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■第一話 御魂結び

以前書いた小説を書き直したものです。

とりあえず1話だけとなります。

挿絵(By みてみん)


「あなたは何故いつまでも独り身なのですか? パートナーはいないんですか?」


 ついうっかりテレビのインタビューでボクには彼女がいないことを喋ってしまったために、このしつこいマスコミに追いかけられる羽目になってしまった。


「もうやめてください。ボクは行くところがあるんです」


 その場から離れようとすると、レポーターはボクの腕を掴み、ボクへと執拗にインタビューという名の嫌がらせをしてくる。


「政府の少子化対策として、未婚の男性は独身税を支払うことになっています。相手が見つからない男性は、社会的に無価値なんですよ? わかってますか?」


 そんなことは今や子供だって知っている。

 でも、生まれてこの方彼女なんか出来たことのないボクにはどうしようもない話だ。

 好きで独り身なんじゃないのに。


「結婚もできない童貞君は、一生畑奴隷として独身勢を払うしか価値がないんですよ?」


 全国ネットで生中継をしているインタビューで、ボクは顔を晒されて笑い物にされているのだ。


「ボクだって好きで一人なんじゃないんだ! もうやめてくれ!」


 強引に手を振りほどいてその場から逃げるボク。

 しかし、テレビ局のスタッフがボクの逃げ道を塞ぐ。


「そういう乱暴な所が原因なんじゃないんですか? やはり独り身は独り身である原因があると思いませんか?」


 どうしてボクがこんな目に合わなくちゃいけないんだ。

 ボクは涙をこらえて強引に走り抜ける。

 スタッフに服を掴まれるが、強引に突破しようとしたため服が破けてしまった。


 なんとかマスコミから逃れ、ボクは走って目的の場所へと向かった。




 少子化問題が激化する中、更に少子化へと拍車をかける出来事が起こった。

 それは、『御魂結び(みたまむすび)』というパッケージソフトの登場が原因だった。


 突如世の中に登場したそのソフトは、TVCMを通じて広まり、動画サイトでもたちまち大炎上した。


 一人のむさくるしい男が一匹の犬を連れて画面に登場する。

 髭を生やした恐らく30代であろう男だ。

 男は犬に装置のついた首輪をはめた。

 そして、その装置についていたボタンを押した。


 すると大量の光が溢れ出てきて犬を包み込んだ。

 なんと犬が一人の少女へと姿を変えたのだ。

 その少女は和ゴスと呼ばれる着物とゴシックロリータのかけ合わせの黒い衣装を着ており、見た目はどうみても10代前半だった。

 そして、あろうことか科学の発達した現代日本で『魔法』を使ったのだ。

 炎の球が突如として現れ、その球は少女の手の動きに合わせてくるりと移動する。

 そして、用意してあったドラム缶へと炎の球を投げつける。

 すると、ドラム缶は激しい爆発音とともに爆発した。

 カメラは燃え盛るドラム缶から少女へと切り替わり、少女はカメラに向かってにこっと笑顔で微笑む。


 そして画面に写しだされたのは、パッケージソフトの商品名。


「『御魂結びシリーズ第一弾TUBOMI――蕾』発売開始!」


 初めは誰もが合成だと思い込んでいた。

 しかし、次々と動画投稿サイトにアップする者が続出し、本当に動物が少女に変身でき、魔法を操ることが出来ることが判明する。

 しかもその動物は人間の言葉を理解し、普通の人間同様に接することができるのだ。


 そして人々は理解した。ペットの動物を自分好みの少女へと変身させることができるソフトが発売されたのだと。


 彼女が出来ない人でも、自分好みにカスタマイズできる彼女を手に入れる事が出来る。

 しかも、その彼女は自分を裏切らない。

 そんな夢のようなソフトが発売されたのだ。


 ペットの種類によって能力値は異なるが、手軽な犬でも猫でも鳥でもなんでもよいという手軽さも勢いに拍車をかけた。

 かつてないほどの社会問題を引き起こし、世の中の多くの男性がこのソフトを争って購入した。

 現在は第二弾まで発表されており、第三段目が本日発売開始となるのだ。


 ただでさえ結婚率が低下した日本で、ペットが若く可愛らしい女性になるソフトが販売されてしまい、日本の結婚率は過去最低となってしまった。

 その結果出産率も過去最低を記録し続けている。

 これを大問題だとして、政府は独身税の導入を強行採決したのだった。

 しかし、それでも少子化問題は悪化する一方で、政府はこのソフトの開発者と利用者を追い詰める作戦にでた。

 マスコミ洗脳である。

 独身男性をとことん叩き、社会のゴミだと宣伝して回る狂気の戦略だった。


「結婚もできない童貞君は、一生畑奴隷になって金貢いでろ」

「キモオタ童貞どもがやっと社会の役に立ったな」


 ボクの頭に浮かぶのは、マスコミの言う事を鵜呑みにして叫ぶ連中の声。


「くそっ……消えろ記憶! そんなことはどうでもいいだろうが!」


 さんざん言われてきたが、今はそんなことはどうでもいい!

