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第八話 再会


「…なるほど。やはりあの女が絡んでいたか。」


 スピア・ローズ達の襲撃、国の消滅、ティアの策略、復讐神との出会い、スキル…

 俺の話を聞き終えたワイズは苦い顔をしながら紅茶の入ったティーカップを口に運んでいた。

 最後に会ったのは何年も前なのにワイズは出会った時から変わらない姿だ。


「お前は相変わらずのようだな、ワイズ。」


 俺は改めて部屋を見回した。

                                                                                              


 広々とした部屋に所々に置いてある家具一つ一つが高名な職人が作った物であり、この家にある全てが職人達がワイズの為に無償で作った一点物だ。

 詳しい話は省くが、以前ワイズが職人達を成り行きで助ける事になり、そのお礼にもらったものらしい。

 今俺とワイズが使っているティーカップだけでも一般市民ではとうてい手が届かない代物だそうだ。

 テーブルから離れた場所にある本棚にはあらゆる種類の魔法の文献が並んでおり、作業用机には懐かしい写真が飾ってある。

 


 ここは先ほど俺が扉を蹴飛ばした小屋ではない。

 先ほど扉を蹴飛ばした小屋はワイズの家ではなく、侵入者対策に作ったダミーの小屋だ。何も知らないであの小屋を開けても、ただの汚い物置小屋にしかならないが、ワイズの許可かワイズの出した条件を満たせば、あの小屋は別の空間につながる。                                                                            


 俺とワイズが今くつろいでいる部屋こそワイズの本当の隠れ家だ。

 小屋の近くに建っていて周囲からは見えないように魔法がかけられているが、サティナの街でも見ないほどの巨大な屋敷だ。

 屋敷には【防御魔法】、その【防御魔法】を隠す為の【隠蔽魔法】、許可のない者は屋敷を認識出来なくなる【認識妨害魔法】などとにかく侵入者対策は万全だ。


 …もっとも俺が知る限り、強欲の森という危険地帯を突破し、この魔法要塞に侵入した奴は一人もいないが…


「隠居している私の生活が変わる時は決まって弟子のお前が来た時だ。」


 ワイズはそう言いながら立ち上がり、本棚の前へ向かった。


「話は分かった。お前が知りたいのは【闇魔法】だな。」


 ワイズは俺のうなずきを確認し、並べてある本を一瞥した。


「『闇魔法は禁断の魔術である』…ここに並んでいる全ての本にそう書かれている。調べようにも【闇魔法】を使える人間はこの世には存在しない。もし、いたとしても名乗り出るような奴はいないだろう。」


 あらゆる書籍に共通していたのは闇魔法が上位悪魔の魔法であると書かれていた事だ。

                                                                                               


 事実、この世界はかつて悪魔と戦った記録がある。

 


 邪竜が暴れ、戦士が神と契約した話があったが、その邪竜を呼び出した者が悪魔だった。記録によれば悪魔は闇魔法を使い、最終的に多大な犠牲を出し、倒したとのことだ。


「表沙汰にはなっていないが悪魔の疑いをかけられ、処刑された人間は多い。特にこの数年はそれまでの倍以上の人数が処刑された…原因は秘密裏に作られた【処刑隊】の設立。スピア・ローズも関わっていたそうだ。」


 スピア・ローズ…

 史上最強の魔法使いであり、俺の全てを奪った女…

 復讐すべき相手…

 自分の中で何かが燃えるような感覚がする。


「【処刑隊】は戦闘力だけを求めた連中ではないようだ。メンバーの何人かは私も知っている面倒な奴らだ。スピア・ローズが各所で目撃されているのも気になる。」


「…関係ない。あいつは叩きつぶす。それを邪魔する奴がいるならそいつも叩きつぶす…!」


 いつの間にか握りしめていた拳は爪が食い込み、血が流れていた。

 怒りが、憎しみが、感情が止まらない…!


 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!                                                        




「落ち着け、馬鹿弟子。」


 ポン、と頭を叩かれ、ワイズを見る。


「…準備が必要だと分かっているだろ。だから、私に会いに来たんだろ。」


 ワイズの顔を見て、急速に憎しみが冷めていくのを感じる。

 あれだけ燃え上がっていたはずの炎が静かに消えていく。


「…すまない、ワイズ。」


 俺は頭を下げた。

 ワイズと出会って何年も経つ。

                                                

 何年も経つのに初めて、あんな顔を見てしまった。

                                                

 あんなに悲しい顔をさせてしまった。

 ワイズは俺に顔を隠すように振り向くと、咳払いをした。


「何にしろ、【闇魔法】については私も教える事は出来ん。今のお前に教えられるとしたら、せいぜい【次元魔法】が……………」


 ワイズは急に黙ると、口元に手を当て、ぶつぶつ小声でつぶやきだした。

 ワイズが思考に没頭した時の癖だ。


「闇魔法は悪魔が使っていた…ならその悪魔はどこから来た?邪竜までも呼び出すなら、当然…だが、それなら…」


 ワイズは本棚の引き出しからペンと紙を取り出し、高速で何かを書き出した。


「光魔法は才能ある者だけがたどり着ける到達点、闇魔法は悪魔の到達点ではない?なら…」


 …こうなったワイズは止まらない。

 【思考の海】に潜った今の彼女には俺の声は届かないし、例え屋敷が崩壊する事になり、下敷きになったとしても結論へ到達するまで止まらないだろう。

 本当に変わらない。

 俺はワイズが思考の海から戻ってきた時に備え、食事の準備をする事にした。

 詫びになるとも思わないが少なくともワイズより俺の方が料理の腕は上だ。

 たまには人に食事を振る舞うのも悪くない。

 俺はワイズを邪魔しないように部屋を出た。


 


 扉を閉め、廊下で手のひらを見つめる。

 血の流れは少なくなってはいるが鈍い痛みは止まらない。


 あれは何だったのか?


 激しい怒りと憎しみが溢れたのは分かっている。


 だが、今はどうしてあれだけの激情に呑まれたのか分からない。

 今はとても心が穏やかだ。


 …連日の疲れが溜まっていたのかもしれない。


 今日は久しぶりに屋根のある家で眠る事が出来るのだから、疲れを癒やすとしよう。





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