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実験

「成長しきってないっていうのが不満だが、まああんまりでかいと恭也が遊ばせてくれないからな。これぐらいで我慢しとくか」


 久しぶりに一人で強敵と戦える機会を得て上機嫌のウルの前で猿型の悪魔は能力を発動して左右の手首から手の甲に向けて剣を生やした。

 この猿型の悪魔の能力はランと同じ金属操作だ。


 しかしランの魔法の様に金属を自在に操れるわけではなく、この悪魔が操れるのは自分の体を構成している金属だけだ。

 この悪魔の体は体を動かすのにすら悪魔自身の魔法が必要で、そのため動きはあまり速くない。


 その代わりこの猿型の悪魔の耐久力は恭也がこれまで戦ってきた上級悪魔たちと比べてもずば抜けて高く、通常の魔導具による攻撃を何千発撃ち込んでもこの悪魔には傷一つつかないだろう。

 それだけの強度の体を構成する金属で作られた剣はそれだけで強力な武器だったが、この悪魔は金属操作とは別にもう一つ攻撃用の能力を持っていた。


 それらの情報を先程『魔法看破』を通して知ったウルは、まずは目の前の悪魔の魔法に対する耐久力を知るべく『キュメール』三発を猿型の悪魔目掛けて撃ち出した。

 それに対して猿型の悪魔は自分目掛けて飛んで来る『キュメール』を意にも介さず、小細工無しで突っ込んできた。


「まじか」


 猿型の悪魔の顔と胴体に『キュメール』が当たったが、『キュメール』は猿型の悪魔の体にぶつかり数秒拮抗した後に悪魔の体をわずかに消滅させただけだった。

 それならばとウルは、普段はただ高速で振るうだけで人体だろうが岩だろうが斬り裂く自分の羽に『キュメール』と同じ性質の魔力を纏わせて猿型の悪魔の体を斬り裂こうとした。

 自分の左右から迫るウルの羽に対し、猿型の悪魔は今度は無抵抗ではいなかった。

 手首から生やした剣でウルの羽を難無く斬り裂き、そのままウルに斬りかかった。


「ははっ、やるじゃねぇか」


 左右の手のひらに『キュメール』を発生させて猿型の悪魔の剣を受け止めたウルは、自分の羽をたやすく斬り裂いた猿型の悪魔を素直に称賛した。

 しかし『キュメール』が三秒も持たずに猿型の悪魔に斬り裂かれ、後退を余儀なくされるとウルの表情も真剣なものとなった。


 先程中程から斬り裂かれた羽を再生するのではなく、新たに羽を生やして後退したウルは先程『魔法看破』で知った猿型の悪魔のもう一つの能力を思い出していた。

 この猿型の悪魔は自分の剣による攻撃の威力を増し、その上斬りつけた箇所の再生を阻害する能力を持っていた。


『魔法看破』によるとこの能力はこの世界の魔法や魔導具によるものではなく、異世界人由来の能力らしい。

 おそらくディアンが殺した異世界人の死体を分解してこの悪魔に混ぜたのだろうというのが恭也の見解だった。


 自分が殺した相手を悪魔の材料にしたディアンに恭也は憤りを覚えていたが、ウルとしてはまがい物とはいえ異世界人の能力を持った相手と戦えたことを喜んでいた。

 もちろん以前のホムラの忠告を思い出して何も言わなかったが。


(まじで羽が再生しないな。あれ体に食らったらさすがにやばいか……)


 先程猿型の悪魔の再生阻害能力がどの程度のものか試すためにウルは羽で斬りつけたのだが、確かに猿型の悪魔に斬られたウルの羽は再生しなかった。

 最大五対十枚の羽を生やせるウルにとって、二枚の羽を潰されるぐらいは大した問題ではなかった。


 しかし先程羽を斬り落とした悪魔の剣が全く刃こぼれしていないのを見て、ウルは自分の攻撃では目の前の悪魔に決定打を与えられないことを悟った。

 この猿型の悪魔の魔力の補給方法は土や金属の吸収だ。


 あまり魔力の消費が激しくない猿型の悪魔は、仮に最大まで成長しても一日二百キログラムの土を摂取すれば問題無く活動できるらしい。

 敵の攻撃で体が摩耗しても土を補充すれば元通りで、現に先程のウルとの攻防で消耗した猿型の悪魔の体は足の裏から土を補充してすでに回復していた。

 このままではじり貧だと判断したウルは恭也に声をかけた。


「おい、恭也!『ミスリア』使っていいか?」


 このウルの問いかけに恭也は考え込んだ。

『ミスリア』による周囲への影響は自分の能力で防げるが、それでも自分とランが手を貸せば問題無く勝てる相手に五万の魔力を消費する『ミスリア』を使うのがもったいなかったからだ。


