第七十七話 歪な力
アムさんがいる牢屋から屋敷に戻った後、私はずっと考えていた。
リロさんは一体何者なのか。
執事と思っていたら本当は冒険者で、強くて、優しくて…
そして…
…たまにとても怖くなる。
さっきもそうだった。
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氷の女王の話をアムさんと話していた時、リロさんの後ろにいた私は顔を見る事が出来なかったけど、見ていた後ろ姿が別人じゃないかと思えるくらいの冷たさ…を感じた。
その圧に当てられて私は息をする事も出来なくなりそうだったけど、アムさんがリロさんをなだめてくれたたおかげでどうにか無事にやり過ごせた。
その後のリロさんとアムさんの会話はほとんど覚えていない。
いつの間にか話を終えていたリロさんは私に声をかけ、そのまま二人で牢屋を出ようとしたのだけど、
「ああ、少し待ってください、ルナさん。」
私だけがアムさんに呼び止められた。
リロさんも残ろうとしたけど、私は大丈夫と言って、アムさんと二人で話す事になった。
アムさんは私の眼を見た後、何か納得したように口を開いた。
「あの人が…リロ・ルーシャがどうやって私を倒したかを話します。」
「え?」
戸惑う私の反応も気にせず、アムさんは淡々と語り始める。
「彼が途中から腕に着けていた『黒い鎧』、覚えています?」
覚えている。
あの時は何も思わなかったけど、あれは…
「あの鎧を全身に纏った。彼がしたのはそれだけです。」
「………」
言葉が出なかった。
続きがあるのではかとも思ったけど、いくら待ってもアムさんは黙ったままだった。
「【精霊魔法】の巫女であるあなたなら気づいているんでしょう?リロ・ルーシャのあの力の歪さに。」
「!」
その言葉に私は反論出来なかった。
【精霊魔法】を使う私は魔力に対する感覚が普通の人より鋭い。
だから、普通の人なら認識出来ない種類の魔力など私は認識出来てしまう。
…あの『黒い鎧』もそうだった。
とても重い…黒い…禍々しい力が『黒い鎧』から漂っているのが見えていた。
でも、その力を使うリロさん自身はそんな禍々しさとはほど遠い人に思えていた。
まるであの力そのものが、後から無理矢理付けられたような…
そんな違和感を私は感じていた。
「…あの鎧も【スキル】なんですか?」
私の問いかけにアムさんはただ静かに
「…どんな神と契約したかは分かりません。ですが、一つだけ確かなのは今のままでは遅かれ早かれ彼は破滅します。」
そう答えた。
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いつの間にか眠っていた私は朝日の光で眼を覚ました。
「…よし。」
少しだけすっきりした頭である事を決めた。
その為にもリロさんと話をしなくちゃいけない。
身だしなみを整え、朝食を食べた私は早速リロさんが寝泊まりしている民家へ向かった。
何を言われても翻さない決意を胸に。
…リロさんがもういない事も分からないまま。




