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街宣活動

 恭也が浮遊させた王城をヘクスの中心に向けて進めると、城が街の上空にさしかかる前から街は混乱に陥っていた。

 ヘクステラ王国の王城はヘクスの中心から外れたところに建てられていたが、何せ浮遊しているものが城なので恭也が王城に『ヒュペリオン』を発動した直後から街は騒然となった。


 昨日恭也が話した女が知っていたようにヘクスの住民たちは、今日自分たちの守護者である十武衆が異世界人と戦うことを知っていた。

 ゼキア連邦から仕入れた奴隷の解放などという戯言たわごとを口にする異世界人を前回は惜しくも逃がしたらしいが、今度こそ十武衆が異世界人を討ち取るはずだ。


 ヘクスの住民全員がそう考えていた。

 しかし王城が突然浮遊して街の中心に向かって来るという異常事態を受け、ヘクスの住民たちの頭に嫌な予感がよぎった。


 ヘクスの住民たちが目を凝らすと王城の周りには翼が生えた人らしき者の姿もあり、買い物や仕事のために外に出ていた住民たちは十武衆の敗北、そして異世界人による街への攻撃の可能性を考えて我先に逃げ出そうとした。

 その時だった。


(逃げても無駄です。ウルミスとかいう十武衆は何もできずに恭也様に負けましたし、女王たちも国民と城を捨ててどこかに逃げました。恭也様に攻撃の意思は無いのでまずは話だけでも聞いて下さい)


 こちらに迫る王城を見て逃げ出そうとしたヘクスの住民たちの頭に直接女の声が響き、それを聞いたほとんどの者が足を止めた。

 アクアは自分の主の能力を完全に模倣でき、恭也が『能力譲渡』を使わずとも恭也の能力全てを使用できる。


 魔神由来の能力や神聖気など魔力以外の力が必要な能力までは使用できないが、恭也と契約している現在後者の方は問題にはならなかった。

 現在アクアは『六大元素』と『精霊支配』で風魔法を使い、飛びながら『情報伝播』で恭也からの伝言をヘクスの住民たちに告げていた。


 ちなみに今のアクアの姿は普段と同じ円錐から頭と腕を生やした姿で、これは青一色とはいえ自分と同じ姿の存在がいることに違和感があるという恭也の訴えを受けての対応だった。

 やがて街の上空に王城が到着すると、恭也はアクアを呼び戻して街の住民を対象に『情報伝播』を発動した。


(みなさんおはようございます。異世界人の能恭也です。知ってる人も多いと思いますけど僕はさっき城で十武衆の二人と戦いました。できれば話し合いで決着をつけたかったんですけど、問答無用って感じだったんでこういった形をとらせてもらいました。僕からの頼みは一つです。ゼキア連邦からさらわれた人たちを全員解放して下さい)


 恭也がこう告げると街中から大きなどよめきが聞こえ、その声は上空にいる恭也には届かなかったがヘクスの住民が愕然としているのは恭也にも見えた。


(この周辺の国がゼキア連邦を国だとは認めていないこともゼキア連邦の国民を人だと考えていないことも知っています。でも別の世界から来た僕からすればこの世界の人間もエルフもハーピィもその他の種族も同じです。そして奴隷なんて野蛮な制度は気に入らないので廃止にしたいと思います)


 ここで恭也は一度話を止め、恭也の話を聞いている住民たちの反応をうかがった。

 やけになっての怒号すら飛んで来ず、城を伴っての街の訪問は無駄じゃなかったなと思いながら恭也は話を再開した。


(今日中に奴隷になってる全ての人を解放して下さい。明日になっても奴隷を所有してる人がいたら僕への宣戦布告と見なして、僕が作った刑務所に連れて行きます。ついでに屋敷も含めて全財産没収するつもりなので、無一文になりたかったらどうぞお好きに。後僕は死んだ人間蘇らせることができるので今いる奴隷殺しても無駄ですからね?)


 ここで恭也は実際に自分が死者を蘇らせる光景を『情報伝播』で見せようと思ったが、さすがに損傷の激しいものもある死体を見せるのはまずいかと思い自重した。

 とりあえず伝えたいことは伝えたと判断した恭也は、脅しの意味を込めてヘクスの住民たちにランとアクアの合体技『ベルセポネー』を発動した。


『ベルセポネー』は半径五百メートル以内にいる魔力を持った存在から魔力を吸い取る技だ。

 保有魔力が百以上の相手には効果が無いので戦闘に使うのは難しいがこの世界の人間への脅しの道具としては十分で、実際『ベルセポネー』発動直後街のあちこちから悲鳴や泣き声が聞こえてきた。


 今回の『ベルセポネー』で五万近い魔力を獲得した恭也は、これは自重しないと癖になりそうだなと怖くなった。

 その後恭也は街が落ち着くのを待ち、住民たちに先程言ったことを念押ししてから城を次の街へと進めた。


(……ごしゅじんさま、このままこの国の街全部回るの?)

