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六人目の魔神

 こうした恭也の考えを聞き、ホムラは恭也に謝罪した。


「申し訳ありません。わたくしとしたことがいつの間にかヘクステラの人間の影響を受けていたようですわ」

「謝らなくていいよ。僕も今と違う能力持ってたらどういう風に考えてたか分からないし」


 恭也は相手が自分の能力の対象になるかを相手を判断する一つの基準にしていた。

 具体的に言うなら恭也は『能力譲渡』で能力が渡せる相手は人格がある存在と見なしていた。

 恭也が試しに今まで会ったゼキア連邦に住む種族に『能力譲渡』を使おうとしたところ全ての種族が対象にでき、同様に『能力譲渡』が使える魔神たちにも恭也としてはそれ相応の待遇をしているつもりだった。


 こういった理由から恭也はゼキア連邦の国民たちを抵抗無く受け入れることができたのだが、この判断基準はどんな差別よりも主観的なものだった。

 そのため恭也はゼキア連邦の周囲の国の人間の説得にこの理屈を使うことができずにいた。


「さすがに六つの種族の代表全員にあいさつするのは時間がかかるから今回は北半分だけにあいさつして、残りの半分はヘクステラの街全部回ってからにしよう」


 恭也のこの提案に特に魔神たちやアロジュートから異論は出なかった。

 恭也が助け出したゼキア連邦の国民から聞いた話によると人間たちから迫害を受けた様々な種族が集まってできたという成り立ちにも関わらず、ゼキア連邦に住む六つの種族は特に助け合うこともせずにお互いにあまり関わらずに生活しているらしい。


 他種族と交わらないと種を維持できないラミアとハーピィは比較的国中を移動しているが、後は種族として仲のいいエルフとアルラウネが共に森に住んでいるだけで全ての種族が完全にそれぞれの種族に別れて暮らしているというのが恭也がゼキア連邦の国民から聞いた話だった。


 もちろんゼキア連邦の国民を誘拐して売買していたヘクステラ王国の人間が悪いというのは大前提だが、それでもその連帯感の無さではヘクステラ王国の人間に領土内で好き勝手されるのもしかたないのではというのが恭也の正直な感想だった。


 もっとも同じ人間同士で戦争や差別を行っていた世界から来た恭也がこのことについて偉そうに言っても虚しいだけだったが。

 その後恭也たちの話題は六人目の魔神についてとなり、恭也の脚をベッド代わりにしているランをいつも通りあやしながら恭也は魔神たちとの話を続けた。


 ちなみにアロジュートは一通り話が終わると自分がいると色々やりにくいだろうと言って部屋から出て行った。

 部屋を出て行く際の魔神に飽きたらいつでも呼んでという発言からアロジュートが何やら間違った気遣いをしている気がした恭也だったが、深くは追及しなかった。


 現在恭也は別行動中のアクア以外の魔神四人を全て召還しており、二人用の部屋を借りたのだがそれでも手狭だった。

 一つの部屋にゴスロリ、軍服、着物、といった様々な服を着た美少女が座っている光景はとても絵になるもので、恭也にとって比較的なじみ深い服を着ているライカすらこの世界の人間にとっては美しさと畏怖を感じさせる存在だった。


