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引越し

「どうぞ。好きに攻撃してみて下さい」


 そう言ってウルミスたちの前で棒立ちになった恭也を見て、ウルミスは探る様な視線を恭也に向けた。


「何のつもりだ?」

「そこまで深い意味は無いですけど、僕は今からこの国をめちゃくちゃにするつもりです。だから大切な魔導具を託されるぐらい信用されてるあなたの心を折っておけば今後楽かなと思って」


 恭也は『魔法看破』でウルミスが右腕に上級悪魔由来の魔導具を装備していることを確認しており、ちょうどいいと考えて十武衆の中でも女王から信頼されているらしいウルミスの心を折ろうと考えた。


「ふざけるな!」


 自分を愚弄しているとしか思えない恭也の発言を聞き、ウルミスは怒りの表情と共に手にした木製の剣を恭也ののどに突き立てた。

 木製といっても鋭く尖った剣先は恭也ののどを軽々と貫き、即死した恭也はいつも通り蘇るとウルミスの突き出した剣をまじまじと見ていた。


「へー、強い人が使うと木の剣でも人の体って貫けるんですね」

「なっ?……貴様何をした?」


 確かにのどを貫いたはずの恭也が何事も無かったかのように立っているのを見て、ウルミスは動揺を隠せなかった。

 しかも先程のどを貫かれた時に恭也は『腐食血液』を使用していたので、ウルミスの持っていた剣は大部分が腐食していた。

 何が起こっているのか分かっていない様子のウルミスに恭也は自分の能力を説明した。


「そんなに驚く必要は無いですよ。僕は一日に二百回までなら殺されても蘇ることができるんです。だから後百九十八回殺せばあなたたちの勝ちですよ?」


 恭也の説明を聞きウルミスは驚いた様子だったが、それでもすぐに自分を奮い立たせて隣にいる新人の女、パストに声をかけた。


「何を怯えている!十武衆になった時点で国に命を捧げる覚悟はできていたはずだろう!生き恥をさらすな!」


 そう叫ぶとウルミスは使い物にならなくなった剣を捨てて恭也に殴りかかってきた。

 先程の宣言通りしばらくウルミスに殴られていた恭也だったが、何の策も無く殴り続けてくるウルミスにしびれを切らして口を開いた。


「あの、大人しく攻撃を受けるのは別にいいんですけど、せめて僕が死ぬような攻撃をしてもらえませんか?『監視者』とかいう魔導具でここの様子を見てる人たちに僕の能力を見せるのが目的なんで、あんまり弱い攻撃ばっかりされても困るんですけど……」


 ヘクステラ王国に伝わる上級悪魔由来の魔導具の数は二つで、一つは今ウルミスが装備している『守護者』、そしてもう一つが『監視者』だった。

『監視者』はその名の通り千里眼の能力を持つ魔導具で、使用者が行ったことがある場所ならどれだけ離れた場所からでも様子を知ることができる。


 今もヘクステラ王国の女王やこの場にいない十武衆は『監視者』で恭也たちの様子を見ているはずだった。

 そうでなくては恭也がわざわざこんな嗜虐的な行為をする意味が無いので、ヘクステラ王国の首脳陣にはぜひともウルミスを含む二人の十武衆がなす術も無く恭也に敗れる様を見ていて欲しいものだ。


 そう考えていた恭也だったが、自分の絶え間ない攻撃を受けても無傷な上に挑発までしてきた恭也を前にしてウルミスの精神は限界を迎えそうになっていた。

 ウルミスが今回女王から託された魔導具、『守護者』は腕輪型の魔導具で、装着すると使用者は魔法が使えなくなる代わりに高い耐久力と再生力を得ることができる。


 一度装着すると装着者が死ぬまで外すことができないこの魔導具を自分に託してくれた女王の期待に何とか応えなくてはならない。

 そう考えて武器を失った後も目の前の異世界人に攻撃を仕掛けていたウルミスだったが、女王たちへの示威行為にすらならない戦闘にいつまでも付き合う義理は恭也には無かった。


「これ以上はお互い時間の無駄だと思うんでもう終わらせますね?」


 そう言うと恭也は『格納庫』から『アルスマグナ』製の剣を取り出し、『守護者』が装着されていたウルミスの右腕を斬り落とした。


「なっ……」


『守護者』を装備した自分の腕がたやすく斬り落とされたことにウルミスは驚き、傷口から伝わる痛みに反応できずにいた。

 その間に恭也は斬り落としたウルミスの腕を治し、その後無事に『守護者』を回収すると『格納庫』にしまった。


『守護者』が装着した人間が死ぬまで外せないというのは『守護者』を装着した者の腕を損傷させる方法が無いということが前提だ。

 そのため上級悪魔の能力の劣化版程度の能力なら容易に突破できる恭也は単純な力技で『守護者』を外すことができ、恭也が『守護者』を回収するまでの一部始終を見ていたウルミスはとうとう戦う気力を失った。

