脚本3/4
●中央指令所
リ「ミサイル、効果なし!」
伊「クソ・・・・・」
後ろで静かに、戦いの様子を見ている水岡。
水「・・・・・奴は、それほど日本を滅ぼしたいってのか。あの怪獣の強さが、ジェームズの怒りをそのまま表してるっていうのか・・・・?」
●UFO内
モニターを通して、戦いを見物するジェームズ。
ジェ「ハハハハハッ、無駄なことを!!デスレドラよ、殺してしまえ!」
●中央指令所
水「お前は一体・・・・・何をされたんだ・・・・・!?」
◇回想シーン
― 二ヶ月前 ―
夕方。
●『レドラ』で破壊された町。
ほぼ復旧していて、以前巨大な電波塔のあった場所には、小さなアンテナ小屋が建っている。
竜神岩のあった広場には、残骸がひとつ置かれ、”怪獣出現跡地”となっている。
マスターの店も、経営が続けられている。
マスターが店内で、グラスを動かしている。
水岡がドアを開けて入ってくる。
水岡「おーっす」
マスター「ああ、こんにちわ」
水「あれ、珍しいな。今日は吉崎いないの?」
マ「なんか、急に仕事が入っちゃったみたいですよ」
水「なんだよ、せっかくの日曜なのに。俺ですら休みなんだぜ」
マ「役場の建て替え工事なんて、忘れてたんですよ。町の復興に時間がかかりましたからね」
水「ああ、滅茶苦茶になったからなぁ。そうか、そういや最初にレドラが現れてから、もう5年も経つんだな」
マ「早いもんですよねぇ」
水「だな。・・・・・あ、ちょっとテレビつけてもらえる?」
マ「はいはい」
マスターがテレビをつけると、ニュースがやっている。
リポーター「(最初はハッキリ聞こえない)・・・・ぇー、ただいま、問題の中学校の前に・・・」
水「ああ、やっぱりやってた」
マ「?」
水「さっき、家でニュース見てたらやっててさ。ほら・・・・」
キャスター「・・・・しかし竹沢さん、なんと言うか・・・・・信じられないですよねぇ」
キャスター2「そうですねぇ。ましてや、学校の教師がですからね。やっぱり、意識の薄れが顕著になってきてるんですかね」
キャスター4「まあ、差別やイジメというのは非常にデリケートな問題ですからね。十年ぐらい前までは、道徳の時間にビデオを放映するなどして、意識の向上を図ったりしていたものですが・・・・」
キャスター3「・・・・えー。ではここで、問題をおさらいしておきましょう。事の発端は、とある中学校教師の言動でした・・・・。」
マ「これって・・・・」
水「どっかの馬鹿な教師がよ、自分のクラスん中で起こってたイジメを放置した挙句、余計なことを言って、そのイジメを悪化させたんだってさ。」
キャスター3「この教師は、生徒からいじめの相談を受けた次の日の学活の時間に、”社会にイジメがあるのは当然のことだ”などと発言。また、自分の目の前で行われていた身体的暴力をも、黙認していたようです。さらにこの教師は、自身が管理・運営するインターネット上のサイトで、在日朝鮮人や同和地区住民を差別する内容を数十項目に渡って書き連ねており、普段から、集団による差別を助長する行為を繰り返していた模様です。」
キャスター「・・・・えぇ、書類送検され現在取調べ中のこの教師は、”生徒を強くするため、生徒のためにやった”と話していますが・・・・・」
マ「信じられないですね、これ・・・・・・」
水「だろ?・・・・まったく馬鹿な話だよ。」
マ「・・・・・え、いや、だって。イジメが当然だなんて・・・・・滅茶苦茶ですよ。そりゃ確かに、世間全体から見れば、ごくありふれた事なのかも知れないですけど・・・・・」
水「この教師はきっと、そこまで考えちゃいないよ。元々、差別を助長してたみたいだし・・・・・。まぁ・・・・・目の前のイジメをほったらかしにした奴が言ったって、説得力無えわな。」
水岡は自嘲気味に笑って、コップの水を飲み干す。
