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期待の新人

 アロジュートを『アルスマグナ』製の箱に閉じ込めた後、今も中から音がする箱の前で怯えながら恭也はランとライカと話をしていた。


(二人共ありがとう。アロジュートさん思ってたよりずっと強かったけど、二人のおかげで何とか勝てたよ)

(……ごしゅじんさまもすごかった。あんな強力な魔法使えるなんてさすがごしゅじんさま)

(そうっすね。師匠が魔法使えるっていうのは聞いてたっすけど、あそこまで強力な魔法使えるとは思ってなかったっす。できれば自分たち抜きで勝って欲しかったっすけど、相手が魔神呼んじゃったっすからしょうがないっすね。予想以上のもの見せてもらったし合格ってことにしとくっす)

(合格?何の話?)


 ライカが恭也を完全には認めていなかったことを知らなかったため、恭也はライカの発言を聞き疑問を持った。

 しかし自分の考えていたことをそのまま伝えたら恭也はともかくランは不快に思うだろうと判断し、ライカは話題を変えた。


(さすがは自分たちの師匠ってほめてるだけなんで気にしないで欲しいっす。それよりあの人間放っておいていいっすか?)


 ライカにそう言われて恭也はエイカに視線を向けた。


「これからの話をしたいとは思ってるんですけど、先にアロジュートさんとの話を済ませていいですか?」

「構わないわ。私は勝手にあなたたちの戦いに割って入ったんだから」


 エイカの許可をもらった恭也は、念のためにアロジュートを閉じ込めて二分程経ってから金属操作で箱を開けてアロジュートを解放した。


「僕の勝ちってことでいいですか?」


 アロジュートを解放してすぐに恭也はアロジュートに今回の戦いの勝敗を確認した。

 もちろん戦う前の取り決めに従えば恭也の勝ちだったが、アロジュートが自分はまだ戦えると言い出して約束を反故にする可能性も一応はあったからだ。

 しかし幸い恭也の心配は杞憂に終わった。


「ええ、あんたの勝ちでいいわ。最初から性格や行動方針は文句無しだったし、戦いの方も補助向けの能力しか持ってないのかと思ってたけど最後にすごいの見せてくれたしね。最後の魔法、氷ってことはあんた自身の能力なのよね?」

「はい。僕は自由にとはいきませんけど、一応魔神無しでも六属性全部の魔法が使えます」


 そう言って恭也はアロジュートと自分たちの会話を聞いていたエイカに自分の能力の内容を説明した。

 といっても恭也が他者の死で能力を獲得できることはオルフートの将軍を務めていたエイカはすでに知っていたので、恭也の説明を聞いて驚いていたのはもっぱらアロジュートだった。

 そして恭也が簡単に自分の能力の説明を終えた後、アロジュートがある提案をしてきた。


「へー、自分か誰かが死ぬ度に能力が増える……。じゃあ後何回か殺してあげましょうか?」


 そう言って鎌を手にしたアロジュートを見て顔を引きつらせたエイカの横で恭也は落ち着いた様子でアロジュートの提案を断った。


「気持ちは嬉しいですけど能力を増やそうと思って死んでも駄目なんです。もう同じ死に方はしたくないっていう僕の気持ちが必要なので、死ぬ時に悔しさを感じてないと駄目みたいで」

「だったらあの派手な魔法を使う能力、どんな状況で獲得したの?」


 一切悪気無くされたアロジュートのこの質問を受け、恭也はすぐに返事ができなかった。

 しかし積極的に話したいことではないがこれから行動を共にするとなるといずれ知られることになるだろう。

 そう考えた恭也は『六大元素』を獲得した時の状況を簡単にアロジュートに説明した。


「この前話奴隷を売ってた組織と戦って潰したって話はしましたよね?その時に自分の能力を過信して調子に乗って油断から百人以上の人を死なせてしまいました。その時獲得した能力です」

