表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月が綺麗なお話  作者: マナティ
4/23

野村の迷言

「あの人だよ。見えた?」

野村は急に立ち止まって僕に囁いた。


「…は?…アァ…あの人な。」

恐る恐る前を向くと、ようやく僕にも見えた。

僕らと同じくらいの背格好の人で、髪を後ろで縛っている女の子だと思う。


「そうそう。それと犬かな…暗くてよくわかんないけど、散歩してるのかも。」


「いやそれはないんじゃない。こんな満月の夜に散歩なんて。最近村に来たやつならわかるけど、そんな人野村以外にいないしなぁ…。」

僕がそういうと、野村はちょっとムッとした顔で

「あー新参者で悪うございましたね。」

と言った。

なんだ、こいつ怒るときあるのか。

妙に感心しながら、少女をじっと見るが


「いや…あんな子でも見たことないな…。」


「佐々木くんが知らないやつじゃないの?」


「そんな子いないよ。人が少ない村なんだから。野村も知ってるでしょ。」

僕らの住む村は、人口300人にも満たない。子どもの人数はもっと少ない。

僕らの中学校の1クラスの人数は10人だ。

それくらい少ないので、下の学年も上の学年の子も全員顔見知りだ。

もちろん小学生もほとんどわかる。


あんな子はいない。

断言できた。


途端にまたゾッとした。


「なぁ…帰ろうよ…。」

僕は思わず野村にそう言った。


「え?なんで?聞けばいいじゃない。お名前は?ってさ。」


さすが転校生。知らない人に会うことに慣れてるのか。

僕は自慢じゃないけど、あまり知らない人と話すのが得意じゃない。

というかそういう理由で怖がってるんじゃない。


「違うよ。この村でこんな夜に女の子一人っておかしいだろ。絶対普通じゃない。帰ろうぜ。やばいよ。」

僕はもう恐怖心を隠す気もなかった。

ここから離れられるならどんなことでもする勢いだ。


野村は呆れた顔で

「どこがおかしいんだよ。女の子だぞ?迷ったかもしれないじゃん。逆に美人だったら仲良くなれれば嬉しくないの?」


いやポジティブか。


「それは昼間だったらの話な。今は時間外だよ。やめよう。頼む、帰ろう。」

僕は必死で野村に頼んだ。


野村は僕の様子を見て

「佐々木…。」

と言って、真剣な顔になり、


「女の子に声かけるのに時間外なんかねぇよ。」

と言って、ずんずん向かっていった。


僕は呆然と立ち尽くして、野村の背中を見送ることしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