第七十九話 不器用
「…不器用にも程がありますね。」
俺の話を黙って聞いていたアムから返されたのはその言葉だった。
呆れているようにも、悲しんでいるようにも見えるその顔を気にする事なく、俺は淡々と話を続ける。
「もし、ルナが来たらありのままを話せば良い。約束は果たせる。」
「『彼女が真実を知る』事は良くても、それは少しズルいのではないですか?」
隠そうともしない棘のある言葉だが、俺は気にする事なく横に置いてあった荷物を取った。
必要なモノは全て揃えてある。
今から出れば明け方にはイガリを出る事が出来るだろう。
「『真実を知りたい』と言うアイツの約束は守る。だが、その後は…『どうなったとしても』関係のない事だ。」
「……」
アムの言いたい事は分かる。
こんなのはただの屁理屈だ。
やっている事は詐欺師と変わらない。
…それでも、これしか俺は考えつかない。
ワイズやゼムとは根本から違う。
ただの一般人をこれ以上、巻き込んではならない。
【精霊魔法の巫女】…それだけで一部の人間からすでに命を狙われているのだ。
俺と行動を共にすれば、いつか必ず全ての人間が敵になるだろう。
そんな地獄を歩くのは俺一人で充分だ。
「……」
地上へ上がる階段がある扉を前に俺は最後にもう一度、振り返った。
アムへは一つだけ、頼んでいる事がある。
数日前に殺し合った間柄なのに、頼み事とはなんとも奇妙だが…
そういう巡り合わせだったのかもしれない。
「……頼んだぞ。」
俺はそれだけ口にして扉を開けた。
冷たい空気を感じながら一歩ずつ階段を上っていく。
「……本当に、本当に不器用な人。」
後ろからそんな言葉が聞こえたが、足を止める気はなかった。
ルナは驚くだろう。
同時に失望するはずだ。
だが、大丈夫だ。
すぐにそんな事は忘れる。
…少し寂しいが、大した事ではない。
さあ、進もう。
北へ…