「ふーん。悪い事聞いたみたいね。でもあんた死んだ人間蘇らせられるんじゃないの?」


 わずかにとはいえ表情を曇らせた恭也を前に特に悪びれた様子も見せずにアロジュートは質問を続けた。

 そんなアロジュートの態度に特に気を悪くすることもなく恭也は口を開いた。


「その時は死んだ人の蘇生はできなかったんです。蘇生ができるようになったのはその事件からかなり経ってからで、さすがに死体が残ってないと蘇生は無理ですから」

「なるほど、自分のせいで人死なせた時点であきらめなかったことはほめてあげる。後あたしと最初に会った時に嘘ついて光の魔神部下にしに行ったしたたかさもね」

「それに関してはすいません。言い訳になりますけど火の魔神と闇の魔神できれば呼びたくなかったので」


 皮肉を言われたのだと思い謝った恭也だったが、アロジュートはそんな恭也を見て苦笑した。


「謝る必要は無いわよ。仮にもあたしの上司になるんだから、ただのいい子ちゃんじゃ困るわ」

「そう言ってもらえると助かります。これからよろしくお願いします」

「ええ、よろしく。これからあたしは基本的にあんたの指示に従うわ。でもあたしが従う価値が無いと判断したらすぐ殺すからそのつもりでいて」


 このアロジュートの発言を聞きランとライカがアロジュートに警戒心を示したが、言われた恭也は全く動じなかった。


「僕が人助けをしてる限りは力を貸してくれるんですよね?だったら大丈夫です。アロジュートさんに失望されないようにがんばりますね」


 自分の脅しを恭也に軽く聞き流され、アロジュートは不満そうな顔をした。

 しかし無事にアロジュートの協力を取り付けた恭也はアロジュートの不満も受け流し、さっそくアロジュートにあることを頼んだ。


「アロジュートさんが僕の能力にかけた制限何とかしてくれませんか?」


 一時間後に復活するという恭也の能力は、それを知らない相手から確実に逃げられる恭也の奥の手だった。

 だから一刻も早く元通りにしたいと恭也は思っていたのだが、アロジュートの返事は恭也にとって残念な内容だった。


「ごめん、無理。あたしの能力ってあたしとあたしの能力は消せないの」

「えっ、じゃあこれずっとこのままですか?」


 戦闘中は余裕が無かったため恭也はアロジュートの『ミナリカ』を『魔法看破』を使用して見ていなかった。

 しかしアロジュートの発言を聞き驚いた恭也は、慌てて自分の体を見てアロジュートの説明が正しいということを知った。


 恭也の能力そのものへのダメージもそれを与えたアロジュート本人なら消せると恭也は考えていた。

 しかしアロジュート本人にそれを否定され、『魔法看破』でも自分の能力を元通りにするのは不可能と確認した恭也は自分で思っていた以上の精神的ショックを受けた。

 そんな恭也を見かねたのかアロジュートが恭也に声をかけてきた。


「あたしが言うのも何だけど、元に戻せないものはしょうがないじゃない。復活自体はできるんだからそれ程気にしなくてもいいでしょ?」

「確かにアロジュートさん仲間にできたこと考えれば結果的に得ですね。殺されたのなんて久しぶりでしたし」


 恭也の復活に制限ができたことを差し引いても今回アロジュートを仲間にできたことは間違いなく大きな成果で、アロジュートの言う通りこれ以上この件について話すのは不毛だ。

 そう納得した恭也はエイカに視線を向けた。


「これからどうしますか?できればエイカさんにも力を貸してもらいたいと思ってるんですけど」

「それだけの力を持っていて私の力なんか必要無いでしょう?」


 元々恭也に反感を持っていたエイカだったが、心の拠り所の一つであった自分の精霊魔法を遥かに超える出力の魔法を恭也に使われたことでエイカが恭也に向ける感情は複雑なものになっていた。

 しかしそんなことを知る由も無い恭也は、一度断られたぐらいであきらめることなくエイカを勧誘した。


「もう聞いてるかも知れませんけど僕はギルドという組織を作ろうと思っています。そのためにはたくさんの人の協力が必要で、エイカさんみたいに強い人にギルドを助けてもらえるとすごく心強いです。それに僕がこれからすること見張るつもりならギルドにいた方がエイカさんとしても都合がいいんじゃないですか?」


