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月が綺麗なお話  作者: マナティ
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始まり

「満月を見てはいけない」

この村には古くからそんな伝統がある。満月を見ることは、村に対する背徳になるらしい。だから満月の夜に出かけることなんて滅多にないし、窓から外を見てもいけない。


だから「な?満月みにいこうぜ!」

とクラスメイトの野村から誘われた時は、とても面倒くさいなと思ったのだ。


「行かない。」

僕は即答した。


しかし野村は引き下がらない。


「えー?!なんで?真白湖に映った満月とか、絶対綺麗だよ!」


僕は軽くため息をついた。


「あのね、野村くん。」


僕は真面目くさって、野村の顔をじっとみてやった。


「な、なんだよ。まさか湖に妖怪が出るとか…。」


急に見つめたからか、焦る野村。

まさかの妖怪説か。


これはこれで面白いと思ったが、後学のために教えておいてやろうと思い、


「全然違う。君は、最近引っ越して来たばかりだから知らないだろうけどね、この村には決まりがあるんだよ。」


野村は意外だったのか、

「へぇー。どんな?」

と身を乗り出してきた。


僕はもう一度心の中でため息をついた。


「満月の夜は出かけちゃいけない。この村では満月を見ることは村に対する背信行為なるんだよ。」

と言ってやった。


これで諦めるだろう、そう思ったが


「エェー!?なんでだよ!意味わかんねーよ。」

野村はしつこく絡みついてくる。

どんだけ満月が見たいんだ。


「意味とかじゃないんだよ。決まりなんだから。ここの校則の、ベルトは黒じゃなきゃダメっていうのと似たようなものだよ。」


少し苛立ったのでまくし立てて話した。


「いやいや、めっちゃ綺麗なんだよ。満月。感動するよ?一回くらいいいじゃん、見ようよ!」


いや野村、しつこいな。

この際満月とかどうでもいい。

とにかく野村から逃れたい。


「あのさ聞いてた?一回だけだからおっけーとかじゃないんだから。」


僕が強引に帰ろうとすると、


「お願い!こういうの佐々木にしか頼めないから。」

と言われてちょっと考えた。


確かに野村は引っ越して来たばかりであまり友達らしい人間がいない。


足早中学校はこの村に一つしかないから、みんな顔見知りだし、よそ者の野村はたしかに浮いていた。


唯一よく話すのが隣の席の僕くらいだ。

その野村の誘いを僕は簡単に断って、後で良心が痛むのではないか。


断ったことで勝手に一人で行って事故にでも遭われたら…。


先生からも、野村君をよろしくと頼まれていることもあり、野村の頼みを無下にできない気持ちもある。

くそぅ…。


僕は自分の人の良さを恨んだ。


「…わかったよ。一回だけだよ。今夜、真白湖の東側で待ち合わせでいいの?」

と振り返らず言った。


すると野村が前に回って来て


「ありがとう!!めっちゃ感謝!佐々木さま!7時でおなしゃす!」

と大げさに僕の手を握ってお辞儀した。


僕は3度めのため息をついた。


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