちと僕で勝負をしませんか?今この世界には僕を入れて五人の異世界人がいるんですけど、僕はその中で一番弱いです。そんな僕に負けたらあなたも自分が間違ってるって分かると思うんですけどどうしますか?さっきも言いましたけど僕勝てない戦いに挑むなんて馬鹿なことだと思ってるんで、断っても別に笑いませんよ?」


 恭也のこの挑発を受け、ゼオグは怒りに体を震わせたまま恭也の申し出を受けた。


 ゼオグたちが戦いの準備をしている間に指定された場所、オーガたちの集落の中心に向かいながら恭也は魔神たちと今回のいきさつについて話していた。


(ったく、結局力押しでやるなら最初から適当に暴れれば済んだじゃねぇか)


 話し合うと言っておきながら結局戦うことになったことを受け、ウルは呆れた様子だったが恭也としては今回の流れは特に変なことだとは思っていなかった。


(オーガ全員があの人みたいな考えならウルの言う通り暴れるっていうのもありだったけど、さっきの様子だとあの人みたいな人ばっかじゃないみたいだからね。誇り高く死ぬとか言ってる人たちにだけ異世界人の怖さを知ってもらうつもりだよ)


 ゼオグは一対一で恭也と戦うと言ってきたが、後で言い訳をされるのも面倒だったので恭也の方から好きなだけ部下を連れて来ていいと言っておいた。

 ゼキア連邦に住むオーガの数は七百人程らしく、もしこの半分以上がゼオグに従って現れたら恭也としてもオーガとの付き合い方を考えなくてはいけなかった。


 ゼキア連邦のエルフの中には自分の身かわいさに同族をヘクステラ王国に売る者がいたらしいが、これを聞いたからといって恭也がエルフ全体に不信感を抱くことはない。

 以前恭也はアロジュートに天使というのは全員が主体性が無いのかと聞いたことがあった。


 その時のアロジュートの説明によるとアロジュートの様な性格が珍しく、種族全体では自分が自分がと主張する性格の者が多かったらしい。

 この様に種族が同じといっても性格の違いはあって当然なので、ゼオグの態度だけでオーガへの評価を決める気は恭也には無かったが果たしてどうなるかと恭也は一抹の不安を抱いていた。

 といっても恭也は自分が負ける心配は全くしていなかったが。


(これで師匠が負けたら笑うっすけどね)

(攻撃手段が物理攻撃しか無い相手にはさすがに負けないでしょ。相手が多かったらさすがに面倒だけど)


 恭也にからかうような口調で話しかけてきたライカだったが、ライカ自身も本気で恭也が負けるとは考えていない様子だった。


(いざとなったら私たちもいますわ。存分に戦って下さいませ)

(うん。その時はお願い。できれば僕一人で勝ちたいとこだけど)


 ホムラの言う通りいざとなれば魔神五人とアロジュートの力でオーガの集団などどうとでもなる。

 しかしゼオグにはあくまで恭也個人に負けてもらわないと今後の話が面倒になるので、恭也は今回のゼオグとの戦いで魔神たちやアロジュートの力を借りる気は無かった。

 そして待つこと数分、恭也の前にゼオグが姿を現した。


(あらあら、大した誇りですわね)


