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死の超克者の世界征服(おかげさまでPVが14万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
ギルド普及編

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消耗戦

 恭也はアロジュートにかぶせる形で『格納庫』から『アルスマグナ』製の箱を取り出した。

 この箱は本来は敵が広範囲をまとめて吹き飛ばす技を使ってきた時の避難用に用意したもので、突然この箱をかぶせられてアロジュートは驚いた様子だった。


「ちょっ、何よこれ、消せないじゃない!」


 突然閉じ込められたことに慌てている様子のアロジュートだったが、『アルスマグナ』製の箱は消せなくても下の地面を消せば脱出は容易だろう。

 そのため恭也は急いで光速移動で穴から抜け出した。

 その後恭也が穴から抜け出してすぐにアロジュートも穴から脱出し、再び二人は対峙した。


「次から次にうっとうしいことしてくれるわね」

「それしか取り柄が無いもので。文句言いたいのはこっちの方ですよ。まさか能力を直接消されるなんて……」

「文句言う割には慌てた様子が無いわね。あんたの能力、死ぬ度に強くなる能力らしいからまた強くなったのかしら?」


 アロジュートに自分の能力の内容を言い当てられ、恭也は動揺を顔に出さないように努めた。

 しかし百戦錬磨のアロジュートには恭也の腹芸は通用せず、アロジュートは笑みを浮かべた。


「図星だったみたいね。でもあたしの『ミナリカ』であんたの能力全部は無理でも少しは消せたはず。後何回蘇られるか試してあげるわ」


 そう言って斬りかかってきたアロジュートと恭也は接近戦をすることになったのだが、まるで勝負にならなかった。

 最初は怪力のおかげでアロジュートを牽制できていた恭也だったが、恭也が怪力を持っていると知ったアロジュートはすぐに対応してきた。


 その結果恭也が力任せに振るった剣は何度もアロジュートの持つ鎌に絡め取られ、その度に恭也は殺された。

 剣を奪われたと思った次の瞬間には右腕の肘から先が斬り落とされており、すぐに光速移動で逃げた恭也だったがアロジュートの召還した天使の集団に逃げ道を防がれてそのまま斬り殺された。

 その後すぐに蘇った恭也は剣を奪われないように左手を剣の刃に添えてアロジュートの攻撃を防ごうとしたのだが、それを見たアロジュートは鎌の一振りで恭也の両脚を切断してきた。


「えっ?」


 恭也は自分の脚が斬られるまで全くアロジュートの攻撃に気づかず、体勢を崩したところで心臓を鎌で貫かれてあっさりアロジュートに殺された。

 その後もアロジュートは恭也を攻め続けた。


 首を斬り飛ばす。頭を殴って首の骨を折る。心臓に鎌を刺しっぱなしにするなど様々な方法でアロジュートは恭也を殺し、特に鎌が刺さったままでの放置は恭也単独では対処できなかっただろう。

 恭也が仮死状態になったためランとライカが召還され、二人がアロジュートの隙を作り何とか危機を脱したがおそらく同じ手は二度と通じないはずだ。


 この世界に来てからの恭也は、敵の攻撃を受けた場合は即死か全く効かないのどちらかがほとんどだった。

 そのため今回の戦いの様に殺されるまで体中を何度も斬り刻まれてるというのは初めての体験で、恭也は精神的にかなり疲弊した。

 結果として五分間でアロジュートに二十七回殺された恭也は、光速移動で一度アロジュートとの距離を取った。


(師匠、自分が一っ走りして光の精霊かき集めて来るっていうのはどうっすか?『リブラーシュ』さえ撃てれば、あの女倒すのは無理でもかなり魔力を削れると思うっすよ?)


