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不手際

 恭也が村を出発してから三時間程経った頃、魔神の封印されている場所らしきものが恭也の視界に入ってきた。

 そのまま恭也がそこに近づくと恭也の想像通り見慣れた石があり、石の色は黄色だったのでおそらく封印されている魔神の属性は光だろう。


 もっとも今回恭也はホムラの時の戦法を使うつもりだったので、魔神の属性が何だろうと構わなかった。光の魔神がどの様な能力を持っていようとどうせランの『オリンカム』二連発で終わりだからだ。


 とりあえず恭也は『オリンカム』用の大量の土を『格納庫』にしまい、その後ホムラの眷属二体を取り出した。

 恭也が今いる場所からは海が見えたため、ホムラには眷属二体を海岸沿いに別方向に向かわせるように指示を出した。


 恭也がラインド大陸に転移する目印に使った眷属は、現在ラインド大陸の中心を目指している。

 そのため三体の眷属をしばらく放置したらラインド大陸の情報はある程度集まるだろう。

 後は恭也とランで光属性の魔神を倒すだけだが、恭也はその前に『魔法看破』を発動して魔神が封印されている石に視線を向けた。


 見たところ石にも石が置かれている台座にも傷は無く、特に異常があるようには見えないのだが……。

 そう思っていた恭也だったが、『魔法看破』で知った情報を知りあぜんとした。


「やることがぐだぐだ過ぎる……」


 この世界を創った神とやらに呆れと怒りが入り混じった感情を抱きながら恭也は深くため息をついた。

『魔法看破』によると六属性の魔神はこの世界の人間のために神々が用意したものなので、本来異世界人は魔神と戦うことができないらしい。


 それを知った後で恭也が自分の体を見ると、確かにこの世界の人間と話せるようになる細工とは別に恭也には魔神の封印を解くことができるようになる細工もしてあった。

『魔法看破』はあくまで見た対象の情報を知る能力なので恭也は知らなかったが、神々やその使いがこの不手際に気づいたのはちょうどディアンの時だった。


 この世界に四番目に送り込まれたディアンが風の魔神に挑もうとしたところ、ディアンは魔神の封印を解くことができなかった。

 しかしすでにこの世界に送り込んだディアンはもちろん魔神の封印に干渉することも神々の規則に反する。


 そのためディアンには魔神への挑戦は諦めてもらい、五番目以降の異世界人たちに恭也と同様の細工をするということが神々の間の話し合いで決まった。

 さすがにディアンの来た具体的な順番までは恭也には分からなかったが、それでもディアンが魔神を仲間にできなかった理由は理解できた。

 神々のいい加減な仕事振りを知り、こんな存在に自分たちは振り回されているのかと恭也は再度ため息をついた。


(……ごしゅじんさま、大丈夫?)


 神々のずさんな行いを知り魔神と戦う前に精神的に疲れた恭也にランが心配そうに話しかけてきた。


(ああ、うん。まあ、大丈夫かって言われると微妙だけど、自分たちが作った世界がうまくいかないから他の世界の人間に丸投げしようって考える人たちのすることだもんね。今さら気にしてもしかたないか)


 最後の部分は自分に言い聞かせるような形になったが、考えてみれば神々のこの不手際が無ければダーファ大陸に封印されていたウルとホムラ以外の魔神は恭也以外の異世界人が仲間にしていた可能性が高い。

 そう考えるとこの神々の不手際は恭也にとっては幸運と言える。

 そもそもこの世界に無理矢理送り込まれたため感謝する気こそ無かったが、現状を前向きに考えて何とか気持ちを落ち着かせた恭也は魔神との戦いに意識を向けた。


(じゃあ、さっき言った通り相手の魔神の魔力を一万削ったら、ランを呼んで一気に勝負をつけるつもりだから精霊の用意お願い)

(……任せて)


 実のところ村からここまで飛んできたせいで体の節々が微妙に痛かったのだが、どうせ魔神と戦ったら何度も死ぬだろう。

 そうなったら痛みや疲労などすぐに消える。

 そう考えて恭也は四度目となる魔神戦へと臨んだ。


 すっかり見慣れた異空間に恭也が転移すると恭也の前に全身黄色の魔神が立っており、チャイナドレスで身を包んだ魔神は挑戦者の恭也に視線を向けていた。

 恭也はその魔神に話しかけた。


「あなたは光の魔神ってことでいいんですか?」

「そうっす!久しぶりの挑戦者っすけど、一人とはずいぶん余裕っすね?これまでの挑戦者はみんなあっちから来ておきながら自分を見た途端怖じ気づくような相手ばっかりだったっす!あなたは少しは楽しませてくれるっすか?」