(うん、そのつもりだよ。北の方はゼキア連邦から離れてるから場合によっては行かないかも知れないけど、少なくとも南半分は行っておかないとね。何か気になることでもあった?)

(……そろそろ一回帰った方がいいと思って)

(あー、それはそうだけど、……いや、ノムキナさんには悪いけどヘクステラの件だけは済ませてから帰るよ。女王様とか貴族の件は最悪後回してもいいけど奴隷扱いされてる人たちの救出は一日でも早い方がいいから)


 確かに今からヘクステラ王国で最低限のことだけでも終わらせようと思ったら十日はかかり、それからソパスにいるノムキナのもとに帰るとなると以前帰った時から一ヶ月近く帰らないことになる。

 しかし前回の帰宅が早過ぎただけでしばらくは一ヶ月に一回しか帰れないということはノムキナにも伝えてあった。ソパスに帰りライカの移動用の魔導具を置きさえすればもっと気軽に帰れるようになるので今は我慢しよう。

 そう考えた恭也は魔神たちに自分の考えを説明すると、アロジュートにガーニスの説明などをしながら先を急いだ。


 そして恭也がヘクスを出発してから五日が経ち、恭也はヘクステラ王国南部の街四つを訪れて奴隷を解放するように告げた。

 浮遊する城からの宣言は恭也が思った以上の効果があり、この世界には上空への敵に対する効果的な攻撃手段が無いこともあって恭也の奴隷解放のための活動は一応はうまくいっていた。


 もちろんネース王国やティノリス皇国での経験から恭也が告げた期日を過ぎても奴隷を解放しない人間がいることは恭也も分かっており、むしろヘクステラ王国の全ての街で奴隷を解放するように告げてからが本番だと恭也は考えていた。


 しかしそれもまずは全ての街を訪れてからの話だ。

『ヒュペリオン』にも慣れた今の恭也なら後四日程でヘクスより南にある街全てを訪れることができるはずで、訪れた街で聞いた話によるとやはりヘクステラ王国の北の方にはゼキア連邦からさらわれた人はいないらしい。


 もちろん後日調べはするが緊急性は低いと恭也は考えており、恭也はここ数日の間に慣れた道中をゆったりとした気持ちで進んでいた。

 魔神たちとの融合も解き、ランはあぐらをかいた恭也の脚に横になっていた。


「……久しぶりにゆっくりできてうれしい」

「うん。後ディアンさんの悪魔が二体残ってるし、ヘクステラに関してもこれからすごく忙しくなると思うから今の内にゆっくりしておいて。その時になったらランにもがんばってもらうつもりだから」

「……任せて」


 これからよろしくと言いながら恭也がすっかり手慣れた様子でランの頭を撫でると、ランはくすぐったそうに目を細めた。

 ライカとアクアは二人で何やら話しており、時々聞こえてくる言葉から察するにそれぞれの恭也への評価について話している様子だった。


 姑息や善意を利用などといった不穏な言葉が聞こえてくるのが気にはなったが、一応二人なりに盛り上がっている様子なので放置していた。

 そんな魔神たちに対してアロジュートはこの数日事務的な会話をするだけに留めており、魔神たちも積極的にアロジュートに近づこうとはしなかった。


 アロジュートは恭也とは時折雑談をするのでアロジュートに他者と関わる気が全く無いわけではないのがせめてもの救いだったが、それでもここ数日恭也は魔神たちとアロジュートの間で微妙に気まずい思いをしていた。


 そしてヘクステラ王国とゼキア連邦の国境沿いの街の内、最も西にある街、ドパミアでの活動を終えた直後に恭也は『格納庫』からホムラの眷属を取り出した。

 厳密に時間を決めて行っているわけではないが、一日に何度か行っている情報交換のためだ。


 情報交換と言ってもほとんど近況報告で終わることが多く、ここ最近だけでもキスア侯爵が子供に当主の座を譲ったことやネース王国で闇属性の精霊魔法を使える子供が発見されたなど恭也の興味を引く情報も無いではなかったが大抵は一分以内で終わることが多かった。

