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光の魔神

『リブラーシュ』は半径五百メートルを焼き尽くす巨大な光弾を発生させる技で、光弾を発生させる場所は光の魔神の視界内なら任意の場所を指定できる。

 その上『リブラーシュ』により光弾が発生した瞬間は周囲の時間が停止する。


 つまり『リブラーシュ』は回避不可能な技なのだがガーニスなら大量の盾で、シュリミナなら体が焼かれたそばから再生することでそれぞれしのぐことは可能だ。

 しかしこれによりどちらも二万近い魔力を消費し、攻撃自体は受けることが前提となる『リブラーシュ』は持っている能力次第では異世界人でも対抗できない技だった。


 光弾の威力ももちろん高く、恭也の能力で『リブラーシュ』に正面から対抗できるのは『無敵化』だけだった。

 しかし十秒近く効果範囲を照らして焼き尽くす『リブラーシュ』に対して『無敵化』を使っても魔力が持たない。

 そのため恭也は光の魔神の『リブラーシュ』に対して何もせず大人しく焼き殺された。


「あれ?あれだけ自信満々だった割には妙にあっけないっすね」


『リブラーシュ』の光が収まった後、自分が戦っていた異世界人が跡形も無く消し飛んだことに光の魔神は拍子抜けした。

 しかし敵が死んだにも関わらず自分が封印されないことに気づき、光の魔神は異空間全体を埋め尽くす形で体全体から光線を放った。

 しかし光の魔神の放った光線は何も無い空間を通過するだけだった。


「どこ行ったっすか?隠れてないで出てくるっす!」


 自分を倒さない限り出られないこの空間から突如敵が姿を消したことで光の魔神は激しく動揺した。

 その後二回程光線数十発を放った光の魔神だったが、結局何の手応えも無く途方に暮れた。

 そして一時間後、恭也が光の魔神の前に姿を現すと光の魔神はすぐに大声をあげた。


「やっぱり生きてたっすね?『リブラーシュ』受けるとか言っといて逃げるなんて卑怯っす!というかどうやって逃げたっすか?」

「僕の能力は死んでも蘇るって能力なんですよ。だから逃げたわけじゃなくて、あなたの攻撃受けてちゃんと死にましたよ?」

「……最初かそうやって逃げる気だったっすね?ずるいっす!」


 光の魔神の批判はもっともだと批判されている恭也すら思った。

 魔神の最強の技を受けた際に無抵抗に殺されて一時的にその場を逃れるという恭也の戦術は、魂まで殺す『ミスリア』を持つウル以外の魔神では対抗策が無い。


 魔神以外と戦う際は敵を放置できないなどの理由で使用できないこともあるが、恭也はこの『死に逃げ』が自分の持つ能力の中で一番有用だと思っていた。

 もっともされる方からすればたまったものではなく、実際にこれを使用した際のウルと光の魔神の反応を見るまでも無く恭也もこれがかなり不快な戦法なことは理解していた。


 ディアンの様な敵ならともかくこれから一緒にやっていく光の魔神にはその内何か埋め合わせをしなくてはならないだろうと恭也は考えたが、とりあえず今は勝負を終わらせるのが先だ。

 そう考えた恭也は怒りが収まらない様子の光の魔神に話しかけた。


「僕のこの戦法がずるいっていうのは否定しません。でもこういうずるいことしてくるのが異世界人で、僕程度でずるいとか言ってたら他の異世界人には勝てませんよ?僕は少なくとも一人の異世界人と戦わないといけません。だからあなたの力も必要なんです」


 自分の批判に全く動じた様子を見せない恭也を見て、光の魔神は渋々恭也への批判を止めた。


「負けたらもちろん言う事聞くっすけど、でもそっちの能力が分かった以上こっちもそう簡単には負けないっすよ!そっちも何度も蘇られるってわけじゃないっすよね?こうなったら何時間でも付き合ってやるっす!」