「楽しませられるかは分かりませんけど、あなたが今まで戦った人たちみたいに無理矢理ここに入れられたわけじゃないんでやる気はありますよ」

「へぇ、口だけじゃないといいっすけど!」


 光の魔神が言う怖じ気づいた挑戦者というのは魔神と戦えなかったディアンの実験に付き合わされた人々だろう。

 異世界人と魔神の戦いに巻き込まれた上にいざ異空間に来たら当のディアンが来ていないのだから彼らがやる気など出せるはずが無かった。


 一方の恭也はしばらく魔神相手にサンドバックになってからの『オリンカム』二連発で勝てるとはいえ、『オリンカム』の使用を一度ですませられればそれに越したことはない。

 そのためには光の魔神の魔力を大きく消耗させる必要があり、恭也にはそれなりの戦意はあった。


「じゃあ、始めましょうか」


 特にルールがあるわけではないが、何も言わずに斬りかかるのもはばかられたので恭也がそう言うとそれを合図に光の魔神が左右の手から光線数発を撃ち出してきた。

 それと同時に恭也も『アルスマグナ』製の剣と盾を『格納庫』から取り出し、恭也は左手に装備した盾で光の魔神の光線を防いだ。

 自分の光線を受けて傷一つ無い盾を見て驚いた様子の光の魔神は、その後何度が光線を放ってからようやく攻撃を止めた。


「へぇ、すごいっすねその盾は。自分の攻撃を受けて無傷なんて」

「魔神二人の力で創ったものですから、負けたこと気にする必要無いですよ」


 恭也のこの発言を聞き、光の魔神の表情が変わった。


「へぇ、あなたはすでに魔神を倒してるっすか!それも二体も。前にここに来た人間が言っていた異世界人ってやつっすね?」


 相手に余計な情報を伝えてしまったかと恭也が後悔していると、光の魔神が間合いを詰めてきた。


「なめたことは謝るっす!ここからは本気っすよ!」


 間合いを詰めてきたと言っても光の魔神はわざわざ走ったりはしなかった。

 光の魔神の姿が消えたと恭也が思った次の瞬間には光の魔神は恭也のすぐ隣におり、そのまま至近距離で恭也の顔面に光線を撃ち込もうとした。

 それに気づいた恭也はすぐに光の魔神の右腕を斬り裂いた。


 しかし斬られた次の瞬間には光の魔神の腕は再生し、その後何事も無かったかの様に光の魔神は光線を撃ち出した。

 この攻撃に恭也は全く反応できなかったが、『自動防御』により『格納庫』から二枚目の盾が取り出されて光の魔神の攻撃を防いだ。


「あっぶな……」


 顔のすぐ前で光線と盾が衝突する音を聞いた後でようやく恭也は自分の顔が吹き飛ばされるところだったことに気がついた。

 また魔神相手に剣で攻撃しても無意味なことにも気づき、恭也は剣を『格納庫』にしまうと顔の前にあった盾を右手でつかみ取った。


「面倒っすね、自動で発動する盾っすか」


 自分の攻撃を何度も受けて無傷の恭也を前に光の魔神は心底面倒そうな顔をした。

 ガーニスと戦った時に同じことを思った恭也が光の魔神に同情していると、光の魔神が再び恭也目掛けて光線を撃ち出してきた。


 その攻撃自体は恭也の持つ二枚の盾に防がれたが、無駄だと分かっている攻撃を無策で行う程光の魔神も愚かではなかった。

 光線を撃ち出した次の瞬間には光の魔神は恭也の背後におり、恭也の感覚では前後から同時に光線を放たれた様なものだった。


 光の魔神の固有能力は『光速移動』で、別の大陸にすら一秒もかからずに移動できる。

 長距離を移動する場合は移動先に光の魔神が創り出す魔導具が必要になるが、今恭也と光の魔神が戦っている異空間程度の広さなら身一つで好きに移動できる。


 光の魔神の固有能力を『魔法看破』で知っていた恭也でさえ光の魔神の移動速度には驚いたのだから、何も知らない者が傍から見たら移動ではなく転移している様にしか見えないだろう。

