第五十八話 問いかけ
「驚いたか!ここが私が自信を持って紹介する武器屋だ!」
「人をいきなり治安の悪そうな場所に連れ込んで何言ってんですか。」
「そう言うな。お前の戦い方に合う武器もここなら用意出来るはずだ。」
「何度も聞きましたよ、その話。ってか、途中からこの街の成り立ちまで話してたじゃないですか。」
「そうだったか?」
「そうですよ。それに戦い方って…確かに師匠みたいな奴に『騎士団の装備如き、お前じゃ使いこなす前にぶちこわすだろう』って言われましたけど。」
「…毎回思うんだが、その師匠ってもしかしてとんでもない人間じゃないか?騎士団の装備って一応国の上位に当たるんだが…」
「さあ、入りましょう!」
「あからさまに誤魔化したよな!?まあ、いいか。」
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そんななんてことの無い出来事を彼は思い出していた。
数年前にこの武器屋を訪れた二人。
一人は彼の武器をとても気に入り、イガリに来る度に顔を見せに来た友人。
もう一人はそんな彼が何度も『期待の新人』と自慢していた部下だった。
…二人がここへ来る事は二度とない。
ゴドはカウンターで何をする訳でもなく、ただ待っていた。
時間は早朝。
三日前から降り続く雨で、裏通りを歩く人間は少ない。
店の看板には『閉店中』の看板も掛けている。
…来るのは一人だけ。
そんな事をゴドが考えた矢先だった。
店の扉が開き、一人の男が入ってきた。
「…よう。」
ゴドの呼びかけに彼は小さく頭を下げ、ゴドのいるカウンターへやってきた。
ゴドはカウンターの裏に隠していた一冊の本を取り出し、彼の前に置いた。
彼はその本を取り懐にしまうと、
「……」
さっきと違い、深々とゴドに頭を下げた。
ゴドはその姿を静かに見ていたが、一向に頭を上げる気配のない彼の姿を見て口を開いた。
「…顔を上げな。」
彼が顔を上げると、目に映ったのは
「………」
自分の顔へ向けられた剣の切っ先だった。
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「今はリロ・ルーシャ…だったか?」
ゴドは無表情のまま、普段とまるで違う冷えた目でリロを見据えていた。
「何年か前、ダチが一人の部下を連れてきた。」
「……」
「ダチが言うには『持っている魔力に武器が耐えきれないから、耐えられる武器を造って欲しい』って事だった。だから、全力で造ってやったよ。最高傑作と呼べる大剣を。」
「………」
少しでも動けば自身を貫く剣の切っ先にも、ゴドから放たれる殺気にも怯むことなく、リロはただ黙って話を聞いていた。
それは余裕でも自信の表れでもなく、あるがままの全てを受け入れるようにも見えた。
「『個人的な詫び』って言ったよな。あれは…どっちだ?嬢ちゃんの事だったのか…それとも…」
今まで平坦だったゴドの声が震えていた。
出会った頃から何も変わらなかった友人がいた。
騎士団団長の立場になっても、ふらっと来ては一緒に酒を呑んだり、馬鹿話をした。
友人の部下の為に最高傑作の大剣を造りもした。
その一振りの為に必要なとんでもない大金も、売れば遊んで暮らせるほどの希少素材も友人は惜しみもしなかった。
『おやっさん、俺は楽しみなんだ。あいつは俺よりずっと強くなる。きっとすごい事をやってくれる!』
酔うと友人はいつもそう言っていた。
その彼は…
「っ!」
必死に抑えていた感情がついに爆発した。
「答えろ!俺の造った剣で国を滅ぼした事か!お前を信じた団長を裏切った事か!」
雨の轟音がなければ裏通り中に響いていたであろうゴドの声とあふれ出す涙に、リロはわずかに唇を噛んだ。
唇から血が流れるが彼はそれでも何も答えない。
ゴドは涙をぬぐうと、切っ先をリロの首元に向けた。
わずかにでも動けば首をかききれる状態でもリロは動かない。
「…なら、これだけは答えろ。いや、答えてくれ、リロ・ルーシャ。」
ゴドはそう言うと、剣を投げ捨てると、リロへその言葉を投げかけた。
「…ダチを…エスタを殺したのは本当にお前なのか?」
「!?」
雨はまだ降り続いている。




