雲の切れ目
「ふふ、ごめんね。大丈夫?」
ココアを追いかけて、結局捕まえられず
ヘトヘトで茂みに倒れ込んだ野村に、
青菜が笑顔で手を伸ばした。
「大丈夫っすよ!!女神様!!なんくるないさ!!」
テンション上がりすぎて何言ってるかわからない野村だが、しっかりと青菜の手を握っていた。
ココアがクッキーを食べ終えたらしく、満足気に戻ってきた。
「こら。ダメじゃないの。」
優しく叱る口調で、青菜はさりげなく野村の手を離した。
「いいよ。また持ってくるね。」
言いながら、野村は手をひらひらとさせた。
青菜は頷きそうなったが、ハッとしたようで
「ダメよ。満月の夜には出歩いたら行けないのよ。次に会うことはもうないわ。」
「君は満月の夜に出歩いてるのかい?」
無理やり僕は割り込んだ。
「私はいいのよ。ここの村の人じゃないし。むしろ満月の夜しかこの子を散歩させられないんだから。」
青菜は眉間にしわを寄せて僕の方を向いた。
ますますわけがわからない。
この村以外での一番近い集落でも車で一時間はかかる。
そんな遠くからわざわざ満月の夜だけここに散歩させにくる事情とはなんなのか。
もっと聞きたい。そう思った時、
「あ!!!!!!」
野村が叫んだ。
と同時に、まばゆい光が射した。
僕と青菜は光の方を見た。
雲の隙間から美しい満月が見えた。
それはそれは、綺麗で傷一つない黄金だった。
僕は見とれながら、青菜を横目で見た。
青菜は、目を細めて月を見ていた。
それはまるで自ら光を放つ女神様のようだった。
それからしばらくして、月はまた雲に隠れてしまった。
すると青菜は時間だからと言って、ココアを連れて急いで帰ってしまった。
野村は連絡先を聞けなかったと嘆きながら帰っていった。
僕はぼんやりしながら、自宅に戻り、こっそり自分の部屋へと戻った。
幸い誰にも気付かれずに済んだが、そのことよりも僕は青菜のことで頭がいっぱいになっていた。
そして次の満月の夜を調べて、手帳に日付を書いた。