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借金聖女と腹黒御用商人  作者: 大沢 雅紀
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兵士の募集

秋が来て、麦の収穫の時期が近づいてくる。

ヴァルハラ領は貴族や軍、商人たちに紙を売るようになったおかげで多額の現金収入が発生していた。

「これで領民たちからの年貢を下げることができるわ」

「その前に借金を返すべきだろうが!」

気をぬけばすぐに農民からの徴税を下げようとするエリザベスを監視するため、サクセスは彼女と共に執務室にこもっていた。

「なんでよー。貧しい民たちは困っているのに!。私たちが救ってあげないと」

「その心意気は認めるが、本質を見失うな」

サクセスはエリザベスに厳しい声をかけると、難しい顔をして徴税台帳を見ていた。

長い間じっくりと精査していた彼は、結論を下した。

「やっぱり、ヴァルハラ領の納税者が減っているな。直接租税を納める自作農がいなくなり、少数の地主と大勢の小作人に分かれている。構造的な欠陥があるな」

「欠陥って?」

エリザベスが聞いてくるが、サクセスは首を振った。

「後で話す。それに手をつけるより早く、他の領から逃げてきた難民たちをなんとかしないとな。奴らはこの領に何の思い入れもない。少しの不満で暴動をおこしかねない」

頭を抱えて悩んでいたサクセスは、ついに決心した。

「それくらいなら、いっそやつらを兵士として雇おう」

「兵士って……この領にそんなぶっそうな存在はいらないわよ。魔物たちは森からほとんど出てこないし」

エリザベスはそう反対するが、サクセスは強く主張する。

「いや、奴ら難民をこの領に根付かせるには新しい土地を与える必要がある。それにはどうしても武力がいるんだ」

ヴァルハラ男爵家はもともと弱小貴族だった上に、長く平和な時代がつづいたせいで、当初は存在していた兵士たちも時代が下るにつれどんどん雇い止めになって数を減らしていった。

再び武力を手に入れるためには、安く使える難民を徴兵するしかないのである。

「新しい土地って?」

「レーテ川の下流、ヴァルハラ町の南に広がるスネークバード平原だ」

それを聞いてエリザベスは顔色を変える。

「本気なの?あそこは蛇鳥の巣よ。先祖代々どうやっても開発できなくて、あきらめていたのに」

蛇鳥とは、ダチョウの体と蛇の頭を持つモンスターである。一頭一頭は大して強くないが、集団で襲い掛かってくるので、その駆除は困難を極める。

その肉は保存が利いて美味しいのでよく冒険者たちが獲物にしようとするが、よほど強くなければ返り討ちにあっていた。

「やり方はある。相手が集団で襲いかかってくるなら、こちらもそれに対応した戦法をとればいいんだ。すでに準備はしてある」

サクセスはそういうと、技術村に命じてある兵器を作らせるのだった。


町の教会

サクセスが職人たちを引き抜いたおかげで多少は減ったが、まだまだ大勢の難民たちが施しに群がっていた。

しかし、彼らに悲壮感はない。最悪、食べてそのあたりの家の軒下に寝転がっていれば、生きていくことだけはできるからである。

しかし、中には自分の将来に危機感を持つ者たちもいる。若くて暇をもてあましている男女や、幼い子供をもつ家族たちである。

「俺たち、将来どうなるんだろうな。よそ者の俺たちにいつまでも施しがあるとはかぎらないし」

「私はいい。でもこの子たちにはちゃんとした生活をしてほしい。何か仕事ができればいいんだが……」

特に、北の国や他領から流れてきた者たちは危機感を持っている。サクセスは『鑑定のメガネ』を使って、彼らのようなまだ意欲がある人間に声をかけていった。

ゴールドマン商会に集められた彼らは、サクセスから提案された。

「お前たち、自分の土地を持ちたいと思わないか?」

それを聞いた人々の目に意欲が浮かぶ。

「ほ、本当ですか?」

「ああ。実は、ヴァルハラ家ではスネークバード平原の開拓を計画している」

地図を開き、レーテ川の下流に広がる広大な平原を指差す。

「ここを開拓することに協力した者には、土地を与える。素性は問わない。他の領から逃げ出してきたもの、北の国から流れてきたもの、すべて差別なしで正式な農民として受け入れる」

実に好条件を示されて、民たちから歓声があがる。しかし、そのとき一人の男が手を上げた。

「みんな、騙されるな。この話には裏があるぞ」

その男はひげを蓄えた筋骨隆々とした大男だったが、右足の膝下が義足だった。

「お前は?」

「元北の国の騎士ガラハットだ。戦争で足を壊して失業した。知っているぞ。スネークバード平野には危険なモンスターである蛇鳥がいるってな。どうせ俺たち無駄飯ぐらいを煽てて戦わせて、口減らしするつもりなんだろう。領主なんてそんなやつらばかりだ。忠誠を尽くしていた俺を切り捨てたようにな」

ガラハットの顔には、領主というものに対する不信感が浮かんでいた。

しかし、サクセスはそんな彼を笑う。

「お前は何か勘違いしているようだが、この事業はヴァルハラ家から我がゴールドマン商会が請け負ったものだ。商人が儲かる見込みのないことをするわけがあるまい。無駄に人を犠牲にしたら、こっちまで恨みを買うのに」

そんな彼を、ガラハットは睨み付ける。

「俺みたいな半傷病人と、戦いをしたこともない素人の難民。それらを率いて、蛇鳥の集団を駆除できるって言いたいのか?」

「ああ。お前たちが本気で協力すればな」

サクセスとガラハットは睨み合う。サクセスの『鑑定』のメガネに、彼のスキルが表示された。

(どれどれ……『音』の魔法が使えるようだな。指揮官としての経験もあるみたいだし、こいつに兵士を任せよう)

サクセスがそう思っていると、ガラハットは搾り出すように声を上げた。

「……いいだろう。領主の命令を拒否しても、炊き出しをされなくなったらどの道俺たちはおしまいだ。だが、覚えておけ。俺たちを使い捨てにするなら、まず俺がお前を殺す」

「ああ。自分の目で見て判断しろ。ヴァルハラ領に忠誠を尽くし、ここに骨をうずめる価値があるのかないのかをな」

サクセスは自信たっぷりに宣言するのだった。


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