『 ドライブ 』 著:KAITO
「いらっしゃいませお客様、その物語をご所望でしょうか?」
「お客様に合う物語である事を、私共は心の底から祈ります」
「それでは、ごゆっくりと、おたのしみください……」
『 ドライブ 』 著:KAITO
いつにも増して眠い。
ハンドルを握る手が重い。
たまにすれ違う対向車線のヘッドライトが、閉じそうになる目蓋を刺激する。
最後に真面に寝たのはいつだったか。
そんなことはどうでもいいか。
居眠り運転で事故でも起こそうものなら、僕の人生が終わってしまう。
高校を卒業して大学に進学し、テキトウな毎日を送り、何処にでもあるような中小企業に就職しても、残業続きの毎日。
心の支えにするは、大学で知り合った一人の女性。
そこまで美人ではないがブスでもない。
ただふとした時に見せる笑顔がとても魅力的で、話しかけた事もない彼女を、いつも隅の席から見つめていた。
今思えば、あの時話しかけておけばよかった。
名前を聞いておけばよかった。
連絡先を交換しておけばよかった。
好きだと伝えればよかった。
そうすれば、今こうして睡魔と闘いながら、高速道路を夜通し運転する事もなかったかもしれない。
前に走る車のブレーキランプが赤く光り、僕もそれに釣られて減速する。
エンジンの回転数が下がり、心地いい振動が座席の下から、僕の全身を揉みほぐす。
壊れたエアコンからは、生暖かい風が噴き出して、それが僕の肩を撫でて、寝てしまえと優しく呟く。
虚ろ虚ろし、妄想に耽り、意識はフワフワと、宙に浮く……
彼女の、笑顔……
彼女の、長く綺麗な髪……
彼女の、細く繊細な指……
彼女の、すらっと長い脚……
彼女の、歯並び……
彼女の、汗の匂い……
彼女の、僕を見る目付き……
彼女の、彼女の彼女のかのじょ――
「 ――すけてッ、だれかッ! 誰か助けて!! 」
車体を叩く音と、女の子の叫ぶ声に驚き、全身の毛が逆立つ。
突然の事に驚いた心臓は痛い程激しく鼓動して、睡魔は吹き飛び、落ちかけた夢の世界から一気に現実へと連れ戻される。
そうだ、寝てはいけない。
居眠り運転なんかで事故を起こしたら大変だ。
こんな所で捕まってたまるもんか。
そう……やっと僕は、手に入れたんだから。
――本物の支えを。
…………
……
◇著者◇
KAITO
※ 初週は公開記念としまして、毎日 19:00 に新しい物語をお届けいたします。