 ライカからの提案を受け、恭也は素早く今後の作戦を考えた。

 この数分間で何度も殺された結果、恭也は新たな能力、『痛覚遮断』と『腐食血液』を獲得した。

 この内『腐食血液』は恭也の体から流れ出た血に触れた物を生物なら腐らせ、金属なら錆びつかせて崩壊させる能力だった。


 しかしどちらもアロジュートの近くでは発動すらせず、仮にこのまま殺され続けて能力が増えたとしてもアロジュートに通用する能力は獲得できないだろう。

 そう考えると今持っている能力でアロジュートには対抗するしかなく、ライカの提案は聞いた限りでは悪くないように思えた。

 しかし座天使とやらが展開した結界の外から精霊が入って来る度にアロジュートが全て消しているのを見ていたため、恭也はライカの提案を却下した。


(ライカが精霊連れて来てもすぐに消されて終わりだと思うよ。さっきからアロジュートさん入って来た精霊は全部消してるし)

(でもこのままじゃじり貧っすよ!自分が何度も精霊連れて来れば、その内あの女の魔力も切れるんじゃないっすか?)


 理屈の上ではそうでもその作戦を実行した場合、確実にアロジュートの魔力が切れる前に恭也が二百回殺されてしまうだろう。

 そう考えた恭也は『無敵化』を軸にして何とかアロジュートの動きを止める作戦を考えようとした。


 しかし結局ランとライカの能力が制限されたままではアロジュートに勝てないという結論になり、恭也はライカの案の方向性だけ採用することにした。

 こうして恭也の考えがまとまった頃、アロジュートが恭也に斬りかかってきたので恭也は光速移動でアロジュートの攻撃から逃れた。


 これまでの攻防で恭也も無抵抗でいたわけではない。

 アロジュートに殺されながらも恭也は少しずつ天使を倒し続け、その結果アロジュートは神聖気切れで天使の召還ができなくなっていた。


「そうやってずっと逃げ続ける気?数日かけてあたしの魔力切れ狙うつもりだって言うなら、正直幻滅なんだけど」


 光速移動を持っている恭也に逃げに徹されるとアロジュートも対処のしようがない。

 そのためアロジュートは恭也を挑発しようとしたのだがそれは無用の心配だった。


「安心して下さい。時間があればそれでもよかったんですけど、明日ヘクステラって国に行く用事があるのでそろそろ終わらせます」

「へぇ、言ってくれるじゃない。まるでもうあたしには勝ったみたいな口振りね」

「はい。魔神を一人しか仲間にしていないあなたが持ってない切り札を僕は持ってますから」


 そう言うと恭也は『能力合成』で『精霊支配』と『救援要請』を融合し、それによりできた能力を使い周囲の空間に水以外の精霊を出現させた。

 アロジュートは対象を消滅させる能力を持っているため、能力の対象がそこにあればたとえアロジュートが視認できなくてもその存在を感じ取ることができた。

 そのためアロジュートは自分が消したはずの精霊が周囲に突如として出現したことを感じ取り、表情にこそ出さなかったものの驚いた。


「ふーん。こんなことまでできるんだ。でも何度やっても無駄よ」


 恭也のしたことに驚いたアロジュートだったが、涼しい顔で再び周囲の精霊を水属性のみ残して消滅させた。

 しかしその後すぐに恭也が再び精霊を別の場所から持ってきたため、アロジュートの表情が変わった。


「これだけの数の精霊を何度も用意できるっていうの?」

「はい。あなたが精霊を消すっていうのなら何度でも。でもこれだけ広い範囲の精霊何度も消すとなると魔力も結構かかるんじゃないですか?」


 恭也に図星を刺され、アロジュートは返事ができなかった。

 今回アロジュートが精霊を消滅させている範囲は直径一キロに及び、空気中はもちろん地下にまで及んでいた。

 これだけ広範囲への能力の行使にアロジュートは一万近い魔力を消費していた。


 そのかいあって恭也の連れてきたランとライカの能力は大きく制限されていたのだが、恭也が気軽に大量の精霊を二度も用意したためアロジュートは三度目の精霊消去をためらった。

