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第七話 ワイズ・フール


 ワイズ・フール。


 魔法使いなら誰もが知る存在だ。

 由緒正しき血統やら生まれ持った才能が重要と言われていた魔法使いの世界に突如現れ、これまで誰も試さなかった魔法の実験、誰もが見落としていた既存魔法の可能性の発見など、数々の功績を挙げ『賢者』と初めて呼ばれるようになった人物だ。

 性別も含めた一切が不明の人物。

 研究結果も信用できる人物を通して発表する為、姿を見た者もほとんどいない。

 ワイズ・フールの名前も本名ではないとされている。


賢き愚か者(ワイズ・フール)』なんて名前、冗談としか思えないだろう。

 

 分かっている事は少ない。

 数年に一度、魔法都市サティナに現れる事。

 現れる時は決まって、とんでもない研究結果を持ってくる事。

 注目される事を何よりも嫌い、決して表舞台に立たない事。


 故にワイズ・フールはこうも呼ばれている。


 【人間嫌いの賢者】


 以上が、賢者ワイズ・フールの一般的な情報だ。


 だが、俺は知っている。

 賢者ワイズ・フールがどんな人物か。



「【身体強化】がうまく使えないのはお前の魔力が多すぎるからだ。教科書通りのマニュアル魔法はお前には使いにくいだろう。」


 当時の俺は身体強化魔法を使うと一分も保たず体力を使い切る、謎の症状に悩まされていた。

 ある出来事をきっかけに知り合う事となったワイズ・フールは俺の戦いを見るとすぐに原因を見抜き、俺の魔力量に合わせた新しい身体強化魔法をその場で作り上げた。


「水たまりに石を投げ込み波紋を出すように、魔力を体の部位に集め、魔力の衝撃波をぶつけてみればいい。お前の魔力量なら大勢を相手にするならこっちの方が効率的だ。」


 ここに来る道中、ゴブリンの群れに放った衝撃波は魔法ではなく、ワイズ・フールが俺の戦い方を見て、考えてくれた【技】だ。

 ワイズ・フールはその後も俺に様々な事を教えてくれた。

 

【人間嫌いの賢者】と蔑まれるワイズ・フールは俺にとっては天才であり、恩人だ。


 天才であり、恩人なのだが…



 本音を言うと会いたくない…



 何より…これからやらないといけない事を考えると頭が痛くなる…





 湖のすぐ近くには一件の家が建っている。

 木造式だがあちこちに汚れが目立ち、人の住む気配はなく、地震が起きれば今にも崩れ落ちそうだ。

 俺は扉の前に立ち、息を整える。

 周囲に誰もいない事を確認し、息を吸い込み、覚悟を決める。

 

 衝撃波を放った時と同じように魔力を纏った右足で扉を全力で蹴り、叫ぶ。


「ごめんくださ~い!ニャンニャンメイド服をお持ちしましたニャン!!」



 バキッ!


 と音がし、扉は蹴りの威力に耐えきれず、吹き飛ぶ――――事はなかった。


「……」


 扉は蹴られた時に音こそしたが、傷一つつかず、全く動かなかった。


「【気配遮断】、【視覚妨害】、【聴覚操作】、【対人防御】、【迎撃結界】、【魔力封印】、【記憶改竄】、【魔法破壊】、【強制転移】…これらを全て解除するには、私の許可を得るか、私が教えた言霊を言いながら、扉の中心から左へ七センチの場所へ正確に魔力を使った攻撃をしなければならな、い…が…」


 背後から聞こえた声に振り向くが、予想通りと言うか、そこには


「あははははははははは!私が与える言霊を唱えながら、精密攻撃が可能な人間なんてお前だけだろ、はははは!」


 とんでもない美貌の女性が肩を振るわせながら大笑いをしていた。


「…お前にだけは会いたくなかったよ、ワイズ。」


 長い銀の髪に胸元だけでなく、あらゆる場所がそれなりに露出している黒の衣装を身につけている。

端から見れば腹を抱えて笑うこの女性は隙だらけに見えるが、服はもちろん身につけている物全てに魔法が組み込まれており、その周囲には隙間がないほどの魔法が常時展開している。

 

 彼女こそ、【賢者】ワイズ・フール。

 この世界の誰よりも魔法を知る存在。


「私は会いたかったぞ、お前にな。」


 ひとしきり笑い終えたワイズは雰囲気を一変し、真面目な表情で服の隙間から何かを取り出した。


「一体何があった?」


 取り出した新聞には大きな見出しが書かれていた。


『シャール国、消滅!』


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