 しかしここでウルに一人で勝つのはあきらめて下がるように言ったら、ウルは従うだろうが不満が残るだろう。

 そう考えた恭也は一つ条件を出した。


「いいけどその代わり『ミスリア』で駄目だったら、ディアンさんが作った上級悪魔と今後一人で戦うのはあきらめてね?そう何度も『ミスリア』とか使えないし」

「いいぜ!」


 恭也の提案にウルは即答した。

『ミスリア』が目の前のまだ完全ではないという悪魔に通用しないようなら、恭也の言う通りウル単独でのディアン製の悪魔との戦闘は魔力の無駄遣いでしかなかったからだ。


 ウルの返事を聞いた恭也は、『能力譲渡』でウルに『隔離空間』を譲渡した。

 その後ウルは自分と猿型の悪魔を入れる形で『隔離空間』を発動し、そのまま『ミスリア』を発動した。


「うおっ、何だこりゃ?」


 突然自分の作った悪魔と魔神が結界らしきものに包まれたと思ったら、その直後魔神から周囲からの視界を遮る程の量の黒い気体が発生したのだ。

 何も知らないディアンが驚くのも無理は無かった。


「へー、魔神って全員こんなことができるのか?」

「さあ、僕も魔神全員仲間にしてるわけじゃないんで」


 一瞬何も考えずにはいと答えそうになった恭也だったが、何とか踏み留まりあいまいな返事をすることに成功した。

 見ただけで相手の能力を見破れる恭也は、それだけでお互い初対面の相手と戦う時は優位に立てる。


 かといって相手にこちらの手の内をさらす義理は無かった。

 そもそも恭也はディアンとは会話すらしたくなかったのだが、相手主導で話しているとうっかり口をすべらしかねなかったので恭也は自分から話題を変えることにした。


「あなたに気を遣わなければあの結界貼る必要無かったんですからね。ただでさえ魔力無駄遣いさせられてるんですから、せめて黙ってて下さい」

「はいはい」


 どの道『ミスリア』を使うならゼキア連邦の国土への影響を考えて恭也は結界を使っただろう。

 しかし恭也はあえて恩着せがましい言い方をした。

 そのかいあってかディアンはその後口をつぐみ、恭也は再びウルと猿型の悪魔との戦いを見ることに集中できた。

 瞬く間に『隔離空間』内に『ミスリア』による気体が充満し、ディアンはもちろん恭也も『隔離空間』の中で何が起こっているのか全く分からなかった。


(……すごい。これウルはいつでも使えるの?)

(魔力さえあればね。でもウルの『ミスリア』に限った話じゃないけど、強力過ぎて使い道が無いんだよなー)


『ミスリア』を始めて見て驚いた様子のランだったが、ランとは対照的に恭也は久々に『ミスリア』を見てげんなりしていた。

 人間が食らえば死体も残さず焼き尽くされるホムラの『ゴゼロウカ』はもちろん、ランの切り札、『オリンカム』も食らった相手は死体も残らない技だ。


『オリンカム』は土がある場所でしか使えない技で、効果範囲内の地上にあるもの全てを文字通り土に還す技だ。

 地面に触れている全ての物質を土に変えてしまうという大量殺戮にしか使えないこの技を恭也が人間相手に使う日は来ないだろう。


 ちなみにランは魔力を千も消費すれば『オリンカム』発動に必要な量の土を産み出せるため、事実上『オリンカム』をどこでも使うことができた。

 こんな存在を六人も作っておきながら世界の発展がどうのこうの言っているのだから、この世界を作った神とやらは間違いなく馬鹿だと恭也は考えていた。

 もっとも散々ウルたちの力を借りてきた恭也が言っても説得力は無いかも知れなかったが……。


(ま、空飛べるのは便利だし、『アルスマグナ』も便利だからランたちと会えたこと自体は嬉しいけどね)


