おやつはムーンライトゥン
「よし、ここに決めた。ここならあの辺にある月が見えると思う。」
野村は満足気に草の上に腰を下ろす。
「シャー!!!!」
青菜の連れた動物が早くおやつをくれと言わんばかりに、鳴いている。
野村は慣れた様子で、
「あぁ、よしよし。これをやろう。」
ムーンライトゥンを手で割って、動物の近くに投げてやった。
「ニャーーーン。」
動物はすっかり手なづけられている。
さっきまでの威嚇はどこに行った。
青菜はただ黙ってそれを見ていた。
僕は後ろからゆっくり歩いてきて、
存在を忘れられないように
「ねぇ、あの子は犬なの?」
と聞いてみた。
青菜は忘れてた!という風に振り返って、
「あ…違うの。ミアキスなの。」
と言った。
「ミアキス?名前?」
と聞くと
「違う。名前はココア。」
と淡々と答えた。
僕の前にいるので青菜の表情は読めない。
ミアキスなのかココアなのかよくわからない動物は、野村にムーンライトゥンをもらって嬉しそうに小躍りしている。
それは普通の犬や猫と大差なくとても可愛いものだ。
「ふふっ。」
青菜から笑い声のようなものが漏れた。
野村は青菜が笑ったのをみて、
「よしよし。可愛いココアちゃんだこと。君のおかげで天使に会えたよ。」
と言って、また青菜の方にウインクした。
まだロックオンされているぞ青菜。
僕は助けるのもだるくなって、黙っていた。
「あなたたちは、あの村の人たち?」
青菜が言った。
僕は野村が答えるより先にゆっくりと彼女の斜め前に回って、
「そうだよ。君も?」
と聞いた。
僕は青菜に少し興味を持ち始めていた。
野村みたいな意味じゃなく、青菜という人間とココアはどこからきたのか、ただ単純に知りたかった。
青菜はぐっと僕の方をにらんだ。
どうやら僕とは相性が悪いかもしれない。
助けを求めるように野村の方に目をやると、
野村は何やらガサゴソとカバンを探り、
「はい。みんなお腹すいてるよね?ムーンライトゥン食べ…あぁぁぁあ!それ青菜ちゃんの分だから!こら!ココア!!」
青菜に渡そうとしたムーンライトゥンをココアがすかさず野村から奪い去った。
野村は焦って追いかけているが、ココアは足が速く全く捕まらない。
「ふふふ、ふふふっ。」
青菜がさっきより大きな声で笑っている。
そっと横顔を見た。色白な肌に、赤い唇が横に薄く伸び、綺麗なえくぼが出ている。
控えめに言って美人だ。
僕はやっと野村の愛の暴走がわかった気がした。