水「結局よ、いじめや差別の理由なんて何だっていいんだよ。周囲と比べて少しでも変わった奴がいるといじめて、そのクセ、何かと理由をつけちゃあ正当化しようとしやがる。」
マ「なんか分かる気がします。・・・・・俺が中学のとき、いじめられてる奴がいたんですよ」
水「うん」
マ「最初は、”勉強ができないから”とかそんな理由だったんですよね。で、そいつが必死に勉強して成績上げたら、今度は”顔がキモイから”とか言い始めて。で、担任にバレて怒られるときになったら今度は”性格が悪いから”とか言って、なんかコロコロ理由が変わるんですよ。」
水「いじめの典型だな・・・・・。」
水岡、コップを口に当てて中身をすする。
水「第一、大人だって偉そうなことは言えねえよ。部落差別なんか特にそうだ。だってよ・・・・なんで同和地区への差別が始まったのかって、ちゃんと理解してる奴が、今の世の中に何人いると思う?」
マ「絶対少ないですよね・・・・。作ったのって、確か・・・・・」
水「徳川家康。農民の不満をそらすために、差別される身分を作った・・・・・。たったそれだけの理由だぜ。もう、400年も経ってる上、法律だって変わったんだ。それがいつまで経っても無くならねえのは、理由も知らねえクセに”周りがやってるから”とか、そんな理由で差別に加わる馬鹿がいるからだと思う。そのクセ、理由を聞かれたら”部落出身だから”とか、いかにも相手に原因があるみたいな言い方しやがる。自分がイジメやって楽しみたいだけなのによ。しかも、社会人が中心なんだぜ。馬鹿馬鹿しいにも程があるよ。」
吉崎入店。
吉崎「ういーっす。」
水「おつかれさん」
マ「いらっしゃい。」
吉「水くれ、水。」
マ「はいはい」
吉崎、チラッとテレビを見て驚く。
吉「あっ、このニュース・・・・」
水「知ってんの、吉崎?」
吉「うん。さっき、役場のテレビでやってた」
水「ひでえ話だと思わねえか?」
吉「思う思う。教師だろ?ホント、ありえねえっての・・・・・」
マ「さっきから水岡さんと、いじめとか差別について話してたんですよ」
吉「飲み屋でそんな話すんのもどうかと思うが・・・・・」
水「そりゃそうだな」
吉「まあ俺としちゃあ・・・・その、クラスの中で起こってたっていういじめの、原因に興味があるな」
水「原因?」
マ「はい、水」
吉「ああ、ありがと。(グラスを受け取りつつ)まぁ、まずそのクソ教師は論外としてだな。いじめは、いじめをやってる方が悪いな。ただ気になんのはさ、その、いじめられてた奴が本当に何の欠点もない、誠実でいい奴だったかってことだ。見てた感じ、このニュースでやってるのは、たぶん違うと思うけどさ・・・・。早い話がさ、性格の悪い奴ってのは集団の中じゃ嫌われるだろ?」
水「確かに・・・・・もし、仮に吉崎が腹黒くて、ネチネチしてて、わがままで、平気で人を傷つけるような奴だったとしたら、村八分にされるわな」
吉「おいおい、人を変な例えに使うなよ」
マ「でもやっぱり・・・・・いじめは、いじめてる方が悪いですよ」
吉「いや、だから俺もそう思うんだけどな。要するにさ、”いじめる”ってことと、”嫌う”ってことじゃわけが違うと思うんだよ。」
マ「・・・・・?」
吉「”嫌う”っていうのはさ、あくまでも自分の好き嫌いの問題だろ?でも”いじめる”ってのは、自分の勝手な都合で相手の人権を侵害することなんだよ。だから、”嫌う”のはいいけど”いじめる”のは駄目なんだよ。」
水「・・・・あぁ、確かにそうかもなぁ。」
マ「吉崎さん、案外頭いいんですね・・・・・」
吉「余計なお世話だよ。・・・・・だからさ、もし性格の悪い奴だったとしたら、”嫌われる”のは当たり前なんだよ。」
水「・・・・・でも、リンチにかけるのはいけない、か。確かにそうなんだよなぁ。でも・・・・・そう考えると、勘違いしてる奴が結構多いってことにならないか?」
