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自慢

 自分の考えがうまくいき満足した恭也は、このまま『ミスリア』の気体が満ちた空間で猿型の悪魔が力尽きるまで接近戦をしてもいいと考えていた。

 当たり前の様に『アルスマグナ』製の剣の刃が猿型の悪魔の剣とぶつかり欠けていたが、この程度ならランの金属操作で簡単に直せるので問題無かった。


 しかし猿型の悪魔からすればこのまま戦うなど冗談ではなかった。

『ミスリア』を防ぐために創った鎧は瞬く間に消滅するため創り続けなければならず、先程魔神が張った結界のせいで地面から土を補充することもできない。


 すでに猿型の悪魔の魔力は二万を切っており、結界内での戦いは分が悪いと判断した悪魔は結界を破壊するべく恭也に背中を見せた。

『隔離空間』の障壁の強度は、破壊するだけならこの世界の通常の魔導具でも壊せる程度だ。


 そのため猿型の悪魔なら斬り裂いた障壁に無理矢理腕を突っ込み、そのまま外に逃げ出すことも容易だっただろう。

 しかしそれは邪魔が入らなければの話だった。


 もうすぐ猿型の悪魔が障壁に触れるというところで猿型の悪魔は右脚に違和感を覚えて自分の右脚に視線を向けた。

 猿型の悪魔の右足首にはいつの間にか金属製の鎖が巻き付いており、その鎖の先は魔神の主である人間が握っていた。


 猿型の悪魔は何度か足を動かして鎖を握っている人間を振り払おうとしたが、人間はびくともせず鎖がちぎれる様子も無かった。

 それならばと自分の足首に取り付けられた鎖を取り込んだ猿型の悪魔だったが、『アルスマグナ』製の金属を取り込んだ途端猿型の悪魔は右脚を動かせなくなった。


 それどころか右脚が勝手に目の前の人間に引き寄せられていることに気づき、猿型の悪魔は慌てて右脚を切り離すと自分に近づいてくる人間目掛けて金属製の棘数十本を飛ばした。

 棘を飛ばしたのはすでに複数の剣を飛ばせる程魔力に余裕が無かったが故の苦肉の策だったが、それでも棘は相手が人間なら当たり所が悪ければ一本でも十分致命傷になる大きさだった。


 これで先程から忌々しい事ばかりする人間も自分の邪魔はできず、うまくいけば殺すこともできるだろう。

 そう考えた猿型の悪魔は、土の補充を優先して自分の攻撃の結果を見届けずに再び障壁へと向かった。


 一方猿型の悪魔に棘を飛ばされた恭也は、相変わらず『ミスリア』の気体のせいで視界は最悪だったものの何かが飛んで来ることは音で分かったため『アルスマグナ』製の板を『格納庫』から取り出して身を守った。