 恭也一人と戦うためにオーガ三十人余りを引き連れて来たゼオグを見てホムラが皮肉気に笑うのを聞きながら恭也は戦う人数が少なく済んでほっとしていた。

 もしゼオグが連れて来たオーガの人数が百人を超えていたらゼオグの考えが必ずしも少数派の意見ということではなくなるからだ。

 またあまりに戦う相手の数が多いと倒すのが面倒だという見もふたも無い理由もあった。

 そんなことを考えながらゼオグたちを見ていた恭也を見て、ゼオグは笑みを浮かべた。


「どうした?怖気づいたというのなら逃げても構わんぞ?二度と顔を出さないというのなら見逃してやる」


 このゼオグの発言を聞きウルとホムラが吹き出し、そんな二人を恭也はたしなめようとした。

 恭也がゼオグの死を覚悟して戦いに挑むという考えを不快に思ったのは事実だったが別にオーガたちを侮辱するつもりは無かったからだ。

 しかし傍から見たらどっちも同じかと考え、恭也は結局二人に何も言わなかった。


「まさか、ここでみなさん見捨てて逃げるぐらいなら最初から来ませんよ。こっちも準備するんで待ってて下さい」


 そう言うと恭也は魔神たちとの融合を解き、アロジュートにも実体化してもらった。


「何だ、そいつらは?」

「あれ?魔神は知ってますよね?」

「……なるほど六体全ての魔神を従えているというわけか。調子に乗るわけだな」


 アロジュートを含めて六人いる恭也の後ろの面々を見て勘違いしている様子のゼオグに恭也は安心するように伝えた。


「安心して下さい。後ろの六人には手出しさせません。実戦ならともかくこれただの説明会ですから」

「説明だと?」


 一触即発の空気の中場違いな言葉を口にした恭也を前にゼオグは不審そうな顔をした。

 そんなゼオグに恭也は今回の戦いの目的を伝えた。


「今回戦う目的は自分たちだけで異世界人や上級悪魔に勝てると思ってる世間知らずのあなたたちに身の程を教えることです。異世界人最弱の僕に負けて今自分たちがどれだけ危険な状況なのか理解して下さい」

「貴様……」


 恭也の発言を聞きゼオグは怒りを露わにしたが、今回に限っては恭也は意図的にゼオグを挑発していたので問題無かった。


「どうぞ好きなだけ怒って下さい。言っておきますけど怒ってるのこっちですからね?死にに行くための誇りなんて徹底的にへし折ってあげます。ここから出る以外なら何してもらっても構いません」