 あと少しでKANAEを手に入れられるんだ!


 御魂結びシリーズ第三弾KANAE――叶。

 今日がその発売日であり、ボクは必死にためたお金を握りしめてこのソフトを買いに来ていたのだ。


「何とでも言えばいいさ。あれさえ手に入れられれば、ボクの人生は変わるんだ。なんて楽しみなんだ」


 ボクは嫌な出来事を無理やり忘れるため、頭の中でそのソフトのことを考えた。


 各シリーズで異なるのは、モデルとなる女性の容姿と変身後に得られる魔法のタイプだ。

 第一弾のTUBOMIは、黒髪ツインテールの小柄で可愛らしい少女で、能力のパラメーターはバランス型だ。

 第二弾のMIKOTOは、栗色の髪をしたセミロングの活発そうな可愛い少女で、能力のパラメーターは物理攻撃型だ。

 今回発売される第三弾のKANAEは、ピンクのロングヘア―をした清楚で可愛らしい少女で、能力のパラメーターは魔法特化型だ。


 容姿はモデルの子をベースに、細部をカスタマイズもできる。パラメーターも好きなように調節できるのだ。

 ベースになるモデルと、かけ合わされる動物によっても結果が異なることが判明し、多くの検証サイトが注目を浴びた。

 世間では自身でカスタマイズした彼女の事を御魂巫女みたまみこと呼称し、御魂巫女と一緒に旅行に行ったり、食事をしたりする写真などがツイッターやらインスタやらにアップされていた。

 そして、自分でカスタマイズした御魂巫女同志を対戦させる『御魂巫女大戦』というAR対戦ゲームが大ブレイクした。


 ボクはKANAEのモデルの少女を初めて見たとき、体に電流が走ったように衝撃を受けた。

 まさにボクの理想像そのものであり、ボクは彼女に心を奪われてしまった。

 

 かんなぎ かなえ。それがそのモデルになった少女の名前だ。

 開発者がお寺の住職だという事もあり、彼女は巫女服を着ていた。


「ついに彼女がボクの手に入るんだ。そうしたらボクは……」


 やっとボクは目的の場所へと辿り着いた。

 そこは開発元のお寺だ。

 そして既に大量の人達で行列が出来ていた。


「どうしよっかな。KANAE買っちゃおうかなー」

「あほかー! お前MIKOTOちゃん一筋じゃなかったのかよ! この裏切り者!」

「実際どうなのよ。最強はMIKOTO×熊一択っしょ」


 並んでいる男達はこれから購入するパッケージソフトの話題をしている。

 誰もが目を輝かし、自分の考える最高のパートナーを熱く語っている。


「問題は掛け合わせの動物だな……パッケージはKANAE以外ありえない。

でも、実際現物を拝むとなると……掛け合わせの動物も必要になるんだよな」

「適当に捨て猫でも拾うか? いや……せっかくだし、しっかり厳選した素体を使うべきだよな。

だがそれだと金が足りない。どうするか……」


 量子力学の発達により、より小さな、原子より分子よりも小さな光の光子を分割することができるようになった。

 その分割した光の光子には、それぞれ別の大量のデータを記録することが出きるようになった。

 しかし、大量に記録できるようになっただけではない。


 『量子テレポーテーション』


 元々一つだった量子を分割し、それぞれを別の場所に保管したとする。

 片方の量子だけにデータを書き込むと、なんと一瞬の内にもう片方の量子にも同じデータが書き込まれるのだ。

 この不思議な現象を利用して量子コンピューターは作られている。


 その理論を応用し、仮想現実内のVRアバターと、現実世界のARアバターを同時処理させることによって、この転巫女うたたみこという現象を処理しているのだ。

 そしてそのデータをパッケージとして販売する企業が現れた。

 それが元お寺の住職である。

 開発者であるうたた ひかるは住職でありながらプログラマーであり、量子物理学者であり、生物学者でもあった。

 うたたが最初に発表したプロトタイプ「TUBOMI――蕾」は、自身の娘である うたた つぼみ14歳が元となっている。


 行列で賑わう人々の前に、開発者の転晃が姿を現した。


「皆様、本日はお忙しい中、新ソフト『御魂結びKANAE ――かなえ』をお求め頂き、誠にありがとうございます。最初に簡単にKANAEのご紹介をさせて頂きたいと思います。

