番外編 暗殺者のとある一日
朝、目が覚めると自分が今日も生きている事に安堵する。
同時にまた死を贈り、死に怯える一日が続くと思うと気分が落ち込む。
ただ、これは仕方の無い事だと割り切ることにはしていた。
暗殺者として生きる以上、安息の日々は二度と訪れない。
永住の地はなく、依頼の間だけ借宿に泊まり、終わればまた放浪する。
…今回の宿は中々よかった。
「………」
頭を振り、一度気持ちを切り替える。
窓から零れる朝日を眺めながら考える事はもちろん依頼だ。
ある少女の暗殺。
簡単に思えた仕事だが、予想外な事に護衛らしき人物がついていた。
傍目ではただの青年に見えるが、長年暗殺の仕事をしている自分には分かった。
彼が強者である事を。
下手を打てば暗殺は失敗、命の危険もある。
だからこそ計画を再考した。
すでに標的の一日は把握している。
今までは護衛の男がいたから手を出せなかったが、今日は違う。
標的が一人でいる事は分かっている。
確実に仕留める。
…少し残念なのはこの宿の食事をもう食べる事が出来ない事だが。
それも些細な問題だ。
今日、全てを終わらせる。
そう決意を新たにすると、
「いや、それ私の仕事ですから。」
ザシュッ
誰かの声と刃物で肉を切った独特の音を鼓膜で感じ、ゆっくりと傾いていく景色をその目に焼き付けながら、暗殺者の人生は終わりを告げた。
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「…やっぱり今回の依頼はおかしいですね。」
彼女は床に倒れている同業者の男を見下ろしながらそうつぶやいた。
手にしているナイフをくるくると遊ばせながら、彼女は考える。
暗殺対象が被る事は多くはないが、ゼロではない。
だが、そんな偶然を彼女はこの数日で三回も経験していた。
自分以外にもただの少女一人を熟練の暗殺者が三人も狙っていた。
…一人の依頼主が複数の暗殺者を雇う場合、あらかじめ暗殺者の情報を共有しておく事が必須となる。
そうしなければ互いが足を引っ張り、暗殺成功の確率が激変してしまう。
無駄な事はしたくはなかったが…
「…気にくわないですね、色々。」
彼女はそんな言葉を残し、部屋を離れた。
宿を何食わぬ顔で正面から出ていった時、すでに彼女は決めていた。
依頼達成の為、あらゆる障害を取り除く事を。
…その為に目を付けていたならず者も使う事も。
「…本当に気にくわない。」
珍しく怒りをまとった言葉をつぶやき、彼女は朝日の中、歩き出した。
この翌日、彼女は暗殺を実行する。
元王都騎士団団長エスタ・セイルの娘、ルナ・セイルの暗殺を…