 しかし相手も同じ異世界人なのだから、大量の精霊を二度も用意したとなると目の前の少年もかなりの魔力を消費しているはずだ。

 そう考えたアロジュートは恭也に話しかけた。


「確かにあたしは魔力をかなり消費してるけど、それはあんたも同じでしょう?」


 このアロジュートの指摘に恭也は笑みを浮かべた。


「仮にそうだとしても僕の方が魔神一人分魔力は多いんですから、このまま魔力の削り合いすれば結局僕が勝ちますよ?」


 実際は恭也たちは三人合わせて魔力が二十万しかない状態で今回の戦いに臨んでおり、その上精霊の召還には最低二万の魔力を消費する。

 それに加えて現時点ですでに『能力合成』の効果が切れていたため、恭也の発言は虚勢もいいところだった。

 しかしアロジュートにそれを知る術は無く、アロジュートにこれ以上精霊の消去に魔力を回すという選択肢は無かった。


「分かったわ。お望み通り小細工無しで戦ってあげるわよ!」


 そう言って恭也に斬りかかろうとしたアロジュートに先程の戦いで地面に落ちたまま放置されていた『アルスマグナ』製の剣が飛来した。

 能力によりそれを察知したアロジュートはそれを難無く回避したが、アロジュートの顔に余裕の色は無かった。


 現在アロジュートの保有魔力は十二万程で、アロジュートは恭也がまだ魔力を二十万以上保有していると思っていた。

 この時点の恭也の保有魔力は三人合わせて十七万程だったのでアロジュートの予想は間違っていた。


 しかしアロジュートから見れば恭也は魔力量で自分を大きく上回り、その上魔神の能力使用に必要な精霊もたやすく用意してみせる相手だった。

 それに加えて自分の能力でも消せない剣数本が絶えず襲ってくるのだ。


 アロジュートは自分が追い込まれているのを感じた。

 水の魔神と融合して『魔神化』すれば剣による攻撃は無視できるが、『魔神化』している間アロジュートは天使としての能力が使えなくなる。


 今『魔神化』したらガイサムが消えてしまい、そうなったら目の前の少年は何をしてくるか分かったものではない。

 そう考えたアロジュートは現時点で手数で負けている上に他にどんな能力を持っているか分からない相手に長期戦は不利と判断して勝負に出ることにした。


 目の前の少年も無限に復活できるわけではないはずだ。

 いくらかの希望も込めてそう判断し、アロジュートは一気に攻勢に出た。

 まずアロジュートは水の魔神を召還し、恭也の右に巨大な氷の壁を創らせた。


 その後水の魔神が恭也の頭上を抑えるために飛んだのと同時に恭也の左にいたガイサムが恭也目掛けて拳を振り下ろしてきた。

 ガイサムが結界を張るだけの存在だと油断していた恭也は、慌ててランを召還してガイサムの攻撃を受け止めさせた。


「アロジュートさんはこっちで何とかするから、ランはそっちに集中して!」


『アルスマグナ』製の板を足場にしてガイサムの拳を止めるランに恭也はこちらのことは気にしないように伝えた。


「……大丈夫。こんなのすぐに倒してごしゅじんさまのところに行くから」


 ランの声を背に受けながら恭也はライカを召還した。


「水の魔神は任せるね!今も水の魔神アロジュートさんの能力持ってるみたいだから気をつけて!」

「りょーかい!さくっと勝って合流するっすから期待して待ってて欲しいっす!」


 正直な話、『魔法看破』で能力が分からないガイサムと戦うランと違い、同じ魔神である水の魔神と戦うライカには恭也は勝利を期待していた。

 同じ魔神同士の戦いなら勝敗は単純に保有魔力で決まり、恭也は今回ランとライカ両方に魔力を三万ずつ渡していた。


 確かに『魔法看破』はアロジュートに通用しなかったが、『シュモアワ』に加えて切り札と思われる能力による恭也の能力への干渉と精霊の消去を行ったのだ。

 アロジュートが魔力を少なく見積もっても七万消費していることは恭也も分かっていた。


 そのため恭也が今も二十万以上の魔力を持っていると思っているアロジュートがこの状況で水の魔神に四万以上の魔力を与えるとは考えにくい。

 そう判断した恭也は、少なくともライカは勝つだろうと思いながらアロジュートと対峙していた。


