ほんとは逃げたい
「ガッシャーン!」
けたたましい音が響き渡る。
鍵の部分が壊れ、ドアが開いた。
途端にビーーーーという警戒音。
そして、二階の倉庫の部屋の明かりがついたのを僕は見逃さなかった。
やはり、あそこだ。
僕は誰かが来る前に、割れたガラスをまたいで室内に入り展示されている甲冑の後ろに隠れた。
これは村の甲冑のレプリカだと聞いたことがあるが、今はどうでもいい。
バタバタと走ってくる音がする。
パッと電気がついた。
一瞬目がくらむ。
「誰だ!くそ!こんな時に…出て来い!」
声が聞こえた。
そしてもう1人バタバタと走ってくる。
「お前は見張ってろよ!何してんだよ!」
男が怒鳴りつけている。
そうか、見張りはこの2人だけか。
ならば、野村のために引きつけておかねばならない。
僕は意を決して、甲冑をぶっ倒した。
「ガラガラ!ドーン!」
同時に横にあったガラスも割る。
「ガッシャーン!」
立て続けに起こった音におどろいて、戻ろうとしていた男も立ち止まる。
音の方に目を向ける。
2人の視線が突き刺さった。
「お前は…昨日のやつか?」
「佐々木隼人だ。」
顔バレしてるし、先に名乗ってやった。
「何しにきたんだ…そうか、取り返しに来たんだな?!と、とりあえずその金槌おけよ。話し合おう。」
僕の持ってる金槌に気づいたらしい男は顔を強張らせた。もう1人の男は、部屋に戻るべきか考えあぐねている。
「うん、そうだよ。取り返しに来たよ。じゃあお兄さん2人とも、そこに座ってよ。」
出来るだけ無表情で、冷静な感じで話す。
2人ともと言うことにより、男達が部屋に戻らないよう誘導する。
賭けだった。
野村が今頃、非常階段から僕の渡したバールを使って、ドアノブを壊して侵入している筈だ。
幸い、入口のガラスを割ったお陰で鳴り続けている警戒音により野村の破壊音が取り消されているようだが、見つかったら意味がない。
鉢合わせるわけにはいかない。
2人の男は、じっと僕を見ている。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
ほんとうは逃げ出したい。
だけど、逃げるわけにはいかない。
男達はそっと顔を見合わせたが、僕を刺激しない方がいいと考えたらしい。
「わかった。」と言って、ゆっくり椅子に座った。
よし。
そして二階から微かに、トントン、という音が聞こえた。
合図だ。
よし。
あとは逃げるタイミングを図るだけだった。
だけど…
「何してるのかな。佐々木隼人くん。」
入口のガラス戸に昨日会った、40代くらいのリーダー格の男と顔を真っ赤にした松岡が立っていた。