 今回もそうなるだろうと考えて恭也は『格納庫』からホムラの眷属を取り出したのだが、恭也の前に呼ばれるなりホムラは慌てた様子で恭也に話しかけてきた。


「マスター、大変ですわ!トーカの南に上級悪魔が現れましたの!付近にいた眷属が偶然発見してすでに街の近くまで来ていますわ!」


 このホムラの報告を聞いた恭也はとうとう来たかと思いながら急いで城を近くの開けた場所に着陸させ、城の近くにライカの移動用の魔導具を設置した。

 その後『記憶読取』でホムラの眷属から上級悪魔の出現した場所の映像を読み取ると、恭也は急いで現場に転移した。


 恭也が現場に到着した頃にはトーカ王国南部の港街、ガジノは阿鼻叫喚の様相を呈していた。

 海から飛来した上級悪魔はまだ街こそ襲っていないものの陸地まで後わずかというところまで迫っており、上級悪魔の姿を見たガジノの住民たちは我先にと逃げ始めていた。


「よし、ぎりぎり間に合った」


 今回は適当に探索させていたホムラの眷属が偶然上級悪魔出現の現場に出くわしただけだったので手放しには喜べなかったが、『惨劇察知』で事件を知るよりははるかにましだった。

 恭也は光速で上級悪魔の進路上に移動すると『アルスマグナ』製の板を『格納庫』から取り出し、それを足場にして光線数十発を上級悪魔の顔に撃ち込んで上級悪魔の動きを止めた。


 今回の上級悪魔は恭也の知識で表現するなら竜に近く、体長は二十メートルといったところだった。『魔法看破』によると酸素を吸収して魔力に変換できる能力を持っていて保有魔力は十七万程だった。

 恭也が光線でつけた傷を上級悪魔が瞬く間に治し、それを見た恭也が上級悪魔に追撃を加えようとした時恭也の耳にディアンの声が届いた。


「よお、よく間に合ったな。今回は間に合わねぇのかと思ったけどわざわざゆっくり悪魔に移動させたかいがあったぜ」

「お気遣いどうも。後は僕がこの悪魔倒してそれで終わりですね。さっさと倒しますけど恨まないで下さいね?」


 恭也としてはディアンと会話するだけで不快だったのだが、恭也と上級悪魔との戦いを楽しみたければ街をいきなり襲わなければいいという恭也の提案にディアンが乗った以上最低限の会話はする必要があった。

 真偽は現時点では不明だがディアンが数十体の上級悪魔を所持している可能性がある以上、ディアンの興味を街の襲撃から恭也にそらす必要があったからだ。


「さっさと倒すねぇ。そういや俺のとこの魔神一体部下にしたそうだな?部下から連絡があった」

「ええ残りの一人も近い内に迎えに行くつもりです。あなたのとこにあいさつに行く日も近そうでうれしいですよ」


 ディアンの発言に挑発気味に返事をしながら恭也はディアンが口にした部下という言葉に驚いていた。

 ディアンの言う部下とはその口振りからして人間のようだったからだ。


 恭也としてはその辺りをもう少し突っ込んで聞いてみたかったが、まだ街を襲っていないとはいえ上級悪魔はすでに街を射程範囲に収めていた。

 今は上級悪魔を倒すのが先だと考えた恭也は、アロジュートをヘクステラ王国から呼び出して二人がかりで一気に上級悪魔を倒そうとした。

 そこに慌てた様子でディアンが待ったをかけてきた。


「ちょっと待て!お前ら二人で俺の悪魔と戦う気か?」

「はい。それが何か?」


 ディアンが自分たちを止めた理由が分からなかったため、恭也は思わず素で聞き返してしまった。

 そんな恭也に呆れた様子すら見せながら悪魔越しにディアンは口を開いた。


「さすがに異世界人二人がかりは勘弁してくれよ。これ結構前に創ったやつなんだぜ?」

「馬鹿馬鹿しい。あんたの都合に付き合う義理は無いわ」


 アロジュートはディアンの勝手な頼みを切り捨てて上級悪魔に攻撃を仕掛けようとしたが、今度は恭也がそれを止めた。


「何のつもり?まさかこの男の勝手な頼み聞くって言うんじゃないでしょうね?」


 ディアンのこれまでの所業を恭也から聞いていたアロジュートはここに来る前からディアンに強い嫌悪感を抱いていた。

 そんな中目玉の悪魔越しとはいえディアンと話したのだから、アロジュートの怒りは頂点に達していた。


 それに加えてまさか恭也にまで上級悪魔への攻撃を止められるとは思っておらず、アロジュートは先日戦った時さえ見せなかった鋭い視線を恭也に向けた。

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