吉「うん、そうなんだよ。”相手の性格が悪いから”とかなんとか言って、いかにもイジメが正しいことみたいに言う奴いるけどさ、駄目なんだよ本当は。”大義名分”っていうの?誰かをリンチにかけるには、自分たちのやってることを”正義”だとかほざける理由があればいいわけだ。だから、相手の嫌われてる理由を持ち出してきて、”相手に原因がある”なんて言い始めるんだよ。違うんだよ。どんなに嫌われてようが、”いじめる”のはいけないことなんだよ。」
水「・・・・でも逆に、”嫌われる”のは本人が悪いってことか」
吉「ああ。・・・・なんかおかしいかな?」
水「いや・・・・なんか、やけに詳しいなと思って」
吉「実は昔、中学にそういう奴がいたんだよね。とことん性格が悪くて、周りの態度でとっくに気がついてるのに、絶対に謝らねえの。平気で人を傷つけるようなこと言うしさ。で、その流れでそいつにイジメが始まって・・・・・・」
水「・・・・もしかして、吉崎も加わってたとか?」
吉「・・・・・ああ、まあそういうことだよ。教師に怒られたとき、何で俺らが怒られてるんだろうって、疑問に思った。それから考えに考えて、こういう結論が出たんだ。いじめ自体は正当化できないけど、嫌われてもしょうがない奴はいるんじゃないの、ってな。このニュースの中学生がどうなのかは知らないけど、そういうのもありえるってことだよ。何でも一概には言えねえさ。」
水「・・・・・いいんじゃねえの。吉崎なりの経験から出た答えなんだしさ。」
マ「でも最近って、欠点を指摘するより、いじめの方が先に始まっちゃうと思うんですけど・・・・。」
吉「あ~、言われてみれば・・・・」
マ「言動に気をつけたほうがいいとか、空気を読めとか、そうやって具体的に指摘してくれる人間がいないから・・・・・殴ったり蹴飛ばしたり、暴力が先行しちゃうってのも・・・・・。」
吉「ん~・・・・」
水「そういやさ・・・・吉崎の話で思い出したんだけど、なんか、いじめや差別の原因っつーか理由ってのが、あやふやにされてると思うんだよね」
マ「あやふやって言うと・・・・」
水「”イジメが先なのか、理由が先なのか”って言う意味だよ。その辺あやふやだとさ、差別をやった後で、後付の理由をゴタゴタと並べることもできちゃうわけだろ?」
マ「確かに・・・・・どっちに責任があるのか、それひとつで変わっちゃいますからね」
水「インターネットが特に酷いんだけどさ、重い問題を他人事で済ませようとする連中が多すぎるんだよね。顔が見えねえからって、無責任に無神経なことばっかり言いやがってよ。どっかの会社で差別があるとさ、『被害者に落ち度があったんじゃないか』とか被害者が叩かれるし。逆に、どっかの国の外国人が問題を起こせば、『これだからナントカ人は嫌なんだよ』とか言ってひとくくりにされるし。なんでそうなるんだか・・・・。偏見が横行してるんだよな。そうでなくたって、面白半分に外国人差別してる連中のせいで、誤解されてるってのによ・・・・・」
マ「・・・・・誤解が誤解を呼んで、話がどんどんこじれていく・・・・嫌な連鎖ですね。」
吉「だな。馬鹿なのが、無神経なこと言って人を傷つけたりもするわけだし。さっきはああ言ったけど、やられてる側からすれば、切実な問題だからな。『社会にいじめがあるのは当然』だなんて、大勢の目の前で普通は言えねえよ。」
水「”嫌な連鎖”か・・・・・・確かにな。」
水岡、そう言ってグラスを傾ける。
◇回想終わる
●廃墟になった新宿の街
瓦礫の間を、バスが一台走っている。
先ほど、男に奪われたバスである。
●バス車内
男、時々後ろを振り返っている。
男「はあ、・・・はあ、・・・・・・・・ここまで来れば・・・。ひゃひゃひゃ・・・・あいつら、今頃・・・まあ、悪く思わないでくれよぉ」
男、正面に向き直る。
次の瞬間バス目掛けて、レドラが後ろ向きに吹っ飛んでくる。