「うわ、すごいな」


 猿型の悪魔が飛ばした棘が刺さった板を見て、恭也は驚きの声をあげた。

 猿型の悪魔が飛ばした棘は板に防がれたものの、何本かは板に突き刺さっていた。

 魔神たちが単独では傷一つつけられない『アルスマグナ』製の金属をあっさり傷つけられたことで、恭也は異世界人が材料にされた悪魔の危険性を再認識した。


 この悪魔とこれ以上戦ったら不覚を取りかねない。

 そう考えた恭也は急ぎ猿型の悪魔に近づくと、そのまま悪魔の左わき腹に腕を回して無造作に引き寄せた。

 約七百キログラムの重さの猿型の悪魔を恭也は事も無げに引き寄せ、そのまま地面に叩きつけた。


 突然地面に叩きつけられて困惑した猿型の悪魔だったが、目の前の人間が何かしたことだけはすぐに分かった。

 今度は剣で斬りつけるのではなく正面から押し潰し、そのまま結界に叩きつけてやろう。

 そう考えた猿型の悪魔とまともにぶつかった恭也だったが、恭也はびくともしなかった。


 そのまましばらく押し合いを続けた両者だったが、恭也は押し潰されるどころかすぐに猿型の悪魔を押し返し始めた。

 これはランの固有能力、『怪力』によるものだった。


 魔神は全員が片手で百キログラムまでの物なら持ち上げられるが、ランは能力を使って片手で十トンまで持ち上げることができた。

 この能力を使えば体重一トンにも満たない相手に押し負けるはずも無く、むしろ必要以上に力を加えないようにする方が大変だった。


 その後猿型の悪魔相手に着かず離れずの戦いをしていた恭也の前で猿型の上級悪魔は『ミスリア』の気体を防ぐために見る見る内に魔力を消費していった。

 やがて猿型の悪魔の魔力が千を切ると、恭也は猿型の悪魔目掛けて『キュメール』を連発した。


 最初は剣で『キュメール』を斬り裂いていた猿型の悪魔だったが、恭也が『高速移動』を使い全方位から攻撃し始めると後は一方的な展開だった。

 その後数分かけて恭也は猿型の悪魔の魔力を削り、猿型の悪魔の魔力が百を切ったところで手にしていた『アルスマグナ』製の剣を悪魔の体に突き立てた。


 すると猿型の悪魔から剣に魔力が流れ、瞬く間に恭也の手にしていた剣は魔導具になり猿型の悪魔は消滅した。

 最大魔力五万以上の悪魔の魔力が百以下になった時点で何らかの物質を当てる。

 これが悪魔由来の魔導具を作るための手順だ。

『魔法看破』でこれを知って以来、機会さえあれば試そうと恭也は考えていたのだがとうとう実現できた。


 ディアンが殺した異世界人が材料になっている悪魔を魔導具にすることには抵抗があったが、これまで他の人間の死でいくつもの能力を獲得した恭也がそれを気にしても偽善にしかならないと考え直した。

 せめて有効活用しようと恭也は考え、魔導具となった剣を『格納庫』にしまうとウルに結界の維持を頼みディアンが操る悪魔のもとに向かった。


「おい、何してたのか全然見えなかったぞ」


 恭也が『隔離空間』から出た途端文句を言ってきたディアンに恭也は全く気持ちの感じられない声で謝った。


「すいません。それだけ眼が大きければ透視ぐらいできると思って。次からは気をつけます」


 相手を閉じ込める形で『隔離空間』を発動し、その後中で『ミスリア』を使うという戦法は勝つことだけを考えたらかなり有効な戦法だ。

 先程の猿型の上級悪魔の様に仮に『ミスリア』の影響は防げても相手は防御のために徐々に魔力を消耗し、一方でウルやウルと融合している恭也は何の影響も受けない。


 厳密に言えば恭也たちも視界は封じられるが、それは相手も同じで恭也には先程の戦法があるためそこまで問題にはならない。

 実際『ミスリア』によって発生した気体をすぐに消し去る手段があれば、毎回採用したい戦法だった。


 しかしこれから十時間以上ここで『ミスリア』の影響がなくなるまで待機する必要があることを考えると、この戦法の多用は難しかった。

 しかしそんなことをディアンに正直に言う必要は無かった。

 そのため恭也はディアンに恩着せがましく次からは気をつけると言ったのだが、それに対するディアンの発言の内容は恭也が予想すらしていないことだった。


「ああ、気をつけてくれ。俺気が短いから、あんまりつまらない戦いばっか見せられるとお前のいた大陸に上級悪魔十体ぐらい送り込んじまうかも知れねぇからな」

「……そんなに上級悪魔を所有してるんですか?」


 ディアンの戦力を探るというより驚きのあまり聞いてしまったという側面が強い恭也の発言を聞き、ディアンは誇らし気に自分の戦力について口にした。


「ああ、この前お前が倒した鳥型も俺の手元には後三体いるし、今全部合わせて三十体ぐらいいたかな?」


 異世界人二人を倒した強さに加えて恭也の想像以上の配下の戦力の厚さ。

 癇に障るがディアンが誇るのも当然で、恭也は自分の敵の手強さを今さらながら実感した。


「そんな顔しないでくれ。確かに今まで見た感じだと今のお前じゃ俺の配下の悪魔半分も倒せるか分からねぇけど、それでもお前には期待してるんだ。何せ一年に一回新しい奴が来るって聞いて楽しみにしてたのに、新しい奴全然来ねぇからな」