今回の新パッケージKANAEは、従来同様に素体に対してモデルKANAEのデータを投影することができます。

掛け合わせの傾向値は、術、精神面が特に優れており、素体は精神指数の高い素体をお選びいただくことでより一層その効果を発揮することができるでしょう。

しかし! 敢えて逆の傾向指数を持つ素体を選ぶことで、バランスをとって文武両道を目指すのもよいでしょう。バランスの良さは応用の良さに繋がります。

掛け合わせる前に、素体をある程度成長させるとより効果も倍増することは皆さまご存じのことと思われます。

パッケージのモデルになっている少女を誰にするか選び、その少女達の調整値をどうするか選び、転移先の素体動物を何にするか選び、素体をどう調教するか選び、掛け合わせ後の転巫女うたたみこをどうしたいか。

さあ、全てはあなた次第。あなただけの転巫女うたたみこ。あなたならどうしますか? あなたのお好きな用に。あなた好みに育ててください」


 長い行列の末、ついにボクの番がきた。

 ボクの心には、既に購入の喜びではなく別の感情に支配されていた。

 不安、興奮、疑問。

 あらゆる感情が頭の中を巡っていた。


「どうぞ、お入りください」


 済んだ綺麗な女性の声がした。

 恐らく彼女が巫叶なのだろう。

 ボクは扉を開け、中へと入っていった。

 中にいたのは巫女服を着たピンク色の可愛らしい少女だった。

 間違いない。彼女が巫叶だ。


 パッケージ購入後、素体へとパッケージ適用させたい人達は、モデルとなった御魂巫女みたまみこによって素体へと御魂移みたまうつしの儀式が行われる。

 儀式といってもそこに霊的な手法はなく、素体に機械を付けパッケージソフトをインストールするのだ。

 そして、購入者の要望によりいくつかのパラメータ設定が行われるのである。

 その作業をするために彼女が購入者の相手をしているのだ。


 ボクは、目の前にいる巫叶を見つめていた。

 本当に……出来るのだろうか。本当に……これでいいのだろうか。


 ボクの視線に彼女は困惑しているようだった。

 当然だろう。ボクは素体を持ち込んでいなかったからだ。


「あの、お客様。パッケージには素体が必要になるんです。素体のご用意はまだですよね?」

「あ……いや……あの……」

「外に提携している素体販売業者の方がいますので、そちらでお求めになってからもう一度いらっしゃってください」

「違うんだ! 素体は……その……ボク自身でお願いしたいんです! だめでしょうか?」

「え!? ご自身が……ですか!?」

「はい! 素体が動物じゃなくてもいいはずですよね? 出来るはずだと思うんですが」

「えと……それは……人間の方が親和性が高いとは思いますが……どうなんでしょう。素体をご自身でという方は今までいらっしゃらなかったので……」

「お願いします! ボクは……貴女になりたい! 貴女のような……綺麗で美しくて……周りから好かれて……」

「えぇぇ!? そ……それは……あの……」


 そう、ボクは……叶巫……君になりたいと思っているんだ。


「あはははは! 面白いじゃないか」


 裏の陰にいた転がこちらにやってきた。


「えーと失礼……お客様は……北白川さんですか。ふむ……なるほど。確かに御魂結びは人間にも適応できます。当初の設定では……というか、最終目標はそこを目指して開発していますので」

「それならぜひ!」

「しかしですね、倫理的にそれが許されるのかどうか……許容されるかどうかわからないのですよ」

「そちらとしても、人間素体での人体実験データが欲しいんじゃないですか? ボクがなります! なんならこのことは秘密にします」

「北白川さん……なぜそこまで自身を素体としたいとお考えなのでしょうか? よろしければその理由を教えてもらえませんか?」

「理由ですか。ボクは……ボクには……希望も何もないからです。社会に絶望して、パートナーもいない。作ろうとも思わない。夢も希望もない。生きてる価値なんか何もないんです。

でも! 御魂結び……これを知ったとき、ボクは感じたんです! これこそボクが求めていた物だと……この為にボクは生まれたんだと!