 そんなウルミスに一度視線を向けた後、恭也はパストに視線を向けた。


「えーっと、どうします?戦うっていうなら相手になりますけど」


 恭也に戦いの意思を確認され、パストはすぐに手にしていた木製の槍を床に捨てて両手を挙げて降参の意思を示した。

 十武衆が二人共戦意を失ったのを見届けた恭也は、そのまま振り向くと『監視者』でこの様子を見ているヘクステラ王国の首脳陣に今後の自分の予定と考えを伝えた。


「見てもらった通り僕に勝つのは無理です。この前あなたたちと別れた後で光と水の魔神仲間にしましたし、僕結構色々できるんで僕の能力に完全な対策取るのは無理だと思いますよ?」


 現時点で恭也の能力はかなり数が多く、正直なところ恭也本人ですら完全に把握しているとは言い難い。

 そのため恭也に勝とうと思ったら個別の能力に対策を取るという小賢しい真似はせず、ガーニスやアロジュートの様に対策も何もない力押しで圧倒するしかなかった。

 もちろんそれをこの世界の人間が実行するのが不可能なことは恭也にも分かっており、そうでなくてはいきなり城を襲ったりはしなかった。


「残りの一人の風の魔神も近い内に仲間にするつもりですし、後アロジュートさんお願いします」


 恭也に頼まれてアロジュートが姿を現すと、恭也は『監視者』でこちらを見ているはずのヘクステラ王国の首脳陣たちにアロジュートの説明をした。


「昨日説得して力を貸してくれることになった異世界人のアロジュートさんです。他にも二人力を貸してくれる異世界人が僕にはいるので、異世界人四人と魔神六人相手にしたかったら好きに抵抗して下さい。どっちにしろ前に言った通りこの国の貴族と、後ゼキアからエルフやラミアをさらって売りさばいていた人たちは僕が作った刑務所に入れるつもりですから」


 その後も話を続けようとした恭也だったが、隣にいたアロジュートが話の腰を折った。


「ちょっと待って。あの角の生えた女以外の異世界人ともあんた知り合いなの?」


 天使を使っての情報収集によりアロジュートはシュリミナの存在は知っていた。

 そのため恭也がシュリミナの協力を取り付けていることにはアロジュートは驚かなかったが、突然自分の知らない異世界人が話に出てきたため思わず尋ねてしまった。


 昨夜お互いについて簡単に教え合った恭也とアロジュートだったが、さすがに恭也がダーファ大陸でしたことを全て伝えるのは一晩では無理だった。

 ガーニスのことだけでも伝えておくべきだったと後悔しつつ、恭也はとりあえずヘクステラ王国の首脳陣との話を進めることにした。


「えーっと、すいません。僕がこの大陸以外の大陸でやったことについては後で説明します。とりあえず話進めさせて下さい」

「それもそうね。別に急ぐ必要も無いか」


 そう言うとアロジュートは再び体を解いて姿を消し、その後恭也はヘクステラ王国の首脳陣との話を進めた。


「もうあなたたちには期待できそうにないので、この国の人たちには僕の方からゼキア連邦の人たちを解放するように伝えます。どんなことをしてもあなたたちには報いを受けてもらうつもりですけど、自首してくれれば十年以内に釈放することを約束します。もちろん一か八かで僕に逆らってまた痛い目に遭いたいって言うならそれはそれで好きにして下さい。それじゃ」


 そう言うと恭也は魔神たちとの融合を解き、城の中にいた人間全員を洗脳して城の外に連れ出した。

と言っても城の中には玉座の間にいた兵士たち以外の人間はいなかったので、わざわざ洗脳までする必要は無かったのだが。


 恭也が洗脳した際にウルミスにヘクステラ王国の首脳陣がどこにいるかを尋ねたところ、ウルミスを含む城にいた兵士たちは女王たちの逃走先を知らされていなかった。

 考えるまでもなくウルミスが恭也に負けた場合に備えての配慮で、捨て駒にされたウルミスとパスト、その他の兵士たちに恭也は同情した。


「聞いてたと思いますけど女王様とか貴族以外をどうこうする気は無いんで、後は好きにして下さい。ただこれ以上僕の邪魔をするって言うなら僕も穏便に済ませる気は無いです」