「最終的に一対一になっちゃいましたね」

「えぇ、でもあんたの力を見定めるって意味ではちょうどよかったわ。悪いけど魔神が来るまでの時間稼ぎに付き合う気は無いからさっさと始めるわよ」


 少しでも会話をしてランとライカが勝利するまでの時間稼ぎをしようとした恭也だったが、アロジュートは恭也の意図を見抜き即座に斬りかかってきた。

 ライカがいないため恭也は『高速移動』でアロジュート相手に時間稼ぎをしようとした。

 しかし『高速移動』の移動速度は精々時速百キロといったところなので、アロジュートはすぐに対応して攻撃を当ててきた。


「光の魔神がいないとずいぶん遅くなるのね。そんなことで魔神が来るまで耐え切れるかしら」


 光速と比べると劣るにしても恭也の能力での移動だって常人ならとても対応できない速度のはずだ。

 それにあっさり対応して攻撃を当ててきたアロジュートに恭也は理不尽さを感じたものの、特にこれといった打開策も思いつかないまま再び恭也はアロジュートに殺され始めた。

 

 一方ガイサムと戦っていたランは終始戦いを優位に進めていた。

 九つある天使の階級の内上から三番目にあたる座天使の階級にいるガイサムは、本来なら上から六番目の階級、能天使に位置するアロジュートとは比較にならない程の力を持っている。


 しかし今ランが戦っているガイサムはアロジュートが神聖気で一時的に召還したまがい物で、能力も限定的だ。

 そのためこのガイサムは空間転移を封じる以外には殴りつける程度のことしかできず、元々空間を操ることなどできないランにとってはただ巨大なだけの敵だった。


 ガイサムが空を飛んでいるためランの魔法で捕縛できないのが多少厄介ではあったが、ランが周囲の土から創り出した刃による攻撃がガイサムに通用した時点でランは自分の勝利を確信した。

 今もすでに傷だらけのガイサムが拳を振り下ろしてきたが、ランはそれを両手で受け止めると先程創り出した全長十メートルの刃を操りガイサムを斬りつけた。


 まがい物とはいえ座天使のガイサムにただ巨大なだけの刃で致命傷を与えることはできなかったが、それでもランが何度も刃を操ると刃はガイサムの体を確実に斬り刻んでいった。

 この一方的な戦いはアロジュートが恭也の『空間転移』対策のために無理をして位の高い天使を召還したのが原因で、アロジュートが自分より一つだけ位が上の天使を召還していたらランもこれ程楽には勝てなかっただろう。

 そんなことは露知らず、ランはライカより先に恭也のもとに駆け付けようともはや作業となり果てたガイサムとの戦いに意識を集中した。

 

 ランがガイサム相手に優位に戦いを進めていた頃、ライカは水の魔神とじりじり魔力を削るだけの消耗戦を行っていた。


「うーん。魔力を消耗するだけでいまいちぱっとしないっすね。もっとあの異世界人の能力使ってくれていいっすよ?」


 そう言うとライカは光線数発を水の魔神目掛けて放ち、それを水の魔神はアロジュートの能力で消滅させた。


「私の役目はあなたの足止めです。あなたたちさえ引き離せばご主人様があの人間を倒します」


 終始事務的にライカの相手をする水の魔神にライカはつまらなそうな顔をしたが、水の魔神の発言の内容が少し気になったのでそれを指摘した。


「それはどうっすかね?一回や二回なら殺せるとは思うっすけど、師匠を殺し切るのは骨が折れると思うっすよ?」

「それはどういう意味ですか?」


 水の魔神としては今戦っている光の魔神を足止めできればよかったので、光の魔神の意味深な発言を聞き質問をした。


「そのままの意味っすよ?師匠は正直強さは微妙っすけど、ほんとしつこいっすから。自分も時間はかかるけど勝つのは簡単だと思ってたらいつの間にか負けてたっす」

「とてもそうなるとは思えませんけど……」


 そう言って水の魔神が視線を向けた先では恭也がアロジュート相手に防戦一方だった。

 その様子を見たライカは水の魔神にある提案をした。

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