少女 青菜
「おーい!迷ったの?大丈夫?」
あまりに緊張感のない声で野村が話しかけている。
僕は迷ったが、茂みに隠れることにした。
女の子はびっくりしたようで、
「…?!…。」
何か言っているようだが、声が小さくて聞き取りづらい。
代わりに女の子が連れていた動物が
「シャー!!!!!」
と鳴いた。
鳴き声からすると猫か蛇なのかと思うが、見た目は犬のようだ。
何かわからない。
「おお…さっ散歩?」
少しビビったようで野村はさっきよりは小さな声でなおも続ける。
女の子は小さくうなずいた。
「…あー、びっくりさせてごめんね!俺たち満月を見に来たさわやかな少年で、僕は野村でこいつが…あれ?」
ビビったことが恥ずかしかったのか、急に声のトーンを上げて話し出した野村は、ようやく僕がいないことに気づいたようだ。
野村がここからどう切り抜けるのか見学したかったが、少し悪いと思ったので仕方なく僕は茂みから出た。
「おお!そこにいたか!あいつが佐々木っていうの。…で、貴方は?」
茂みから出てきた僕に目を丸くした女の子だったが、
「…青菜です。」
と答えてくれた。
「おおー!青菜ちゃん!僕達は運命の出会い…」
やばい、野村が暴走している。
焦った僕は、
「ねぇ、どうしてこんな夜に散歩してるの?伝統知ってるよね?」と聞いた。
特に気になっていたわけでもないが、野村の愛の暴走?を止めるために適当に質問しただけだ。
しかし青菜という少女は、グッと険しい表情になった。睨まれているようだ。
「あなたたちこそどうして?満月の夜は出歩いてはいけない約束でしょう?」
約束?伝統じゃないのか?
というか伝統を知ってるということは、やはりこの子は村の子なのか?
だが、見たことないのはなぜか。
青菜の答えで一気に疑問が増えて行く。
「佐々木ぃ、そんなのいいじゃん。」
険悪な雰囲気をぶち壊す、のんびりとした野村の声が響いた。
青菜も毒気が抜かれたように野村を見る。
「満月が綺麗だから、みんな見たくて今日会えたんだよ。な?青菜ちゃんもそうでしょ?それをお前、伝統だがなんだかって。ロマンがない!ロマンが!」
そう言って青菜にウインクするのを忘れない。
青菜はあっけにとられたように、野村を見つめる。
「とにかく雲が晴れるまで、お話ししよう!仲良くなろう!あ、俺お菓子持ってきたから、あっちで座って食べようよ。」
そう言って、お菓子を見せる。
すると「キャンキャン!」
彼女の連れた動物が走って追いかける。
「あ!ちょっと!」
と言いながら、青菜は引きずられるようについていった。
僕はまた置いていかれた。