学校にて。
学校の下駄箱で靴を履き替えていると、
突然ブツッという放送前のノイズ音が聞こえた。
「…皆さんおはようございます。3年1組の佐々木隼人くん。至急職員室まで来てください。繰り返します…」
校内放送でまさか自分の名前が呼ばれる日が来るとは。
僕は、恥ずかしさから急いで職員室へと向かった。
「佐々木です。失礼します。」
ガラガラと扉を開けると、視線が一斉に突き刺さった。
視線を避けるようにゆっくりと顔をあげ、先生方の机の中央を見ると、野村がいつもより半分くらいに縮んでいた。
その前には鬼の化身との異名を持つ体育教師、松岡正。
「佐々木来たか。こっち来い。」
興奮しているのか、松岡は顔が赤い。
僕は内心ビビりまくりながら、堂々と歩を進めた。
野村のとなりに並ぶ。
野村は固く目を閉じていた。
「昨日の夜、外に出かけたか?」
松岡の静かな声が僕を貫く。
ここで僕は頭をフル回転させた。
この質問に対する僕の回答が今後の運命を左右する。
もし野村が先に自白していた場合、僕は正直に話すしかない。その状況で嘘をついてしまうと、僕は伝統を破った者+嘘つきという二重の罪を背負うことになる。
しかしもし野村がまだ自白していなかった場合に正直に話してしまうと、僕はまだバレていない罪を自ら自白してしまうことになる。それは大損である。
僕は悩んだ。
野村を一目見た。野村は固く目を閉じたままだ。
野村のことは正直まだよくわからないけど、仲間を売るやつではないと信じたい。
校内放送で呼び出されたのは野村が自白したのではなく、近所の中嶋さんの通報のせいだと思えば納得できる。
僕は決心した。
「いいえ、家にいました。」
顔を上げて松岡の目を見た。
松岡はじっと僕を見る。
僕は心臓がバクバクしていたが、耐えた。
「そうか。悪かったな。近隣の人から昨夜お前によく似た男が外にいたと知らせが来ていたから、一応確認な。まぁお前に似たやつなんかごまんといるからな。もう行っていいぞ。」
僕は飛び上がって喜びの舞を踊りそうになるのを必死にこらえた。
しかし、そうなると野村だけがバレているのか。
すまない、野村。
そう心で謝り、一礼して去ろうとする。
すると松岡が野村を見て、
「お前、いつまでそこにいるんだ。そんな神妙な顔したって、お前のゲームは返さんぞ。ゲームしながら登校する奴があるか。」
と呆れながら言った。
僕は一瞬でも野村を信じたことを後悔した。