第七十二話 黒幕
「依頼人はサネミア家の長女、オーラ。」
彼女はそう話し始めた。
「サネミア家は貴族の中でも古い歴史のある家ですが、家柄以外は特に大きな特徴はなく、資産自体も大したものはありません。しかし、オーラには戦いの才能がありました。今やとある部隊の部隊長です。」
会長、ゴドさん、執事長は一度地下牢獄の上の家に戻ってもらっている。ここから先の話は危険があるからだ。
残っているのは俺と牢獄の彼女、それに…
「……」
ルナが残っている。
彼女にも上に戻るよう伝えたが、頑として譲らなかったのだ。
実力行使も考えたが、アムから
「彼女を帰すならもう話はしません。」
と言われてしまい、仕方なく同席させている。
「真実を知る為に彼女はここにいるんでしょう?」
さっきまで泣き顔だったはずだが、してやったりと笑みを浮かべている辺り、こいつもくせ者だ。
それに持っている情報も思っていた以上にある。
「昨日も話した通り、依頼は複数の代理人を通して私に届きました。そして、その全員が行方不明、もしくは不慮の事故に遭い、死亡しています。」
「…!」
予想はしていたが、依頼主のオーラは難敵のようだ。
複数の代理人を使う場合、依頼内容は一人では完成しない暗号のようになっており、最後に依頼を受ける人間だけでしか分からないようになっている事が多い。
自分が何をしているかも分からない全くの無関係な人間もいたはずだ。
そんな人間を一人残らず…
「ん?」
そこでおかしな事に気づいた。
「なんで家柄だけの貴族がそんな事をして無事なんだ?」
貴族には確かに権力はあるものの、それにも限度がある。
不都合な事実のもみ消しを貴族が行うのは半ば黙認されているが、人を何人も消すような行いはいくらなんでも度を超している。
ましてや資産もない家柄だけと言うのなら、もみ消しどころかまともな暗殺者を用意する事も…
「…サネミア家ではなく、オーラ自身か?」
そう考えるしかない。
だが、どういう事だ?
部隊長とは言え、結局は兵士の一人。貴族も凌ぐ権力を持つ事は有り得な…
「!」
いや、ある。
貴族どころか王すら手駒に出来る部隊が。
「戦乙女部隊か。」
戦乙女部隊は部隊の全員が女性で構成されており、少数でありながら全員の戦闘能力が非常に高く、国の正規軍に匹敵すると評されている。
「ええ、そうです。オーラは戦乙女部隊の隊長に異例の速さで就任しました。それがどういう意味かあなたも分かるでしょう?」
「ああ、よく分かる…」
戦乙女部隊には他の部隊と違い、大きな違いがある。
戦乙女部隊は国の正規な軍ではなく、簡単に言えば私兵軍だ。
私兵軍はあくまでも私兵の寄せ集め。
国に楯突く事は許されず、それは隊長でも例外ではない。
…本来なら。
それを可能としているのが、
「…ルーラ・アシル。」
氷の女王ルーラ・アシルの存在だ。
戦乙女部隊はルーラ・アシルが創設した部隊であり、その隊長ともなればそこらの貴族とは桁違いの権力を持てる。
アムのように決して表に出てこない暗殺者を用意する事や、人を何人消そうとも大した問題にならないだろう。
「今回の一件はオーラの独断のようでした。元々オーラはルーラ・アシルに心酔していました。ルナさんの行動に気づいたオーラが内密に私に依頼した、それが全てだそうです。」
「大した忠誠心だな。」
一人の為に大勢の人間を巻き込み殺した後は全てもみ消す。
やり口から見ても、人を人とも考えていないだろう。
…異常なまでの心棒者だ。
だが、チャンスだ。
ルーラ・アシルに悟られる事なく、オーラさえどうにかすればルナは狙われる事はなくなる。
いや、それなら、戦乙女部隊ごと潰せば…
「顔が怖いですよ。圧が強すぎです。」
そう言われて、初めて自分が拳を握りしめていた事に気づいた。
「すまない。」
詫びを入れながら拳を解くと、アムは疲れたように椅子に座った。
「正直な所、私には分かりません。今のあなたとあの時のあなた。どっちが本当なのか。」
「…どっちも俺だ。」
アムは天井を見上げてため息をついた。
「不器用な人ですね。」