 久々に『ミスリア』をこの目で見て、恭也は魔神たちの過剰な攻撃能力に改めて引いていた。

 そんな恭也の気持ちが伝わり、かなり動揺している様子だったランを恭也が慰めていると『隔離空間』内で動きがあった。


「がっ……」


 ウルのうめき声が聞こえてきたと思った次の瞬間、恭也の目に『隔離空間』で創られた障壁に背中から叩きつけられるウルの姿が飛び込んできた。

 ウルの体は傷だらけで右腕はかろうじて根元が残っているという有り様で、他の手足もまともに機能しないほど傷ついていた。


 ウルは頭部の一部も損傷しており、猿型の悪魔につけられた傷を治すこともできずにいた。

 ウルは痛みを感じないため闘志こそ失っていなかったが、恭也はここが止め時だと判断した。

 逃げ場の無い空間内で猿型の悪魔がどうやって『ミスリア』をしのいだのか不思議に思いつつ、恭也はウルに声をかけた。


「ウル!僕を中に入れて!」


 ウルが『隔離空間』の設定を変えるのを待ってから恭也はウルと合流し、そのままウルと融合した。


(何があったの?)

(あの野郎、金属で鎧作って自分の体守りやがった。しかも体から剣生やして飛ばしてきやがって……)


 ウルにそう言われ、恭也が周囲を見渡すと二十本以上の剣が地面や結界に突き刺さっていた。

 猿型の悪魔の金属操作が体の形を変えるぐらいしかできないと思っていたので、恭也は単純なものとはいえ猿型の悪魔が飛び道具を使ったことに驚いた。

 しかし事前に分かっていれば対処はできる。

 恭也は身を張って敵の手の内を引き出したウルに礼を述べた。


(その傷ウルなら十時間ぐらいで治るらしいから、後は僕の中で大人しくしてて)

(ちっ、ざまあねぇな)


 恭也の指示にウルは悔しそうにしながらも大人しく従った。

 ちょうどその時恭也の近くの地面に刺さっていた剣が動き、恭也がそれに気づいた次の瞬間先程猿型の悪魔が体から撃ち出した剣全てが悪魔のもとに戻り再び悪魔の体と同化した。


(なるほど、作った武器飛ばすのと引き寄せるぐらいはできるわけか)


 これでは恭也が考えていた猿型の上級悪魔が剣を飛ばすのをひたすらしのいで魔力切れを待つという案は実現不可能だった。

 しかたがないのでいつも通り力押しでいこう。

 そう考えた恭也は、『アルスマグナ』で創った剣を『格納庫』から取り出した。


『アルスマグナ』は高い耐久性を持つ金属を創り出す技で、『アルスマグナ』により創られた金属はランの金属操作以外では魔神単独では傷つけるどころか変形させることさえできない。

 単独での殺傷能力は皆無の技だったが、既に自分たちの火力が過剰だと思っている恭也にはこういった技の方がありがたかった。


『ミスリア』の気体に視界を遮られて恭也は猿型の悪魔の正確な位置が分かっていなかったが、悪魔の動く音からある程度目星をつけて無造作に歩き出した。

 恭也同様相手の位置がつかめていなかった猿型の悪魔も恭也の足音を手掛かりに右腕に生えた剣を振るった。


 偶然ながら恭也の頭を正確に捉えていたその攻撃を恭也は手にしていた剣で防いだ。

 自分の前方で金属音がしたことで猿型の悪魔は敵が自分の間合いにいることを確信し、両腕を振り回して恭也を斬り裂こうとした。


 空いた時間で訓練をしてある程度制御できるようになった『自動防御』で敵の攻撃を防いでいる恭也が言うのも何だが、猿型の悪魔の剣の振り方は型も何も無い乱暴なものだった。

 そんな悪魔の攻撃を恭也は全て的確に(正確には恭也は何もしていないが)受け止め、時には猿型の悪魔の剣を腕ごと弾き飛ばしていた。


(うん。体が勝手に動く能力での防御、思ったより制御できるね。相手のことしっかり意識してれば勝手に能力使うこともないし、とりあえずの実験としてはまあまあかな)


『自動防御』により恭也の意思に関係無く一万の魔力を消費する能力が使用されることに恭也はずっと悩んでいた。

 しかしこれといった解決策も思いつかなかったところで『アルスマグナ』が使えるようになり、その結果恭也は『アルスマグナ』製の武器で積極的に接近戦をするという解決策をとることにした。

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