ぜひこのボクを、人間素体第1号にしてください! お願いします!!」


 どうしても叶えたい。ボクは土下座をして頼み込んだ。


「北白川さん……」

「北白川さん、済まないが夢は叶えられない」

「そ、そんな……」

「君が男性初の転巫女うたたみこになる。その夢は残念ながら叶わない。何故なら……あー、叶くん。済まんが扉に鍵を掛けてくれないかな」

「は、はい。」


 叶はまるで小動物のようにちょこちょこっと走りだし、扉の鍵を掛けた。


「これは一体どういう……?」

「済まないな、北白川さん。人類初の転巫女はこの私なのだ」


 そういうと転晃は何やら呟き始める。

 すると転の体の周りに小さな無数の光の帯を纏い始める。

 光が一層眩しさをましたその瞬間、ボクは眩しさに目を閉じてしまった。


 ゆっくりと目を開けると、そこには転の姿はなかった。

 代わりに一人の少女が立っていた。

 転が立っていたその場所に。


「!!!」

「ごめんね。北白川さん。第1号はこの私なの。モデルTUBOMI ――蕾。素体は……転晃うたたあきら。だから第1号の夢はあきらめて?」


 ゴシックロリータ風の巫女服、通称ゴス巫女衣装を纏った少女の可愛らしい声が部屋に響いた。


「すごい!! すごいです!! もう成功していたなんて!!」

「1号じゃなくてもいいなら、あなた自身を素体にしてみる?」

「もちろんです!!」

「あはは……」


 巫は苦笑いをするが、ボクへと向き直って真剣な表情をして話し出した。


「北白川さん、私は……自分自身を神に捧げるつもりで御魂結びの巫女になりました。私の願いは、みんなが幸せになって欲しいって。その為に私の体が役に立つならば、喜んで私の体を差し出します。

北白川さんが、私のモデルデータを使って、新たな人生を前向きに歩むことが出来るならば……それは私にとっても嬉しいことです。御魂結びを通して、みんなと繋がることが出来る。

このみんなが幸せになって欲しいって気持ちを伝えることが出来る。そう信じています。だから、北白川さん。どうか幸せになってくださいね」


 叶の笑顔は純粋だった。

 北白川は、自分に向けられた純粋な笑顔を見て初めて知った。

 笑顔がこんなに心を打つなんて。

 彼女の優しさは体中に響き渡り、その響きは風となって北白川の枯れ果てた心の草原を優しく駆け抜けた。


 女性ってこんなに素敵だったんだ……と。

 ボクも、こんな笑顔をしてみたいものだと。


 この日の彼女の笑顔は、決して消えない心象としてボクの心に焼き付いた。




 ある御魂結びを特集したテレビ番組に国中の注目が集まった。

 その内容によると、ある男が素体を自分にすることを選んだ型破りな人物が現れたのだという。

 なんと男でありながら少女の御魂を自分自身に入れたのだという。

 男から転巫女へと変身することができるようになったというのだ。

 男でありながら少女へと変身したいといった希望、別の性へ変身したいという欲望。

 そんな異常ともいえる希望と欲望を叶えた男が現れた。

 この異常な内容は瞬く間に広がった。

 そして、このニュースは多くの男たちの心を打つこととなった。

 この世に自らの居場所が無い者。

 楽しみを見いだせない者。

 一生独身だとあきらめていた者。

 現実の女性に失望していた者。


 そして、女性になりたかった者達。

 

 このある種異常とも見える事例は、またたくまに広がり、そして社会現象へとなった。


「これこそが……ボクの望むものだ!」


 北白川純は、この日を境にこの国で一番蔑まされる人物となり、また同時に特定層からのカリスマへとなった。

 社会に絶望した男達は、次々と北白川の元へと集まり、『社会に復讐せよ!』という号令のもと、自らを『魔法少女』と呼称した。


 そして、人類の敵『男だらけの魔法少女』が誕生した。


他にも小説書いてます。よろしかったら読んでみてください。

TS物です。

転生したからもう姉ちゃんじゃないよね? ~ボクが女の子になったワケ~

https://ncode.syosetu.com/n0746ff/

パラレルワールドでボクは魔法少女だった ~ちょっとえっちな女の子ライフ

https://ncode.syosetu.com/n8601fd/

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