~誕生と待つ者の回~
白の少女は歌う。虚ろに、空ろに、焼け野原となった花畑の真ん中で、声高らかに。
少年は唱える。悲哀と憎悪に満ちた声音で。歌う少女の横で、ただ無表情に。
黒の少女は舞う。楽しげに、愉しげに、白の少女の前で、愛しさと狂おしさの笑顔を浮かべ。
血に染まった青年は奔る。焦燥と動揺の入り交じった顔で、道行く人とすれ違いながら。
塔の老婆は見る。遥か遠くを見通すように、諦観の表情で。
魔術の乙女は嗤う。嘲り、蹴落とすように、蔑みの顔で。横たわる彼の頬を撫でながら。
混沌とした世界で、彼らは佇む。まるで何かを切望するように。
黒の少女は言った。早く目覚めないかしら、と懐かしそうに頬を緩ませながら。
少年は呟いた。もう失う訳にはいかぬ、と悲しそうに涙を流しながら。
白の少女は謳った。この混沌とした世界への救いを、と願いながら。
青年は嘆いた。また救えぬのか、と胸を押さえながら。
老婆は独りごちた。もうすぐで終わるのね、と今までの日々に思いをめぐらせながら。
乙女は書いた。あの方を今度こそ護るのだ、と懐の杖を撫でながら。
そして産まれる。夜闇の中に浮かぶ月の光が。
産声は枯れた土地を湿し、流される涙は恵みの雨となった。
彼女の血は如何なる人も癒し、彼女の髪は万能の薬となった。
だが彼等は気付かない。昏い影に潜むものもまた存在することを。
影は笑んだ。今こそあの憎らしい愚者に鉄槌を下せると。
影に憑いた蟲は、もぞもぞと影から離れどこかに消えた。
今より開始まるのは悲劇か、喜劇か?もしくは終の見えない───
私にも理解らない。それは彼らの決めることだから。
私の手から離れた彼らの運命を紡げるのは、彼等しかいない。
滅びへ向かうか、英雄となるか、ああ、楽しみだ。私は覗き見る傍ら、記録を残そう。
温めてたネタです。