女王への献上
エジンバラ王国 王城
女王ビクトリアは、軍を統括する将軍から報告を受けていた。
「陛下。こちらが本年度の軍の予算でございます」
予算案を受け取った女王は、違和感に気づく。
「なんじゃ?この魔皮紙は。つるつるしておるのぉ」
「恐れながら申しあげます。これは魔物の皮から作った紙ではございません。木や草から作った樹皮紙と申すものでございます」
年老いた大将軍は、慇懃に答えた。
「ほう。木から紙ができるのか」
「はっ。軍ではすべての書類を樹皮紙に切り替えました。こちらのほうが軽く、書きやすい上に入手しやすいからでございます」
渡された予算案を見ると、紙にかかる予算は今までと同じものだったが、項目は「樹皮紙」に書き換えられていた。
「これはよいものじゃの。どこの領地で作っておるのじゃ」
「はっ。ヴァルハラ男爵家でございます」
それを聞いた女王は、ふっと微笑んだ。
「あの聖女の血を引く一族か。両親が早死にしたと聞いて心配しておったが。新たな紙を発明するとは、なかなか天晴れじゃの。これは褒めてやらねばなるまい」
女王はそういうと、ヴァルハラ家に対して手紙を書いた。
数日後、伝書鳩で手紙が届く。
「サクセス!女王様からのお褒めの手紙よ。よくやったわ!」
エリザベスは喜んでいるが、サクセスは少し警戒していた。
「どれどれ。ちょっと読ませろ。えっと……『新しい紙を発明したことを褒めて取らす。これからも忠誠を尽くすように』か。困ったな。ケツもちは軍だけでよかったんだか、女王にまで話が行ってしまったか」
手紙を持ったまま難しい顔をする彼をみて、エリザベスは首をかしげた。
「何よ。名誉なことじゃない。何が不満なの?」
「忠誠を求められているわけだ。これは言外に『紙を献上しろ』といわれているも同然なんだよ。売るのはいいけど、ただで巻きあげられるのはごめんだ」
サクセスは頭を抱えて困り果てている。
「いいじゃない。王国に忠誠を尽くすのは貴族の義務よ」
「俺は貴族じゃない。御用商人だ。見返りがない無料奉仕なんてするつもりはないさ」
頑なに拒否するサクセスに、エリザベスはあきれてしまった。
「まったく、あなたってお金にがめついわね……あたっ!」
「誰のせいだと思ってるんだ!」
サクセスはエリザベスにチョップすると、腹を決める。
「ええい。仕方ない。だけど、できるだけの見返りを引き出すぞ。いいか、俺が使者になるからな」
「は、はい。おまかせします」
その迫力に押されて、エリザベスは思わず頷くのだった。
王城に、ヴァルハラ領からの馬車がやってくる。
「女王陛下への献上物を持参しました」
緊張した様子の商人は、手紙と共に箱を差し出す。
さっそく城に招き入れられ、女王との謁見が開始された。
「ヴァルハラ領御用商人、ゴールドマンとやら。苦しゅうない。面をあげい」
「は、ははっ」
平伏していたサクセスは体を起こす。
「この箱が、ワラワへの献上物か?」
「は、はい」
そばに控えていた衛士が箱を開く。
その箱から、真っ白い紙が出てきた。
「ほう。軍に卸しておる茶色い紙とは違うようじゃの……ここまで美しい白い紙は見たことがない」
「それは貴重な白鷲の羽根を織り込んだ特別製の紙で、ほんのわずかしか生産できないものでございます」
サクセスはそういうが、実は嘘で茶色の樹皮紙を白スライムで漂白しただけのものである。
しかし、女王は貴重な紙と聞いて機嫌よく頷いた。
「それでは、毎年白い紙を献上するがよい」
「はっ。では、陛下のお墨付が得られたということで、その紙の名前を賜りたく存じます」
サクセスはさりげなくそう要求した。
「名前とな?」
「ははっ。何せ名前もついていない紙でございますので」
それを聞いて、女王はふっと笑う。
「よかろう。ではこの白い紙を『貴公紙』と名づけよう」
「ありがとうございます。今後はその名前で商売に励まさせていただきます。陛下が名付け親となったこの紙を、粗略には扱わないことを誓います」
「好きにするがよい」
女王は鷹揚に頷く。サクセスは深く頭を下げるが、心の中ではほっとしていた。
(くくく。女王に名前をつけてもらうことで、独占的に取り扱うという許可をもらった。これで白い紙を一定量献上するだけで紙市場を独占することができるな)
サクセスが仕掛けたのは、紙のブランド化である。
名前を女王につけてもらうことで、ブランド価値がつく。こうして女王が関わっていることを示せば、他の商人たちが取り扱うことができなくなるだろう。
「ヴァルハラ領の忠誠、見せてもらった。今後も励むがよい」
こうして女王との謁見をおえるのだった。
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