 結局光の魔神による一人での挟み撃ちも恭也の背後に三枚目の盾が現れたことで防がれたのだが、その後の光の魔神の攻撃は恭也にとって面倒なものだった。


 いくら光線を撃っても防がれると判断した光の魔神は、直接恭也に殴りかかってきたのだ。

 その攻撃自体は盾を持った腕が勝手に動き防いでくれるが、魔神と融合していない今の恭也にとって両手に盾を持って戦闘するというのはかなりの重労働だった。


 魔法や能力を使っての戦いならともかくこういった単純な接近戦は恭也への負担が大きい。

 その上『自動防御』は恭也の疲れなど無視して防御行動を取るので腕や肩に激痛が走り始めていた。

 また単なる接近戦はこのまま続けても光の魔神が全く魔力を消費しないという点でも恭也としては歓迎できなかった。


「どうしていきなり光線撃つの止めたんですか?結構危なかったですよ?」


 再度光の魔神に光線による攻撃を行わせるために恭也は口を開いたが、光の魔神には通じなかった。


「ここに自分以外の魔神は来れないっすから、盾はともかく盾をどこからか取り出すのはあなた自身の能力っすよね?異世界人がどれ程のものか知らないっすけど、あなたの能力も万能ではないはずっす!腰がふらついてるっすよ?」


 そう言うと光の魔神は恭也への拳による攻撃を続けた。

 光の魔神の指摘はまさに図星で、恭也の体はすでに限界だった。

 『アルスマグナ』で創った金属でできた物体は、本来ならホムラとランのどちらかと融合していないとまともに動かすことができない。


 今は『自動防御』で無理矢理体ごと動かしている状態なのだが、盾を持った腕が動く度にみるみる魔力が減っていった。

 『格納庫』も『自動防御』も本来ならそれ程魔力を消費する能力ではないが、こういった使い方をした上にこうも立て続けに使用するとそれなりの魔力を消費する。


 死んだら回復する体力はともかくこのままでは貴重な時間と魔力を浪費するだけだと考え、恭也は自分の能力が光の魔神に知られる前に勝負に出ることにした。

 恭也はヘクステラ王国で手に入れた屋敷の一つを光の魔神が押し潰される形で『格納庫』から取り出し、一瞬の隙を作ると光の魔神との距離を取った。


 ほぼゼロ距離で自分目掛けて落下してくる屋敷を光の魔神は難無く回避していた。

 それどころか恭也の背後を取る余裕すら光の魔神にはあり、一見無防備の恭也の背中に光の魔神は拳を叩き込もうとした。

 しかし恭也が左右に手を伸ばし、『格納庫』から剣や盾を次々に取り出して地面に放り捨てるのを見て攻撃を止めた。


「ああ、よけられるだろうとは思ってましたけど一瞬で後ろに。すごいですね」


 発言内容とは裏腹に一瞬で自分に背後を取られたにも関わらずまるで動じた様子を見せず、今も手持ちの武器を手放している恭也を前に光の魔神は攻撃することができなかった。

 恭也の意図が読めなかったからだ。

 そのまましばらく恭也の意図を探ろうとしていた光の魔神に恭也は話しかけた。


「もう面倒な削り合いとかやめませんか?」

「どういう意味っすか?」


 心底面倒そうにため息をつく恭也を前に光の魔神は思わず聞き返した。


「勝つだけなら僕は他の魔神が創った武器で防御を続けながら時々あなたの体に斬りつければそれだけで勝てます。魔神のあなたと違って僕の魔力は時間が経てば回復しますから。でもそれじゃつまらないですよね?」


 そう言うと恭也は『情報伝播』を発動し、光の魔神にウルとホムラがそれぞれ恭也に向けて『ミスリア』と『ゴゼロウカ』を発動しているところを見せた。


「へぇ、二体の魔神の大技まで受け切って勝ってるっすか」


 防御一辺倒の恭也の戦い振りに光の魔神は少なからずがっかりしていた。

 しかし恭也が他の魔神たちの最大の技を受け切ってここにいることを知らされ、光の魔神は恭也への評価を上げた。


「さっき見せた通り、僕は闇の魔神と戦った時も火の魔神と戦った時も相手の最強の技を受け切って勝ちました。だから今回もできればそうして勝ちたいと思います」


 この時点で恭也の発言は嘘だったが、『情報伝播』で恭也目掛けてそれぞれ最強の技を繰り出しているウルとホムラの姿を見せられた光の魔神は恭也の発言を信じ切っていた。


「僕自身の力で受けたかったんで他の魔神の力で創った武器を全部放り出したんですけど、あなたが自分の最強の技に自信が無いっていうなら削り合いを続けましょう。確かに体はきついですけど長期戦でも僕が負けることはないですから。さあ、短期戦と長期戦、どっちで負けるかを決めて下さい」


 明らかな挑発のこの恭也の発言を聞き、光の魔神は笑みを浮かべた。


「おもしろいっすね!色々器用なまねができるみたいっすけど、自分の『リブラーシュ』を食らって同じ事が言えるっすか?」

 そう言うと光の魔神は自身の最強の技を使うために魔力を高め始めた。

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