第六十二話 狙われた理由
「そうか。ここを見つけるとはな…」
「空間に違和感があっただけですよ。試しに干渉したら入れただけです。」
「…【次元魔法】が使えるお前だから出来たって事か。普通ならここを認識する事すら出来ないはず。」
「誰が見ても裏路地の壁ですからね。万が一、入り口に触ったりしても、何も知らない人間に対しては本当に壁にしか感じない…またどんだけ金かけたんですか。」
「…念のため言っておくが、ここは私がかなり昔に正式な手続きで購入した私有地だ。法的にも何の問題もない。だから、認識妨害の魔具を設置したとしてもあくまでオブジェとして…」
「……」
「…その目は止めてくれないか。娘にも最近同じ目をされるんだ。」
「…まあ、ここはいい場所ですよ。私有地なら俺も文句はありません。」
「そうか!」
「ええ。ただ『空間』に関係する魔法を使う人間だったら、どうしても違和感があると思います。その対策をしておかないと。」
「それなら大丈夫だ。ちょっと考えた事があってな。」
「何ですか?」
「それはな…」
******
『本当の事を知りたい』
ルナがここへ来た時点でそう言われる事は分かっていた。
執事長とゴドさんは彼女に何も言わなかったのだろう。
…ほんの少し前まで黙ってこの街を出て行くつもりだったのに。
執事長からは完全に見透かされていたのだろう。
俺の身体の回復具合、出立する日、そしてゴドさんに問い詰められた俺がここへ来る事まで…
ゴドさんの店を『幻影魔本』の受け取り場所にしたのもこうなる事を予想しての事だろう。
こういうところが本当にタチが悪い。
…昔から。
「…私は【精霊魔法】が使えます。」
「………」
「【精霊魔法】を使える人間はとても少なくて…利用しようとする人やさらおうとする人もいます。。」
「そうだな。」
あまり気分のいい話ではないが事実だ。
自らの魔力と属性で発言する魔法に対し、【精霊魔法】は特殊な魔法になる。
【精霊魔法】はその名の通り、精霊の力を使い魔法を発現する。
精霊は言ってしまえば、魔力の塊だ。
その力を使えば同じ魔法でも威力や効果は桁違いになる。
もっとも、それは【精霊魔法】の一端に過ぎないのだが…
とは言っても、【精霊魔法】を使える人間は非常に少ない。
危険を避ける為に公言しない者もいるだろうが、俺の知る限りこの十年では誰もいないはずだ。
それ故、闇のルートで【精霊魔法】の使い手が取引された事もある。
騎士だった時に根こそぎ潰してはいたが、完全には消せなかった。
「私、分からないんです。あの人は…『依頼』と言っていました。私を殺す事を。」
「………」
そう。
俺もあの時、それを聞いていた。
『依頼』だと。
依頼である以上、頼んだ誰かが必ず存在する。
ルナが死んだ方が都合がいい誰かが。
「…リロさんは、知っているんですよね?」
彼女の言葉に俺は少しだけ考えた。
彼女が狙われた理由は正直に言えば、分からなかった。
あの戦いの後、暗殺者と少しだけ話す機会があったが、あの暗殺者は依頼について何一つ口を割る事はなかった。
だからあくまでも予想するしかなかったのだが…
「………」
ほんの少し前にある可能性に辿り着いた。
俺は振り返り、数日ぶりにルナと顔を合わせた。
雨の中を走ってきたからか、髪の毛はボサボサで、服もあちこち濡れていた。武器は何一つ持っておらず、装飾品なども着けていない。
「…ここへはどうやって入った?」
俺の問いかけにルナは首をかしげたが、すぐに答えた。
「…ゴドさんから場所を聞いて、普通に入っただけですけど。」
…ああ、そうか。
ようやく分かった。
何故、希少な【精霊魔法】が使える人間を『捕まえる』のではなく『殺す』事にしたのか。
「…もう一つ聞いておきたい。」
俺は自分の心臓の鼓動が早くなるのを感じながらも、静かに尋ねた。
「…お前が旅をしていた理由を教えてくれないか?」
その言葉にルナは少し固まったが、絞り出すように声を出した。
「…私の父は殺されたんです。信頼していた人に。」
「………」
「だけど、私は父からその人の話をずっと聞いていました。私と同じくらいの歳ですごい人だって…」
「………」
「『強いだけじゃなくて本当に優しい人間だ』と父は言っていました。だから、その人が父を殺したとは思えなくて…父が死んだ本当の理由を知る為に旅をしていました。」
…そうか。
彼女の話を聞いて、俺は空を仰いだ。
さっきまでの曇り空が嘘みたいに一面の青空に変わっていた。
…今はそれが皮肉にも思えた。
「…父親の死を調べようとした事。」
「…え?」
ルナの戸惑いに俺は言葉を続ける。
「狙われた理由は恐らくそれだ。嗅ぎ回られると面倒だと判断したんだろう。」
【精霊魔法】を使える者は地域によっては『精霊の声を聞く神聖な存在』と崇められてもいる。
女性の使い手は『巫女』と呼ばれ、権力者にさえ通じる発言力を得る事もあった。
ただの被害者の娘なら放っておいても問題ないと判断しても、【精霊魔法】の巫女の言葉なら状況は変わる。
多少の波紋が起きるはずだ。
…それすら許さなかったのだろう。
だからこその暗殺。
…正面からの戦闘だけでもあれだけの腕を持ちながら、その存在すら知られていなかった暗殺者を動かす事が出来る時点で、相当厄介な相手だと分かる。
「どうして…」
ルナは顔を青くして、うわごとのようにつぶやいている。
「どうして…父の事を…」
「…この場所に入るには条件がある。」
俺は少しためらったが話す事にした。
「あらかじめ許可を受けた者しかここには入れないし、認識すら出来ない。」
「え?」
ルナの戸惑う声を無視し、俺は続けていく。
「俺、ゴドさん、執事長、そして…」
俺は最後の人物の名前を告げる。
「王都騎士団団長エスタ・セイル…お前の父親だ。」
彼女の父親の名前を。
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「…で、許可した人間だけが出入り自由って訳だ。それ以外にはどれだけ『空間魔法』に特化した人間でも全く分からない。」
「なるほど。それなら問題はないですね。」
「ちなみに娘はとっくに許可済みだ。ここは私の土地だからな!」
「…もう好きにしてください。」
「きっと驚くぞ、楽しみだ!」




