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番外編 それは誰かの夢物語




 夢を見ていた。



 夢の中の私は冒険者だった。


 依頼達成の報告を終えて、街を歩いていると色々な人が声をかけてくれた。


 武器屋のおじいさん、花家のおばちゃん、冒険者の先輩、冒険者に憧れる子供達。

 

 私は有名なようで、みんなが笑顔で話しかけてくれた。


 だけど、私は笑顔を返さず、最低限のやりとりしかしなかった。


 彼らは私を『孤高の冒険者』とか『凜とした人』と言っているけど、そんなんじゃない。


 …人見知りの私はしゃべる事が得意じゃなくて、常に引きつった顔しか出来ないだけだ。


 笑い方に至っては自分でも直そうと思ったほど変な笑い方しか出来ない。


 装備品の鎧と剣をがしゃがしゃと音を鳴らしながら街から離れた家に帰ると、


「先生、おかえりなさい!」


「姉さん、お疲れ様です!」


 まだあどけなさの残る十五歳ぐらいの男が二人、家の庭で私を出迎えてくれた。


「ただいま…また、メシ食いに来たのか?」


 私は自然とそう口を開いた。

 二人は最近、冒険者になったばかりの新人だ。

 

 たまたまモンスターに苦戦していたところを助けてから、「先生」や「姉さん」とそれぞれ慕ってくれるようになった。


 私の性格も理解してくれていて、この二人になら私も人見知りがなくなっていた。


「だって、先生のスープうまいんだよ!」


「そうそう、あの濃い味と大きな肉や野菜が…!」


 涎を垂らす二人の頭を軽く叩き、私は仕方ないと家の扉を開けた。


「すぐ準備するから待て。あと、着替えを覗いたら…」


 私の殺気に二人はすぐに青ざめながらコクコク頷いた。


 殺風景な自分の部屋に戻ると鎧を脱ぎ、汗を拭きながら考える。


 今度レシピを書いて二人に渡してみるのもいいかもしれない。

 

 戦闘訓練はたまにつけてやっているが二人とも筋がいいし、料理も出来るに超した事はない。


 出来る事が増えればその分パーティーに誘われやすくなるし、二人でずっと組んでいくにしても必要な事だ。


 でも、いきなり料理を教えても合うかどうか…


 二人とも素直だから聞いてくれるとは思うが…


 いや、片方は意外と凝り性だから案外漬け物とか勧めたらすごくのめり込むかも…

 


 動きやすい服装に着替えた後、台所に立った私は材料をおおざっぱに切っていく。


 さて、リクエスト通りにスープを作ってやろう。


 これは私の得意料理だし、それに…


「…………」


 『彼』もこのスープは大好きだ。


 いやいつも『彼』は私の料理は好きだと言っているし、毎回毎回この味のここがいいとかいつもありがとうとかさりげなく言ってくれるし、なんならこの私の口べたなところも受け入れて本当にもうあの人性格いいし格好良いし顔もイケメンだし絶対おじいさんになっても渋さが出てまたいい男になりそうだしこの前の『あなたが誇れる人になる』とかもう感動で泣いちゃったし幸せすぎて大笑いしたし………ああああああああ、好き!好き!好き!好き!好き!好き!好き!



「…出たよ、姉さんの暴走モード。今日は包丁ぶん回しスペシャル。よくあれで野菜切れるな。」


「…今の先生には近づくなよ。斬撃付き地獄ののろけトークで終わるぞ…心が…」


 そんな二人の声が聞こえ、私は正気に戻った。



 背中に感じる二人の視線を受けながら、



「ゴホン!」 



 咳払いをし気を引き締め私は鍋に向かう。


 さあ、スープを作ろう。


 大好きな『彼』ももうすぐ帰ってくる。


 みんなで楽しく食事をしよう。





 …


 ……


 ………



 …………


 ……………なんと幸せな夢なんだろう。



 この夢がずっと続いてくれればいいのに。


 そう願った。


 けど、そう願った時点で夢は終わるものだと『私』は知っている。


 

*****

 

「……」


 私は目を覚ました。


 さっきまでの心地よい余韻に浸る事はなく、頭を切り換える。


「…いったい何のご用ですか?」


 あの幸せな夢とはほど遠い現実が、目の前の鉄格子が否応にも私に告げている。


 鋼鉄の牢獄に幾重にも張り巡らされた特殊結界。


 部屋は広く設備も貴族の部屋以上に好待遇な扱いだが、常に見張りがいる。


 そして、目を覚ますきっかけとなった気配。


「…【契約】について聞きたい事がある。」


 私の【情報撹乱(スキル)】を封印した男がそこにいた。


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