 恭也に説得され、エイカはしばらく考え込んでから口を開いた。


「あなたの指示に従うのはしゃくだけど確かにそっちの方が都合がよさそうね」

「それならここから一番近くのトーカの街、エブタのギルド支部で働いてもらえませんか?」


 この恭也の発言を聞きエイカは眉をひそめた。


「あなたトーカの協力をどうやって取り付けたの?いくらあなたが強くてもこの短時間でトーカを説得するのは無理でしょう?」

「いえ、協力してもらったわけじゃなくて街は無理矢理奪いました。元々そういう話だったんで」


 そう言って恭也がトーカ王国から街三つを取り上げた経緯を説明すると、アロジュートもエイカも言葉を失っていた。

 もっともアロジュートは笑いをこらえている様子だったので、恭也がトーカ王国におこなったことを聞き引いているエイカとは黙り込んだ理由は違うようだった。

 とりあえず恭也はアロジュートを放置し、恭也の話を聞いて黙り込んでしまったエイカに改めて今後についての確認をした。


「どうしますか?僕のやり方が力づくなことは否定できないので、もしそれが嫌なら無理に力を貸してもらうつもりはないですけど……」

「あなたが自分の考えを力づくで押し通す人間なことはとっくに分かってるから今さらよ。妹も雇ってもらえるかしら?」

「妹って学者をしてるっていう人ですよね?あの人までくびになったんですか?」

「ええ、おかげ様でね」


 そう皮肉気に言い放ったエイカを前に恭也は呆れていた。

 といってもエイカに呆れたのではなく、エイカだけでなく話に聞いた限り優秀らしい学者の妹も手放したオルフートの王、ヘイゲスに恭也は呆れていた。


 これだけ優秀な人材を二人も手放したとなると今後のオルフートの損失は計り知れないからだ。

 しかしそれと同時にヘイゲスの思慮が足りなそうな言動を思い出すと納得もできたので、この件について恭也はこれ以上の発言は避けた。

 しかし一つだけ気になることがあった。


(ランから魔力奪ってた人雇うことになるけどランは平気?)


 恭也が聞いたところによると、オルフートはランからもシュリミナからも一年以上に渡り魔力を抜き出していたらしい。

 それを考えるとランはオルフートにいい感情は持っておらず、その首謀者の学者、(イオンというらしい)ともなると憎しみも一層深いだろう。

 そう考えての恭也の質問だったが、ランの反応は恭也が思ったよりも薄かった。


(……魔力吸われてたのは昔のことだしもうそんなに怒ってない。その人間はごしゅじんさまの役に立つんでしょう?だったらこき使ってもらった方が私もすっきりする)

(分かった。ランがそう言うならそうさせてもらうよ)


 もちろんイオンを特別こき使うつもりは恭也には無かったが、ランの手前ランの発言を肯定すると恭也は『格納庫』からホムラの眷属を取り出した。


「ホムラ、この人はエイカさん。水属性の精霊魔法が使える人でオルフートの元将軍。優秀な学者の妹さんと一緒にエブタのギルドで働いてもらうことになったからよろしく」

「……ああ、この方が。眷属越しに失礼しますわ。わたくしはマスターにお仕えしている火の魔神のホムラと申しますわ。エイカ様の噂はいくつも聞いていますので一緒に働けるのは大変光栄ですわ。よろしくお願いしますわ」

「眷属?これは火の魔神じゃないの?」


 突然恭也が取り出したホムラの眷属を見て戸惑うエイカに恭也はホムラと眷属について説明し、それが終わったのを見計らってホムラが口を開いた。


「そちらの方がアロジュート様ですわよね?私自身ではなく眷属を取り出したということは話し合いは済んだということでよろしいんですの?」


 表情にこそ出さなかったものの、アロジュートの件で呼ばれたのだと思ったらエイカを紹介されてホムラも多少困惑していた。

 そんなホムラに恭也はアロジュートとの決着がついたことを伝え、その後ホムラがアロジュートへのあいさつを終えると恭也はホムラの眷属を『格納庫』にしまった。



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