一瞬でフロントガラスいっぱいに広がるレドラの背中。
よける暇も無く、運転席付近はレドラの巨体に押しつぶされる。
レドラはバスの残骸の中でもがいている。
瓦礫の中を、デスレドラが突き進んでくる。
破壊光線が放たれる。
バスの残骸が吹き飛び、レドラが光線の中でもがく。
光線を止め、デスレドラは再び突き進む。
24式がレーザーを撃ちながら、瓦礫の中を進んでくる。
数発がデスレドラの背中に命中するも、効果は無い。
●24式車内
隊長「くっ・・・・全く効果が無いなんて・・・・!」
大澤「(スコープに目を当てたまま)奴に、弱点とか無いんですかね!?」
隊「・・・・・弱点か」
隊長は、モニターに映るデスレドラの全身を探す。
隊「・・・・・大澤、腕の関節を狙え!装甲が薄い分、ダメージも大きいかもしれん!」
大「了解・・・・!」
●路上
24式の砲塔が少しだけせり上がり、再びレーザーが発射される。
デスレドラの右肩辺りにレーザーが当たり、デスレドラが悲鳴を上げる。
●戦車内
大澤、ボタンを連打し、レーザーを連射する。
●路上
レーザー全て、デスレドラの右肩付近に命中する。
怒り狂ったデスレドラが24式に突進してくる。
そのときレドラが後ろで立ち上がり、デスレドラの脇腹に体当たりする。
デスレドラが一瞬止まる。
レドラは、デスレドラの胴体を掴むと、力任せに投げ飛ばす。
瓦礫の中に叩きつけられるデスレドラ。
しばらくの間、レドラはその場で構えている。
デスレドラが突然立ち上がる。
すれ違いざまに尾で一撃を加え、レドラを弾き飛ばす。
倒れて呻くレドラ。
数度にわたって、尾が叩きつけられる。
●戦車内
大「この野郎・・・・!」
●路上
24式のレーザー。
右肩に命中して、デスレドラがもがく。
そして次の一筋が命中した瞬間、デスレドラの右腕が粉砕されて吹っ飛ぶ。
●戦車内
隊「よし!!」
大「やった!」
●路上
ブチ切れたデスレドラが、24式に容赦なく破壊光線を撃ってくる。
数発が車体に命中する。
●戦車内
二人「うわっ!?」
●路上
デスレドラが、24式に体当たりして横転させる。
ひっくり返って動けなくなった所に、デスレドラが光線の乱射をかける。
光線の命中したその瞬間、車体裏のエンジンが爆発する。
24式の車体から火花が散って、白煙が上がる。
●中央指令所
伊野「隊長ぉぉぉぉっ!!」
伊野の叫びが響く。
●路上
24式から上がる煙の中で、デスレドラが勝どきの声を上げる。
●UFO内
ジェームズ「ハハハハッ!また一人、醜き日本人が消えたぞ!!なんと無様なことよ!だが、こんなものでは収まらん・・・・・。もっと我が快楽を満たせ、デスレドラぁ!!」
◇ジェームズの過去(時間的には未来)回想
●空港
14歳ぐらいのジェームズが、父親と一緒にいる。
日本語は慣れておらず、カタコト。
父「ジェームズ、これから私たちは、この日本で暮らすんだぞ。すごいぞ、サムライの国だ・・・・」
ジェ「?」
●中学校
学校にいるジェームズ。
友達に、頭髪の色を聞かれている。
友「お前って、なんで髪こんな色なの~?」
ジェ「僕・・・・日系人だから・・・・・」
友「にっけーじん?」
ジェ「うん、日本人とアメリカ人のハーフ・・・・」
友「ふーん・・・・」
●教室内
少し成長したジェームズ。
教室内で笑うジェームズを、遠くから数人の生徒が眺めている。
生徒A「・・・・・なぁ、あいつウザくね?」
生B「え、なんで?」
生A「こないだアイツ、俺に偉そうに反対しやがってよー、マジムカつくし。日本来たばっかのクセに調子に乗りすぎなんだよ。日本語もちゃんと喋れねークセによー。」
生C「ヒャハハハ、確かに言えてるし。」
生A「日本に住ませてもらってんだから、もっと大人しくしろっての。なあ?」
生C「ちげーねーw」
生A「ホントマジありえねーし。俺のパパが許可しなかったら、あいつ日本入れねーんだよ?」