「ふん。我々にしたことが穏便だと?笑わせるな。この偽善者め。せいぜい今の内にいい気になっているんだな」


 恭也の発言を聞き、多少気を取り直したのかウルミスが噛みついてきた。

 そんなウルミスに恭也は蔑む様な視線を向けた。


「他のところでも似た様なこと言われたんですけど、僕を馬鹿にする前に偽善者の僕が何とかしないといけないと思う程ひどい自分たちの国の現状を恥じてくれませんか?エルフやラミアがあんな扱いを受けてて、それを子供が何とも思ってないってほんと異常ですよ?僕を馬鹿にするのは勝手ですけど、自分たちがそれ以下の良識しか持ってないってことだけは自覚して下さい。それじゃこの城はもらっていきますね」

「は?」


 恭也の発言に何とか反論しようとしていたウルミスだったが、恭也が当然の様に口にした城をもらっていくという発言に思わず呆けてしまった。

 そんなウルミスたちが見ている前で恭也は城とその下の地面に『ヒュペリオン』を発動し、城を地面ごと地上五メートル程の高さまで浮かせた。


「ば、馬鹿な、城が、」

「こんなのに勝てるわけねぇよ」


 自分たちの目の前で巨大な城が浮くのを目の当たりにし、兵士たちは口々に驚きの言葉を発した。

 これなら恭也が何度も力を示さなくてもヘクステラ王国の国民たちも大人しくゼキア連邦からさらわれてきた国民たちを解放してくれるだろう。

 自分が浮かせた城を驚きと共に見上げる兵士たちを見てそう考えていた恭也に呆れた様子でアロジュートが声をかけてきた。


(やることが派手ね。そこまでしなくても奴隷連れてる連中片っぱしから襲えばいいじゃない。そうすればその内みんな奴隷手放すでしょ)


 恭也がヘクステラ王国の国民を威圧するために城を浮かせたのを知り、過激なことを言い出したアロジュートに恭也は素直な気持ちを吐露した。


(自分より弱い相手に暴力振るうのって疲れません?)

(別に?必要なら相手の強さなんて関係無く戦うだけよ)


 恭也の質問を迷わず切り捨てたアロジュートに恭也は自分の考えをもう少し詳しく説明することにした。


(僕は相手の強さに関係無く暴力振るうの自体が嫌いなんですけど、アロジュートさんみたいな強い人が相手ならまだいいんですよ。迷ってる余裕なんて無いですから。でもさっきみたいな場合はそろそろ話し合ってもいいんじゃないかなって考えが出てきて、でも気づいたら結局暴力で解決しててそれで落ち込むんですよね)

(さっきの男の言ってた通り、あんたって偽善者ね)


 恭也の悩みを聞き先程のウルミスと同じことを言ったアロジュートに恭也は苦笑した。


(それはそうですよ。世の中の大抵の人間は善人でも悪人でもなく偽善者で、僕は極普通の高校生、いやもう高校生ではないですけど、とりあえず極普通の人間ですからね。こいつら全員むかつくから刑務所に入れたいってなっても我慢しちゃいますし、人目があるといい恰好もしちゃいます)

(あたしの知ってる普通の人間は手足斬り落とされた次の瞬間に相手のことにらんだりはしないんだけど、まあいいわ。これからも精々偽善者でいて。それよりこの国の人間驚かすのが目的だっていうなら天使召還しましょうか?それなら見た目も派手でしょ?)


 アロジュートとしては恭也の行動は多少まどろっこしかったが、行動方針自体に文句は無かったので引き下がった。

 何をするかは考えるのは面倒だが過程には口を出すというアロジュートの振る舞いは身勝手極まりなかったが、恭也は特に気にした様子も無かった。


(それは助かりますけど神聖気とかいうの消費するんじゃないんですか?)

(大丈夫。あんたのおかげで大分回復したし、そもそも召還した天使はやられない限り消したら神聖気はあたしに戻ってくるから)

(なるほど、そういうことならお願いします)


 その後アロジュートは二百体の天使を召還し、それらの天使を左右に従えて恭也は城を街へと向かわせた。

『ヒュペリオン』は対象を上下に動かすだけならそれ程難しくないのだが、横に移動させるとなると慣れるまで手間がかかる。

 そのため恭也が浮かせた城は、時速十キロというゆっくりとした速度で街の人々に恐怖を与えながら前進していった。

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