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第五十九話 誓いと偽りの姿

 

 イガリの街に着いた時、ある人と一緒に行った武器屋を最初に思い出した。

 

『お前に合う武器も造ってもらえるはずだ!』


 そんな事をいきなり言われ、王都から無理矢理イガリへ連れて行かれた。


 道中、散々その武器屋の自慢話を聞かされたり、イガリの街の歴史も授業されたり、勘弁してくれと言う思いもあったが、同時に嬉しくもあった。


 歴代最強と呼ばれた人に直接稽古をつけてもらえた事もだが、世界を旅したと話してくれる冒険譚には心が動かされた。


『費用は俺が出す。』


 新人の俺ではとうてい手が届かない金と、噂でしか聞かない希少素材をこの人は全て用意してくれた。


 希少素材ほどではないが手に入れるのが難しい素材に関しては、訓練として俺が集める事になったが、そのおかげもあってかイガリに向かう前よりも戦い方に幅が出来たと言われた。

 

 こうして、造られた剣は俺の相棒となった。


 いつか、あの人のように誰かを導けるような人になろう。



 剣を受け取る時にそう誓った。


 …今その剣は俺の手元になく、例えあったとしてもあの剣は二度と輝きを宿す事はない。


 あの剣はもう手に取る事の出来ない場所にあるのだ。


 そして、あの時の誓いも…




 『謝りたい』…とそんな衝動に突き動かされそうになったが、俺はバース商会の屋敷へ向かう馬車の中ですぐにその思いを捨てた。


 馬車のガラスに反射した俺の顔は、かつての俺の顔ではなかった。


 写っていたのは、歳こそ同じだが全く違う顔をした誰かだった。

 



****



 ゼムから渡された『身分証明書(ライセンスカード)』にはある特殊な能力があった。


 本来『身分証明書(ライセンスカード)』には身分証明以外の効力はないのだが、ゼムは俺の『身分証明書(ライセンスカード)』にある魔法陣を組み込んでいた。


 常時発動型の【偽装魔法】だ。


 サティナを歩いていた時に使っていたのは【認識妨害魔法】だったのだが、これにはある欠点があった。


 【認識妨害魔法】は『周囲の認識を妨害する事で俺の顔を別人にする』のだが、これは一人一人が認識する顔が違ってしまう。

 例えばだが、ある人間には俺の顔がゼムに見えるが、別の人間からはワイズにも見えると言ったことが起きてしまう。


 すぐに街を出るならともかく、宿を取ったり、長期の滞在をする場合は都合が悪い。


 一方、【偽装魔法】は『俺自身の姿を変える』魔法だ。


 周囲の認識を変える訳ではないので、俺の姿は全ての人に同じ姿で映る。

 使用する魔力も大気中から取り込んでいる為、俺自身の魔力は一切消費しない。

 仮に俺以外の人間が『身分証明書(ライセンスカード)』を持ち出した場合だが、【偽装魔法】は俺にしか発揮されない。魔力の消費が俺持ちになるが、その効果は継続される。


 

 …だが、変えられるのはあくまでも姿だけだ。


 ゴドさんは俺の動きや戦い方をじっくり観察した上で、俺の剣を造っていた。そのおかげであの剣は数年が経過した後でも、違和感一つなく扱う事が出来たのだが、逆に言えばゴドさんは俺の動きや細かいクセも把握していたと言うことにもなる。


 ゴドさんと会えばそのわずかな動きでも正体を見抜かれてしまうかもしれない。



 そう思ったからこそ、俺はゴドさんとの接触を極力避けていた。


 ルナが新しい剣を選ぶ時も、俺は店には入らなかった。

 適当な理由をルナに話し、外で待っていたが本当はすぐにでも店から離れたかった。


 ルナが剣の新調を断った事に疑問を持った俺は覚悟を決めた。


 酒を持っていったのは、俺の謝罪でもあった。


『個人的な詫び』…それが俺の伝えられる言葉だった。


 執事長から依頼の『報酬』を受け取る場所をゴドさんの武器屋に指定された時、薄々は分かっていた。


 会長も執事長もゴドさんもすでに俺の正体に辿り着いていると。



 会長と執事長は俺の事に深く突っ込む事はないと思う。

 『報酬』の事もある以上、それがどういう事につながるかはよく知っているはずだ。


 …問題はゴドさんだ。


 あの人は頭で分かっていても、いい意味で感情が抑えられない人間だ。


 …骨は覚悟しておくしかない。


 何をされても俺は話す事は出来ないし、話す事はない。


 そう、考えていた。


 *****



 雨の音だけが店に聞こえた。



「………」


 何をされても、何を言われても、俺は何も話すつもりはなかった。


 剣を向けられても、剣を造ってくれた恩人の涙にも…


「…………っ。」


 答えるつもりはなかった。


 俺は逃げるように店のドアへ手を伸ばした。

 ゴドさんほどの相手に背中を見せる事がどれだけ危険かも知っていて…

 この距離なら一瞬で組み伏せられると分かっていても。


「――――。」


 ゴドさんの言葉が耳に入ったが、俺はドアを蹴破り、全力で街を走り抜けた。


 …ゴドさんは追ってこなかった。




 雨が少し弱くなっていた。


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