生B「木村のパパ何やってんだっけ」
生A「え、”入国管理局”とかって所。本当マジありえねー。髪も染めちゃってるしさー。」
生C「ギャハハ。染めてるとか、マジありえねえ。」
生D「ギャハハハハ」
●教室内
またしばらくして、教室。
ジェ「ねえ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・・・」
生B「・・・・・・・・・」
生A「・・・・・・・・・」
ジェ「ねえ、ちょっと・・・・・」
生B「は?なに?何つってんだよ、わかんねーよ」
生A「日本語しゃべれよw」
ジェ「えっ・・・・・・・」
●教室内
別の日、教室。
生B「ねーちょっと君、聞きたいことあんだけど。」
ジェ「え、何・・・・・?」
生B「だから、聞きたいことあるんだけど?」
ジェ「何を聞きたいの・・・・?」
生B「だーかーらー、日本語喋れってのw」
ジェ「え・・・・・」
生B「ったく、日本語喋れねえならアメリカに帰れよw」
ジェ「そんな・・・・・」
生B「アメリカに帰れよ(笑)レッツ、リターントゥアメーリキャー♪ウヒャヒャヒャヒャ!」
ジェ「・・・・・・」
●学校の廊下
別の日、廊下。
教師が歩いてくるジェームズに目をとめる。
(この教師は、神経質そうな喋り方がいい)
教師「ちょっと、ジェームズ君?君の髪の毛だけどね・・・・・黒に染めたほうがいいよ」
ジェ「え、だって・・・・」
教「大きな声じゃ言えないけど・・・・君、いじめられてるんだろう?」
ジェ「・・・・・・」
教「生まれつきとはいえ、金髪はやはり目立つからね。染めたほうが無難だよ」
ジェ「・・・・・・」
教「君のためを思って言ってるんだよ」
ジェ「で、でも・・・・!」
教「とにかく!校則で、髪は黒と決まってるんだ。明日までに染めてきなさい!」
●教室
別の日、教室。
ジェームズは、笑ってもいないし、無口。
ジェ「・・・・・・」
生B「ねえねえ、ジェームズくん」
ジェ「・・・・・・」
生B「ジェームズくん、ねぇジェームズくんってばぁ」
ジェ「・・・・・」
生B「はぁ?なにシカトこいちゃってんの?死ねよテメー!」
ジェームズ、突き飛ばされる。
ジェ「うわっ・・・・・」
壁に激突するジェームズ。
生B「死ーね!死ーね!」
見かけた生徒Cが、加わってくる。
生B・C「死ーね!死ーね!死ーね!」
いつの間に他の生徒まで加わってきて、大合唱になる。
生徒たち「死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!!」
ジェームズは、ワナワナと震えている。
かすかに、涙がこぼれ落ちる。
●どこかの大学
あれから7,8年が経過しており、ジェームズは大学院生となっている。
大学教授らしい男と一緒に廊下を歩いている。
教授「・・・・・ジェームズ君、君の論文読ませてもらったが・・・・・・なかなか良かったと思うよ。『獣としてのヒト・人間としてのヒト』・・・・・『獣としての”ヒト”は、少数派を迫害し生贄として扱う。他者に無理解であり、違いを尊重できず一方的な優劣をつけようとする幼稚な行いは、それに帰結するところがある。それに対し人間としての”ヒト”は、違いを受け入れることができるばかりか、他者の肉体的・精神的苦痛にさえ共鳴することのできる、最高の共同体へとなり得る』。・・・・・・よく、こんな内容が思いついたね。」
ジェームズは黙って微笑み、
ジェ『・・・・・僕自身が、体験したからですよ。』
そう言って、ジェームズはスタスタと去っていく。
●ジェームズ宅
帰宅してきたジェームズ。
テレビをつけるとニュースで、どこかの研究所の室内が映し出されている。
所長らしき人物が、マスコミに向けて話している。