 魔力が半分を切っているにも関わらずまるで闘志を絶やさない光の魔神だったが、長期戦覚悟の光に魔神に恭也は安心するように告げた。


「それに関しては安心して下さい。あなたの魔力が五万切った時点でもう勝負は終わった様なものですし、仮に僕が殺されても今度はすぐに蘇るので」


 先程は『リブラーシュ』から逃げるために一時間かかる通常の復活を行ったが、もう『リブラーシュ』が使われる恐れが無い以上遠慮無く『即時復活』が使えた。

 恭也は以前から復活にかかる時間が一瞬か一時間の二択なのは不便だと考えていた。


 何も無い空間で一時間以上相手を待たせるのは恭也としても良心が痛むので、できれば三十秒後に復活といった調整ができれば便利だ。

 特に今回は戦闘後にアロジュートとの戦闘という予定が入っていたため、そういう意味でも時間の浪費は避けたかった。


 恭也のこの考えが反映され、先程『リブラーシュ』を受けて死んだ際に恭也は新しい能力、『能力設置』を獲得した。

 この能力は手のひらで触れた場所に恭也の能力を設置できる能力で、発動時間は五秒後から三十秒後の間で指定できる。


 もっとも『能力設置』は『無敵化』や『束縛無効』、そして恭也の能力の根幹である復活といった恭也自身を対象とした能力には使えない。

 そのため『能力設置』は復活にかかる時間が自由にならないという恭也の悩みを解決できる能力ではなく、『魔法看破』でそれを知った恭也はがっかりした。


 しかし蘇ることができるだけでも十分で、それに時折りおまけがついてくるのが自分の能力だと恭也は考えていた。おまけの部分に文句を言ってもしかたがないと考え、恭也は予定通り『能力強化』で強化した『救援要請』でランを召還した。


「な!どうしてここに魔神呼べるっすか?あなたの能力って一体……」

「とりあえず細かい説明はあなたを倒してからってことで。ラン、お願い」


 そう言うと恭也は『格納庫』から大量の土を取り出し、『物質転移』で光の魔神の足下に土を転移した。

 それを見た光の魔神は即座にその場を離れようとしたが、それより先にランが『オリンカム』を発動した。


 恭也に召還されるのを今か今かと待っていたランの発動した『オリンカム』に捕らわれ、光の魔神は地面から足を離せなくなった。

 光の魔神の移動は転移ではなくあくまでも光速で動いているだけだ。


 そのため一度束縛されると束縛しているものを破壊するしかないのだが、魔神が他の魔神の最強の技に対抗しようと思ったら自分も大技を使うしかない。

 しかし今の光の魔神が『リブラーシュ』を使ったら魔力が切れてどの道負けてしまう。


 悪魔や魔神といった体が魔力で構成されている存在が『オリンカム』に捕らわれた場合、その魔力は土の精霊に変換されてしまう。

 敵の攻撃で消滅するのと攻撃で魔力を使い切り消滅するのなら後者の方がましだと考え、光の魔神は即座に自分を中心とする形で『リブラーシュ』を発動した。


「ちえっ、そっち選んだか」


 無抵抗でやられるぐらいなら最後まで戦ってみせるという判断なのだろうが、恭也は攻撃を受ける際の痛みを感じないわけではない。

 そのためできれば恭也としては光の魔神には無抵抗で『オリンカム』でやられて欲しかったのだが、残念ながらそうはならなかった。

 先程の全身を襲う熱さを思い出した恭也を再び『リブラーシュ』の光が包み、一瞬の痛みの後に恭也は絶命した。


「ずるいっす、ずるいっす、ずるいっす!」


 戦いが終わり恭也との契約が結ばれた直後、光の魔神は怒りが収まらない様子で恭也の戦術に対する不満の言葉を連呼していた。


「自分の攻撃受け切って見せるとか言っといて、あんな方法で逃げるなんて恥ずかしいと思わないっすか?」

「いや、別に。スポーツやってるわけじゃないですし」

「すぽーつ?よく分からないっすけど、最低限の礼儀ってあると思うっす!」


 光の魔神の批判を受けても特に表情を変えない恭也に光の魔神はますます怒りを募らせた。

 そんな光の魔神の様子を見て、これまでの恭也と光の魔神のやりとりを聞いていたランが恭也に話しかけてきた。


(……ごしゅじんさま、もうごしゅじんさまが勝ったんだから光の魔神の言う事なんて無視すればいい)

(それはしたくないよ。こっちから襲った以上それこそ最低限の礼儀ってあると思うし、それに無理矢理言う事聞かせてる相手に単独行動とか怖くて任せられないし)


 魔神が主に逆らえない以上恭也が命じれば魔神の言動を束縛することは可能だろう。

 しかし人命がかかっているわけでもないのに力で相手を従えるのは恭也の主義に反する。

 また無理矢理命令するという形で何らかの仕事を任せた場合、それは命令されなかったからしなかったなどと光の魔神が言い出す可能性もある。

 そのため恭也としては光の魔神には自主的に力を貸して欲しかったので、勝負に勝って従えている時点で自主的も何もないだろうと自分でつっこみながら恭也は光の魔神に話しかけた。


「礼儀って言われても僕たち別に試合したわけじゃないですし、自分の得意分野で戦うのは当たり前だと思いますよ?だから光の精霊しかいないあなたにすごく有利な空間であなたが精霊魔法遠慮無く使ってきたことも腕力で圧倒的に不利な僕にあなたが接近戦仕掛けてきたことも全然気にしてませんし」