 しかしすでに魔神たちを見慣れた恭也からは部屋が狭く感じる以上の感想は出て来なかった。

『格納庫』の中には屋敷も入っていたのでそれを出せばもっと広い部屋を使うこともでき、実際ヘクスではそのようにしていた。

 しかしリクアトではちょうどいい空き地が見つからず、恭也が街から出ると『隔離空間』が解除されてしまう以上奴隷の解放中は街の中で過ごすしかなかった。


「で、風の魔神迎えに行かねぇのかよ」


 今日の昼頃にラインド大陸を探索中だったホムラの眷属から連絡があり、風の魔神が封印されているらしき場所を発見したとのことだった。

 ウルの発言はこの報告を受けてのもので、ラインド大陸にはすでにライカの移動用の魔導具もあるので恭也が行こうと思えばすぐにでも行くことができた。

 しかし恭也にその気は無かった。


「戦力的には今でも十分過ぎるからね。街の結界解いてまで行く気は無いよ。この街が終わったらゼキア連邦に行く前に行こうかなとは思ってるけど」

「結局六人全員師匠のものっすか。さすがというかずるいというか……」


 こう言って呆れた様な視線を恭也に送ってきたライカとそんなライカにたしなめる様な視線を向けたホムラに苦笑しながら恭也は口を開いた。


「これに関してはほとんど運だけどね。そもそも僕たち異世界人をこの世界に送った神様たちがちゃんと仕事してれば僕多分一人も仲間にできなかったし」

「神ねぇ、できれば戦ってみたいもんだけどそいつらこっちの世界には降りて来ないんだったよな?」

「うん。そうみたい。というか気軽に僕たちに能力与えられるような存在だから戦うとかそういう次元の相手じゃないと思うけど」


 自分たちをこの世界に送り込んだ神という存在はおそらく概念や法則に近い存在だと恭也は考えていた。

 そのため恭也としては戦おうなどとは考えたことも無く、この世界に来たばかりの時ならともかく今では恨みという程の感情も持ってはいなかった。


「でも師匠の能力ならこれから何年もかけて死にまくれば神とかいう連中に近づけるんじゃないっすか?」

「みんな僕の能力過大評価し過ぎだよ。話したこと無かったっけ?僕がどうやってウルに勝ったか」


 ライカの発言を受けての恭也の発言を聞き、自分が負けた時のことを思い出したのかウルは顔をしかめた。

 そんなウルをよそに恭也は他の魔神たちに自分がどうやってウルに勝ったかを説明した。


「そ、それはまた……」

「うわー、うざいっすねー」


 恭也の説明を聞きライカが再び主である恭也に無礼な発言をしたが、今回はホムラも口にこそしなかったもののライカと同意見だったので特に何の反応も見せなかった。

 そんな二人をしばらく苦笑しながら見ていた恭也だったが、そんな恭也の視線に気づいたホムラは一度咳ばらいをして話題を変えた。


「ところでマスターは一度ソパスに帰ってはいかがですの?これから風の魔神を部下にして、その後ゼキア連邦に行った後でヘクステラでの奴隷の解放を再開するとなると少なくとも十日以上はかかりますわよ?」

「そうっすよ。師匠に言われた通りクノンとかいう国に魔導具置いてきたからいつでも帰れるっすよ?」


 ホムラとライカが口々にソパスへ帰るように勧めるのを聞き、恭也はすぐに自分の考えを伝えた。


「うん。それは何度か考えたけど、でも今帰っても絶対こっちのことが気になって楽しめないんだよね。だから帰るのはこっちが落ち着いてからにするよ。他の国はそこまで手を出す必要も無さそうだし、ここさえ乗り切れば後は週一で帰れるようになると思うし。この街もあさってまでには終わると思うから明日もよろしくね」


 恭也のこの発言に恭也たちの会話を聞いているか怪しかったランを含む魔神全員が即答し、その後すぐにラン以外の魔神は退室して恭也は眠りについた。


 そしてその後二日かけてリクアトでの活動を終えた恭也がその日の内に風の魔神を仲間にするためにラインド大陸に向かったのとほぼ同時刻、ウォース大陸最南端の国、オルフート近くの海中にディアン製の上級悪魔がいた。

 この上級悪魔はすでに陸地の近くまで来ていたが、上陸はせずに目玉の悪魔の指示に従い海中をゆっくりと北上していった。

 

 リクアトからラインド大陸まで一瞬で移動した恭也は、その後風の魔神が封印されている場所へと向かうと手早く風の魔神を仲間にした。

 これまで同様ある程度戦って新たな能力獲得を狙うか迷ったのだが、今は予定が詰まっていたので初手『救援要請』からの『ミスリア』二連発で三十秒もかけずに恭也は風の魔神を仲間にした。