所長「・・・・・であるからして、過去で何らかの不測の事態が発生した場合でも、時間軸が分岐することによって並行世界が発生し、因果律は守られる。すなわち、タイムパラドックスは発生し得ない。その他諸々の複雑な説明は後にいたしますが、理論上は俗に言う”親殺しのパラドックス”のようなものも発生しません。歴史の変化を感知することができるのは、観測者だけであり・・・・・・」
ジェ「時間旅行か・・・・・・、俺には縁の無い話だな。」
ジェームズ、そう言ってチャンネルを変える。
突然、テレビからリポーターの興奮した声が響いてくる。
リポーター「・・・・ますか、聞こえますか?ただいま、事件現場にいます!現場は現在、警察によって封鎖されていますが、ご覧の通りテープの外からでも、路上に飛び散った血が鮮明に見えるほどです!」
ジェ「・・・・・・?」
リ「今から一時間ほど前、アメリカ人の男性会社員一人が、こちらの現場にて刃物を持った男に襲われました。被害者の男性は、アメリカ国籍のジョージ・ラムズ・グラントさんで、病院に搬送されましたが、全身の数十箇所を刃物で刺されており、まもなく死亡しました。」
ジェームズ、音を立てて突然立ち上がる。
ジェ「父さんが・・・・・殺された・・・・!?」
リ「駆けつけた警察官によって現行犯逮捕されました犯人は、右翼系思想団体に加入していたサラリーマンの男、高之原和秀容疑者34歳です。高之原容疑者は調べに対し、『日本の国益を守るための正義の行いだ』と供述しており、警察では・・・・・」
ジェームズは、泣き崩れてしまう。
ジェ「父さん・・・・・・父さん・・・・・」
●どこかの大学
放心状態で廊下を歩いているジェームズ。
周囲からは、ヒソヒソと噂話が聞こえてくる。
『昨日のニュース見たかよ・・・・・』(オレ)
『アイツの親父殺されたんだって・・・・・』(野田)
『可哀想・・・・・』(蘭)
『アメリカ人だって理由で殺されたらしいぜ・・・・・』(野田)
『日本に来たばっかりの時も、アメリカ人だからって虐められてたらしいよ・・・・・』(長谷川)
『うわぁ、ヤバイよ。絶対日本人のこと怨んでるって・・・・・』(オレ)
『仕返しとかされんじゃねーの・・・・・』(野田)
『えー、コワーい・・・・・』(蘭)
背後で飛び交う、無理解な噂。
先日の大学教授が立っている。
教授「ジェームズ君・・・・・お父さんのこと、残念だったね・・・・・」
ジェ「いえ・・・・・」
教「私にできることがあれば、何でも言ってくれたまえ」
ジェ「・・・・・ありがとうございます」
ジェームズ、少し涙声で去っていく。
●どこかの大学・別室
開いたドアの側を通ろうとするジェームズだが、中から話し声が聞こえてくる。
教授の声。
教「・・・・いやはや、全く面倒なことになったよ。」
ジェームズ、歩みが止まる。
教授は誰かと話している模様。
教「彼はきっと、日本人を憎んでいるだろうからな。言動には気をつけんとな。ヘタなこと言って刺激して、復讐なんかされたらたまらんからなぁ。」
ジェームズの表情が凍りつく。
教「同情?誰がそんな事を?世間は彼の父親を擁護しているらしいがね、私から言わせれば、彼の父親にもきっと原因があったんだろう。犯人の動機は、『日本の国益を守るため』だったかな?そりゃあ君、日本経済に直接リンクしているような会社の中で、日本人でない人間が出しゃばっていたら、目をつけられて当然だろう。ハハハハハハハハハ・・・・」
ジェームズ、部屋に入る。
教「まぁ、せいぜい善人のフリを・・・・・」
教授の声が途絶える。
ジェームズが何かを喚きながら殴りかかり、画面は瞬時に暗くなる。
●ジェームズ宅
呆然と座っているだけのジェームズ。
ジェームズの心の声が響き渡る。
(あいつらは人間じゃない・・・・・・)
(アイツラハニンゲンジャナイ!)
(ただの獣だ・・・・・・)
(ケダモノダケダモノダケダモノダ!!)