 恭也のこの皮肉交じりの発言を聞いても光の魔神は表情を変えず、恭也に質問してきた。


「異世界人っていうのは全員あなたみたいに強いっすか?」

「僕異世界人で一番弱いと思います。今まで二人の異世界人に会いましたけど、ルール無しの殺し合いなら僕どっちにも負けると思いますし」

「へぇー、あなたで一番弱いっすか……」


 この発言の後しばらく黙り込み何やら考えている光の魔神を見て、恭也は光の魔神がウルと似た様な性格であることを察した。


「言っときますけどどっちにもけんか売っちゃだめですよ。どうしても異世界人と戦いたかったら、さっき言った通り倒すつもりの異世界人が一人いるからその人で我慢して下さい」

「その人もあなたより強いっすよね?どうしてわざわざ戦うっすか?あなた強敵と戦うのが好きって感じじゃないっすけど」


 光の魔神のこの質問に対して恭也は即答した。


「もちろん相手の強さに関係無く戦いは嫌です。でも人を殺すことを楽しんでる人間をそのままにしておくのはもっと嫌なので。ディアンって人はこういうことをしてる相手なんです」


 そう言って恭也は『情報伝播』を使い光の魔神にディアンが創り出した上級悪魔の暴れている様子を見せた。


「へぇ、ずいぶん派手にやってるっすね」


 恭也が見せた映像に特に嫌悪感を示さず、むしろ楽しそうにさえした光の魔神に恭也としては思うところがあった。

 しかし魔神との付き合いもそれなりに経験してきた恭也は、これを言ってもしかたないと考えて別のことを口にした。


「後言うの忘れてましたけど、四日後には別の異世界人、それも水の魔神と契約してる異世界人と戦うことになってます。その異世界人は仲間にしたいと思ってるんで何でもありの戦いにはならないと思いますけど、僕と一緒にいれば退屈はしないと思いますよ?」

「その異世界人は人殺して回ったりはしてないっすか?」

「はい。自分に勝てたら仲間になるってあっちから売り込みに来ただけで、別に暴れたりはしてません」


 恭也のこの発言を聞き、しばらく考え込んでから光の魔神は口を開いた。


「あなたといると退屈はしそうにないっすね。それによく考えたら最初の魔神はあなた一人で倒してるっすから、きっとあなたは他にも力を隠してるっすよね?そういう卑怯なやり口をあなたといると学べそうっすから喜んで部下になるっす!今までの無礼は許して欲しいっす!」


 光の魔神なりに納得したのかしばらく小さくなっていた光の魔神の声が再び大きくなった。


「いや、まあ、……よろしくお願いします」


 卑怯さを学ばせてもらうと言われてどう返事をすればいいか戸惑いながらも、恭也は何とか光の魔神に返事をした。


「じゃあ、あなたの名前はライカにします。これからよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくっす、ご主人様!」

「ああ、そのご主人様って呼び方止めてもらっていいですか?ラン、さっきあなたが会った土の魔神以外にその呼ばれ方したくないんで」


 この恭也の発言を聞きランが嬉しそうにしていたが、これは別にランを特別扱いしているというわけではない。

 ランを仲間にした当初、ランが弱っているところを倒して仲間にした負い目から恭也がランに強く出れなかった時期に定着してしまっただけで、恭也としては今でもランに『ご主人様』呼びは止めて欲しいと思っていた。


 今さら止めて欲しいとも言いにくいのでランに関しては恭也もあきらめているが、新たに仲間になったライカには『ご主人様』呼びは止めて欲しかった。

 そのため名前で呼んで欲しいと恭也はライカに伝えようとしたのだが、それより先にライカが口を開いた。


「じゃあ、師匠って呼んでいいっすか?」

「……何でですか?」


 予想の斜め上の呼び方をされて一瞬黙り込んだ後、恭也はライカに師匠呼びの真意を尋ねた。


「さっきも言ったっすけど、自分は師匠の卑怯なやり口を学びたいと思ってるっす!だからご主人様がだめなら師匠って呼ばせて欲しいっす!」


 師匠などという柄ではないのだが、ご主人様でなければ何でもいいと思った恭也はライカの案を受け入れた。


「師匠って呼ぶのは構いませんけど、僕何も教えられないと思いますよ?」

「それは大丈夫っす!こっちで勝手に勉強させてもらうっすから!」

「……好きにして下さい」


 また面倒な性格の魔神が仲間になったなと思いつつ、ため息をつきながら恭也はライカと融合した。


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