あれからとこれから
「佐々木くぅん!」
僕をこう呼ぶのはあいつしかいない。
僕はため息をついた。
そして振り返ってすぐに
「その呼び方やめろ!」
と怒鳴った。
「えぇ〜いいじゃーん。親友なんだし!な!」
悪びれる様子のない野村である。
親友?いつからだよ。と思いながら、
僕は野村に
「で、何?」と聞く。
そこで急に真面目な顔になった野村は
「…やっぱり引っ越すの?」
と聞いてきた。
そうなのだ。僕は来月に引っ越すことに決まった。
この間の青菜とココアの件のせいである。
青菜とココアが一時捕らえられていたことは、なかったことになっている。
間違って公表しようものなら、この村はパニックになるだろうし、青菜はまだ子どもだったので誘拐として事件化される可能性もある。
僕らにも黙っていてほしい。
あの前川という男がそう判断したそうだ。
次の日の朝悔しそうに松岡から、僕と野村に伝えられた。
野村はニヤニヤしながらそれを聞いていた。
松岡からあの件で手出しされることはないとわかり、黙っていることを条件にちゃっかりゲーム機まで取り返していた。
さすがとしか言えない。
しかし僕は、満月の夜に出かけていたことがバレている。青菜が捕まった日だ。その前にも近所の中嶋さんにも見られている。
さすがに村中に知れ渡っており、母さんは散々嫌味を言われているようで、それが耐えられず短期間だけ引っ越すことになったのだ。
引っ越すと言っても、今のところとりあえず夏休みの一ヶ月間だけ都会の祖父母の家に帰るという体にしている。
そこから先はまだ白紙だ。
母さんは僕の素行を笑って許してくれ、私が嫌味に耐えられないせいでごめんねとも言われた。
でもその原因を生み出したのは僕だ。
謝っても謝りきれない。
「うん。とりあえず夏休みは、な。」
僕は歯切れ悪く野村に答えた。
「そっかぁ。」
野村は寂しそうに答えた。
そして下を向いた。
何をしているのかと僕はじっと野村を見つめる。
野村は勢いよく顔をあげると、
「…俺待ってるから。絶対帰ってこいよ。待ってる。」
赤い目で言った。
目が熱くなる。
それを振り切るように、
「うん!絶対帰る!」
勢いよく頷いた。
「…しゃあ!帰り俺ん家こいよ!」
野村は目を拭いながら、言った。
「行く!」
僕は全力で答えた。
今はまだ許されないことだけど…
いつか満月の夜にまた野村と出かけたい。
バカみたいに笑って、遊んで、話して、満月が沈んで行くまで見てみたい。
そして…青菜とココアにまた会えたらいいな。
僕はこっそりそう思った。
初作品でまったく趣旨ブレブレでさぞお見苦しかったと思います。
それでも読んでくださった方には感謝しかありません。
ありがとうございました。
これからも機会があればまた書いてみたいと思いました。
本当にありがとうございました。