 そう言うと恭也は自分とゼオグたちオーガを入れる形で『隔離空間』を発動した。

 自分たちが閉じ込められたことにオーガたち何人かが動揺する中、恭也が無言でゼオグたちをにらみつけると、ゼオグの後ろから二人のオーガが前に出て来た。


「ゼオグさん、俺たちに任せて下さい。妙な能力持ってるみたいですけどこんな人間一人にゼオグさんが出るまでもないですよ」

「そうそう、身の程を教えるだぁ?こっちこそ人間ごときが調子に乗るとどうなるか教えてやるよ」


 恭也を見下しながら恭也の前に出て来たオーガ二人を見て恭也はため息をついた。

 ここまで交渉がこじれてしまった以上恭也とオーガたちの戦いは夕方の河川敷で拳と拳で語り合うといった爽やかなものにはならないだろう。


 こうなったら割り切って徹底的にオーガたちの心を屈服させよう。

 そう考えながら恭也が二人組のオーガの出方を待っていると、片方のオーガが恭也目掛けて拳を振り下ろしてきた。

 まるで手加減を感じさせないオーガの拳が恭也の胴体に命中したが、『物理攻撃無効』を発動していた恭也は傷つくどころかびくともしなかった。


「あれ?どうしました?手加減してくれるのは嬉しいですけど、一応僕の力を見せるのが目的ですから殺す気で殴ってくれて構いませんよ?」

「な、何が……」


『物理攻撃無効』発動中の恭也は物理攻撃によるダメージを無効にしているだけで体が硬くなっているわけではない。

 そのためしっかりと人間の体を殴った感触があるにも関わらず無事な恭也を見て、恭也を殴ったオーガは困惑していた。

 そんなオーガにゼオグが怒号を飛ばした。


「そんな人間一人相手に何をしている?早くひねり潰してしまえ!」


 ゼオグに急かされたオーガはその後も何度も恭也を殴ったが、やがて自分の拳が通用しないと悟ると恭也を握りしめた。

 そのまま恭也を持ち上げて握り潰そうとしたオーガだったが、ただ筋力が高いだけのオーガが恭也の『物理攻撃無効』を突破できるはずもなくただ時間だけが過ぎた。

 十秒程オーガに握り締められていた恭也だったが、何の変化も起きないことにじれて『束縛無効』でオーガの拳から抜け出してオーガに話しかけた。


「オーガは怪力が自慢だって聞いてたんですけど僕一人潰せないんですね」

「ふざけるな!妙な術を使いやがって!正々堂々と戦え!」


 自分の攻撃が恭也の能力に通じず、オーガが身勝手な文句を言ってきたが恭也は全く動じなかった。


「腕力なら自分が勝つから正々堂々と腕力で勝負しろってことですか?じゃあ、僕は能力使えば絶対負けないんで正々堂々能力使わせてもらいますね」


 そう言って恭也はもはや破れかぶれといった感じのオーガの攻撃を腕で防いだ。

 これも先程まで同様『物理攻撃無効』を使っただけなのだが、何も知らないオーガたちからすれば非力な人間がオーガと腕力で拮抗している様にしか見えなかった。

 たかが人間ごときを相手に互角の押し合いを演じてしまったオーガはどうすればいいか分からず言葉を失ってしまったが、そんなオーガにもう一人のオーガが声をかけた。


「そんなにびびるこたぁねぇ!どんな能力使ってるかは分からねぇが、絶対に魔力は使ってるはずだ!攻撃しまくりゃその内死ぬ!」


 そう言ってもう一人のオーガは鉄製の斧を恭也に振り下ろした。

 オーガは性別問わず布製の腰みのしか身に着けていなかったため文明レベルは低いのだと恭也は考えていたのだが、恭也との戦いに臨んでいるオーガの何人かは鉄製の武器を持っていたので少なくとも鍛冶ができる人材はいるようだった。


 オーガの振り下ろした斧も『物理攻撃無効』で防いでもよかったのだが、このままオーガたちのサンドバックになっていてもらちが明かないと判断した恭也はそろそろ反撃しようと考えて無抵抗で斧に斬り裂かれた。


「何だ、攻撃効くじゃねぇか」


 自分の斧で恭也があっさり斬り裂かれたのを見て、オーガは安心した様な表情を見せた。

 しかし次の瞬間には無傷の恭也が振り下ろした斧の横に立っていたため、オーガは思わず後ずさってしまった。


「ひるむな!武器は通じるんだ!もう一度斧で、」


 最初に恭也に殴りかかってきたオーガは相方のオーガに恭也への再度の攻撃を促そうとしたが、相方のオーガの斧の刃が半分以上溶けてなくなっているのを見て言葉を失った。


「一体どうなって……」


『腐食血液』により自分の武器が破壊されて動揺するオーガだったが、オーガが落ち着くまで待つ程恭也はお人好しではなかったのですぐに攻撃を仕掛けた。

 恭也は自分が戦っていたオーガ二人に『情報伝播』で焼かれる痛みを与え、その後『幻影空間』も使いオーガ二人が実際に焼かれているかの様な光景を残りのオーガたちに見せた。


「魔法が使えるからといって何だと言うのだ!我らの再生力をもってすればそんな火ぐらい、」

「うわっ!」


 自分の部下二人が焼かれるのを見てもなお恭也相手に闘志を見せたゼオグだったが、そんなゼオグの発言は後ろから聞こえた部下の悲鳴により中断させられた。

 一体何事かと思ったゼオグが後ろを振り向くと後ろにいた部下全員が腰まで地面に埋まっており、ゼオグの部下たちは何とか地面から抜け出そうとしていた。


 しかし彼らの誰一人地面から抜け出すことはできず、それを見たゼオグはようやく恭也に恐怖を抱き始めた。

 六属性の魔法が使えないオーガたちは『埋葬』への対抗手段を一切持たず、その気になればゼオグも地面に埋めることはできた。

 しかし今回の恭也の目的はあくまでゼオグの心を折ることだったので、ゼオグだけはそのままにしておいた。


「どうです?異世界人で一番弱い僕一人にこのざまなんですよ?あなたもオーガの長なら誇りより優先しないといけないことがあると思います」

「分かった様な口をきくなー!」


 恭也の説得に応じず手にした刀で斬りかかってきたゼオグを見て、恭也はつまらなそうな顔でゼオグの攻撃を防いだ。

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