その時、点けっぱなしのテレビから音声が聞こえる。
リポーター「・・・・速報が入って来ました!巨大円盤型タイムマシンが、完成したとのことです!繰り返しお伝えします。芹沢航時機開発研究所が、つい先程、巨大な円盤型タイムマシンを完成させたとのことです!これに伴い内閣は先程、開発を受注していた研究所に・・・・・・・・」
ジェ「・・・・・・・」
ジェームズの口元アップ。
口が不気味な笑みに歪む。
◇回想終わる
●UFO内
ジェ「汚らわしい・・・・・・・・ケダモノ共が・・・・」
●新宿の廃墟
レドラが、デスレドラに向かって突き進んでいく。
デスレドラは迎え撃つ。
レドラが火球を放つ。
火球は、デスレドラの右腕があった場所に命中する。
右肩から激しく火花が飛び散る。
損傷部に更にダメージを受け、デスレドラが叫ぶ。
レドラは更に突き進んでいき、デスレドラの頭部を殴打する。
デスレドラの尾が一閃し、レドラを弾き飛ばす。
●中央指令所
伊野「援護射撃はまだなのか!?」
オペレーター「あと五分はかかります!瓦礫が多すぎて、友軍の到着が遅れてるようです」
伊「住民の避難状況は?」
リー「中野や杉並から救援部隊が向かってますが・・・・・」
伊「時間がかかるか・・・・・?」
リ「避難完了に、一時間は必要です」
伊「畜生・・・・バスを奪うような馬鹿は一体、どこのどいつなんだ!?」
オ「伊野さん!小平の自衛隊基地が、19式戦車の連隊を友軍として出動させてくれるそうです!」
伊「すぐに承諾してくれ!」
オ「了解!」
伊「今は、少しでも戦力が必要なんだ・・・・!」
●新宿の廃墟
レドラが再び吹っ飛ばされる。
瓦礫の中に、仰向けに倒れるレドラ。
デスレドラが近づいてくる。
突然、銃声がする。
デスレドラの体に弾丸が当たる。
動きの止まったデスレドラの体に、更に複数の弾丸が命中する。
一発は、目の下に当たる。
デスレドラが振り向く。
瓦礫の上に隊長が立ち、拳銃を構えている。
●中央指令所
伊野「隊長!?」
オペレーター「隊長が生きてる!」
●新宿の廃墟
隊長が、更にもう一発撃つ。
惹きつけられたデスレドラが、瓦礫を跳ね飛ばしながら向かってくる。
隊長「逃げろっ」
大澤「はいっ」
隊長と大澤は、瓦礫の中を逃走する。
デスレドラが追う。
しかしまた突然、デスレドラの動きが止まる。
レドラが、背後で起き上がる。
●UFO内
ジェームズが、キーボードを叩いている。
ジェ「追うな、デスレドラ・・・・・。お前に、新しい腕を与える。使え!」
●新宿の廃墟
UFOから光線が照射され、デスレドラに降り注ぐ。
デスレドラの右肩から新しい骨組みが生えてきたかと思うと、ほとんど一瞬で巨大な腕が完成する。
光が消え、デスレドラは新しい右腕を振り回す。
瓦礫の山を縫って、20式戦車の大部隊が到着する。
レーザーが一斉に照射される。
デスレドラの全身に、レーザーが雨のように降り注ぐ。
全身から火花が散るが、デスレドラは意に介していない。
一旦砲撃がやむ。
その瞬間に、デスレドラの目が発光しはじめ、数秒のち破壊光線が放たれる。
破壊光線は、デスレドラの頭の動きにあわせて全方位に照射される。
破壊光線を浴びた戦車が、次々と爆発し、木っ端微塵になっていく。
●中央指令所
オペレーター「せ・・・・戦車大隊、全滅!!」
伊野「たったの一撃で!?なんて奴だ・・・・!」
●新宿の廃墟
デスレドラ、腰の粒子ジェットを噴射すると、空中に浮かぶ。
羽を広げ、ジェット噴射で飛び去る。
レドラも弱々しく羽ばたいて、空中に浮かぶと、デスレドラの後を追って飛ぶ。
●中央指令所
オ「怪獣は何処に向かってるんですか?」
伊「まっすぐ南に向かって飛んでる。・・・・!!」
オ「ど、どうしたんですか」
伊「リー、今の避難状況はどのくらいだ!?」
リ「5%完了しています!」
伊「たったそれだけか・・・・!とにかく急ぐようにって伝えてくれ!怪獣は、代々木体育館の方面に向かってる!」
突然、無線から隊長の声。
隊長「・・・・・野!聞こえるか、伊野!」
伊「・・・・た、隊長っ!?」
オ「ご無事ですか!」
隊「全然無事だよ。話は後だ。怪獣はどこに向かったんだ?」
伊「住民が現在避難している、代々木体育館に・・・・!」
隊「代々木から、再避難させられるか?」
伊「別動隊が救援に向かってくれてますが、時間が・・・・」
隊「なら地下室だ。今すぐ連絡して、残っている住民全員、地下室に避難させろ。安全を図るにはそれしかない」
伊「はいっ」
隊「それから、小平の自衛隊基地に・・・・」
伊「あ・・・・小平の基地からは既に、19式の友軍が出動してます!」
隊「そうか。それなら警察に要請して、甲州街道に規制を張ってくれ。大して走っちゃいないと思うが、念のためだ」
伊「・・・了解っ」
隊「・・・・・伊野っ」
伊「はい?」
隊「まだ終わっちゃいない。絶対に諦めるんじゃないぞ!」
伊「はい!」
通信は切れる。
伊「隊長・・・・・・」