「あっと言う間に負けたのも驚いたけど、あなたが私以外の全ての魔神と契約しているのにも驚いた。とりあえず負けた以上はご主人様に従う。よろしくご主人様」


 発言内容とは裏腹に風の魔神はあまり驚いている様には見えなかったが、恭也はとりあえず話を進めた。


「うん、よろしく。君の名前はフウにするよ。僕は能恭也。できれば僕のことは名前で呼んで欲しいんだけど」

「分かった。能恭也、これからよろしく」


 まさかのフルネーム呼びに少し驚いた恭也だったが、問題視する程でもなかったので特に文句も言わずフウに視線を向けた。

 フウは他の魔神同様美少女の姿をしており、見た目の年齢は人間でいうと十代後半といったところで全身の色は薄緑色だった。


 服装はワンピースで傍目には人間と大差無い見た目をしていたが、額から虫の様な触角が生えていた。

 先程は『魔法看破』を使う暇も無く倒したため、恭也はフウに『魔法看破』を発動した。


 その結果知ったフウの固有能力がホムラやアクアの固有能力同様人手不足を解除してくれるものだったので、恭也は思わず笑みを浮かべた。

 これで魔神を始めとして人手が増えているにも関わらず恭也の労働時間が全く減っていないことを事ある毎に気にしているホムラの気苦労も少しは減るだろう。


 そう考えながら恭也はフウと融合し、他の魔神との合体技を確認した。

 新たに使えるようになった合体技には戦い以外に使えそうなものもいくつかあり恭也の興味を引いたが、少しだけ考えた後で恭也は新しい合体技の具体的な使い道を考えるのはホムラに任せることにした。


 新しい合体技の名前も考えたいところだったが、恭也はとりあえずフウとの戦いに巻き込まれないように離れた場所で待機していたアロジュートを呼び出した。

 想像以上に早く恭也に呼び出され、アロジュートは少なからず驚いた様子だった。


「あらかじめ聞いてたけど本当に早いわね。あたしでも魔神倒すのはもうちょっとかかったわよ」

「二対一ですからね。魔力ケチらなければこんなもんですよ」


 アロジュートは魔神ではないため今回は最初から恭也とアロジュートの二人でフウに挑み、ほぼアロジュート一人の力で勝利するということもできた。

 魔神を複数の者が倒した場合、それぞれが魔神に与えたダメージなどは一切考慮されず戦いに参加した者全員が魔神の主となり、この場合は主の内誰か一人でも死んだら契約解除となる。


 このことを恭也は『魔法看破』で知っていたが、自分とアロジュートなら問題無いだろうと考えて二人で魔神に挑むつもりだった。

 しかしアロジュートの意思で自由に破棄できる恭也とアロジュートの主従関係はともかく魔神の所有権まで共有したくないとアロジュートが言ってきたため、恭也が一人で(一人ではないが)風の魔神を倒すことになった。


 すでに恭也はアロジュートのことを仲間だと思っているのだが、アロジュートの方はそうでもないようだった。

 これはもっとがんばる必要があるなと考えながら恭也はアロジュートとの会話を続けた。


「時間があればもっとちゃんと戦って能力増やしたかったんですけど、今は忙しいからしかたないですね」

「能力増やすって死ぬって意味でしょ?あんたほんとにいかれてるわね。まあ、いいわ。あんたがそういう考えなら必要だと思ったらあたしがあんたを殺してあげるから安心しなさい」

「……お手柔らかにお願いします」


 このアロジュートの発言を聞き恭也の中にいた魔神全員が気色ばんだが、元々は恭也が言い出したことだからと魔神たちを恭也はなだめた。

 多分アロジュートはやると言ったら本当にやるだろうなと思いながら恭也はウォース大陸へと戻った。

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