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第六十話 四姫


「どうだった、イガリは?」


「いい経験になりましたよ、本当に。」


「そうかそうか!」


「…今、生きているのが不思議なくらいですけどね!」


「ま、まあ、そう言うな。ほれ、剣も手に入ったし、何より経験という大切な宝を手に入れたと考えればーーー。」


「『死ぬ一歩手前の経験』を分単位で詰め込まれた事が宝…?」


「…すまん。まさかあんな場所に、伝説のヴォルケーノドラゴンが出現するとは思わなかった。それも大量に。」


「…おかげさまで今後、伝説級のモンスターが何匹出てこようと動じなくなったと思いますよ。」


「……怒ってる?」


「団長が俺をここに連れてこなければ、こんな風にはなってなかったでしょうね。」


「う…」


「……こんなに素晴らしい剣を持つ事もなかっただろうし、戦い方の手数も増えなかった。ここに来なければ、色んな意味で強くはなれなかった。」


「……」


「だから、感謝しています。心から。」


「ならお前が出世したら、そうだな…うまい酒を用意してもらおうか。もちろん、毎月必ずな!」


「団長を満足させる酒なんて、一口でとんでもない額の酒でしょ。はいはい、考えておきますよ。」


「…ああ、楽しみにしてるよ。」


******


 弱くなったとは言え、雨はまだ止む気配はなかった。

 どこをどう走ったかは覚えていないが、気づけば俺は街を一望できる高台にいた。

 イガリにいた頃、偶然見つけたお気に入りの場所だった。

 何もない場所に一本だけ立っている木を傘代わりにしながら、俺は懐から『報酬』を取り出した。


 表紙は『イガリ観光名所』と呼ばれるどこにでも手に入れる事の出来る一冊の本で、中身をめくってもありきたりな内容しか書かれていないが、


「…【解放(リリース)】」


 その一言で本の文字が発光する。


 観光地の名所写真は地図に変わり、文字がどんどん書き換わっていく。


「…」


 望んでいたものは手に入ったのに。


 気分は一向に晴れなかった。


*****


「…報酬の変更ですか?」


 それは護衛依頼について会長との話し合いの途中の事だった。

 上の階で眠っている少女の危機や会長の【未来視(ウォッチャー)】の話も一段落した時に、俺はそう切り出した。



「ええ、報酬の変更をお願いします。」


 俺の言葉に会長は困ったように首をかしげていた。


「…しかし、一体何をお望みです?こちらとしてはご用意出来る最大限のモノを準備はしますが。」


 会長は生粋の商人だ。

 自分に用意出来るモノは必ず用意するだろう。

 元々の報酬でさえ、向こう三年は遊んで暮らせる額だった。


 その金額以内なら…そう向こうは考えているだろう。


 伝説級の素材も出し惜しみはしないかもしれない。


「俺が欲しいのは金や素材ではありません。」


 だが、俺が欲しいのはそんなものではない。


 俺は会長と執事長、両方を警戒しながら笑顔を作った。


「『四姫』の情報を可能な限り知りたいだけです。」


「!」


「…なるほど。」


 顔を強ばらせる執事長と厳しい目つきになった会長。

 当然と言えば当然だ。

 なんせ『四姫』は…


「『四姫』…スピア・ローズ様を筆頭に、ルーラ・アシル様、アズサ・ソメヤ様、そして…ライデン様のパーティーの総称ですね。」


「ええ、その通り。」


 バース商会の馬車で聞いた話だ。


 シャール国を滅ぼした『国滅』を倒した最強のパーティー。


『賢者』アズサ・ソメヤ。


『氷の女王』ルーラ・アシル。


『雷の戦士』ライデン。


『史上最強の魔法使い』スピア・ローズ。


 一人一人がとてつもない戦闘力を持っているだけでなく、各分野において超特化型の四人。

 奴らはあの戦い以降もパーティーを組んでは難関と呼ばれる依頼を達成し、いつの間にか『四姫』と呼ばれるようになったそうだ。

 

 …見た目も確かに人気は出るだろう。


 その正体を誰も知らず、大勢の人間が奴らを英雄扱いしている。


「『四姫』の情報をお願いしたいです。噂話でも、些細な事でもいいからとにかく一つでも多く。各地にパイプを持つバース商会にしか出来ない事です。」


 『四姫』の活躍はあちこちで物語のように広がっているが、個人で集める情報には限界がある。

 俺は目撃情報のあった北へ向かっていたが、その情報も時間が経てば意味はなくなる。こうしている間にも追っている一人は北にいないかもしれない。

 

 もし、国を越えた力を持つバース商会が本気で情報を集めれば、個人の比ではない量が集まるはずだ。


 商売人は情報も命だ。


 かすかな情報から市場を読み、利益を得る。


 だからこそ、情報を集めても誰も疑いを持たないだろう。

 

 それに「『四姫』を嗅ぎ回っている男がいる」と伝われば、残りの三人が総力を挙げて俺へ襲撃してくるかもしれない。


 …そうなればまた関係ない人が巻き込まれる事になる。


 それだけは駄目だ。 


「…どうやら深入りしないほうがいいみたいですね。」


 俺の顔を見て会長は何かを察したようだった。

 表情には出さないようにしていたつもりだが、さすがに眼が違う。


「ええ、お互いに(・・・・)。」


「…本当に油断ならないお方だ。あなたは。」


 会長はそう言うと、大きく息をついた。


「…いいでしょう。ですが、こちらからも新たに条件があります。」


 依頼内容に新たな項目が追加されたのはその後だった。


******


「本当によろしかったのですか?」


 コップに水をくむ執事長の言葉に会長は椅子から立ち上がり、大きく伸びをした。


「構わない。リロ様はこちらの意図を全て知った上で依頼を受けたのだろうしな。」


 元々、『四姫』の情報はバース商会でも集めてはいた。


 『四姫』が動くとなると彼女達のいた地域の市場やパワーバランスが大きく変わってしまう事が多々あった為、各支部には目を光らせておくように通達していたのだ。


 …もちろん、会長の元には『表沙汰』には出来ない情報もいくつか入っている。



 さっきまでリロの座っていた椅子を視ると、会長は執事長から冷えたコップを受け取り、一気に水を流し込んだ。


「………」


 執事長が空になったコップを受け取ると、会長は椅子に深く腰掛けた。

 傍らに立つ執事長に顔を向けると、会長は疲れ切った顔で笑った。


「…久しぶりに強敵だったよ。あの歳でどれだけの修羅場をくぐったのか。敵にはしたくないな。」


 そう言いながらも会長はどこか満足げな様子でもあった。

 執事長はそれを見て、会長に問いかける。


「…出来るでしょうか。」


 会長はその言葉に答えはしなかった。

 代わりに静かにつぶやいた。


「…やっと見つけたんだ。必ず終わらせる。」


 その眼に並々ならぬ決意を秘めて。


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