 あくまで他の異世界人をおもちゃとしか見ていないディアンに恭也は改めて怒りを覚えた。


「あなたを楽しませるつもりはないんで、あなたの大陸に行ったら楽しむ暇なんか与えずに倒してみせます」


 恭也の発言を聞き、最初は笑いを押し殺そうとしていたディアンだったがやがて我慢しきれずに高笑いした。


「怖い、怖い。精々気をつけるぜ。俺が使えなかった魔神は好きにしてくれていいけど、こっちに来た時は顔見せてくれ。多分相手にならないとは思うけど暇潰しぐらいにはなるだろうから」

「はい。残り二体を倒したらすぐにでもそっちに行きます」

「おー、怖い怖い。精々殺されないように悪魔作りに励むとするぜ」


 ディアンがそう言った次の瞬間には恭也は目玉の悪魔を斬り裂いていた。

 その後恭也は再び『隔離空間』の中に入りウルと融合した。


(上級悪魔三十体か……)

(光と風の魔神仲間にしてもきつくね?)

(うん。ガーニスさんに鎧借りる件まじめに考えないといけないかもね)


 ディアンが所有している悪魔の多さに恭也が驚いたのは事実だ。

 しかしディアンに対抗できるのが恭也しかいない以上、悩んでいる余裕など無かった。

 そう考えながらため息をついた恭也は、先程時間が無くて後回しにした初めて作った魔導具の鑑定を行うことにした。


『格納庫』から先程の剣を取り出した恭也は、早速『魔法看破』を発動した。

 この剣の能力は簡単に言うと『斬れ味のいい剣』だった。

 よく斬れるというだけならウルの羽やウルが作った魔導具で十分で、どの属性の持ち主でも使えるという利点はあったが正直微妙な魔導具だった。


 斬れ味はウルの羽などより鋭いのだが、この世界の魔導具での防御の硬さを十とするとウルの羽の攻撃力が二百でこの剣の攻撃力は千だった。

 中級悪魔相手ですら過剰な威力のこの剣はなかなか使いどころが難しそうだった。


 もっとも前回ソパスに帰った時に聞かされた恭也に同行する魔神の入れ替わり次第では、ウルがいない時に役立つこともあるかも知れない。

 そう考えた恭也は剣を『格納庫』にしまった。


 上級悪魔由来の魔導具には全て名前がついており、当時の地名や悪魔を倒した人物の名前が用いられていると恭也は聞いていた。

 しかし死んだ異世界人が材料になっている魔導具に名前をつける気は恭也には無かった。


「じゃあ、僕たち外出てるから何かあったら呼んで」

「先行ってていいぞ。時間が経ったら恭也が呼んでくれりゃいい」


『隔離空間』の維持をウルに任せてランと共に外に出た恭也にウルはここに一人残ると提案してきた。

 確かに魔神の主は契約した魔神を距離を問わずいつでも手元に召還できるので、ウルの提案はもっともだった。

 しかしただでさえホムラを連れて来ていない以上、これ以上戦力を分けるのは避けたかったので恭也はウルの提案を断った。


「ウルがいなければ結局あんまり進めないし、それにあんまりばらばらに行動するのもね。偶然だったけど上級悪魔を倒したんだから少しは余裕あるでしょ」

「恭也がいいならそれいいけどよ」


 恭也の提案にウルはそれ以上何も言わず、その後三人は雑談を始めた。

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