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第五十五話 全ては終わった事



『全て終わりました』


 執事長さんが私に話してくれた最初の言葉だった。


 私が殺されそうになって、リロさんが助けてくれて、とにかく必死で逃げて明け方に屋敷に逃げ込んだ事だけは覚えている。


 でも、そこまでだった。



 目が覚めたら私が寝泊まりしている屋敷の部屋だった。


初めてこの街へ来た時と同じようだけど、荷物を置いている場所には私の剣はなくて、いつまで経っても私が会いたかった人は部屋に来なかった。



 執事長さんは私が目を覚ましたと知って、私に要点だけ教えてくれた。



問題は解決した事、


暗殺者は始末された事、



そして…


「彼はもうこの街を出て行かれました。」


 私の大好きな人がもうここにいない事を教えてくれた。


*****


 

 窓から外を見ると、強い雨が降り続いていた。


 三日前…私が執事長さんから話を聞いた日から雨は降り出して、今も止む気配はない。


 私はあの日から部屋を出ていない。


 メイドさんが私の部屋に食事を持ってきてくれるけど、ほとんど食べていない。

 精神的なダメージが食欲を落とすと聞いた事はあったけど、自分がそうなるとは思っていなかった。


 私の状態を気遣ってか、執事長さんは詳しい話はまた改めてすると話してくれた。



 そうして私はずっと、あの日を思い返している。


 もし、私が自分の違和感に気づいていれば。

 もし、私がリロさんを信じ切れていれば。

 もし、私がリロさんと一緒に戦っていれば。

 もし、私が…



「…………」


 どれだけ後悔しても、時間は戻らない。


 『もし』をどれだけ考えても、最後には現実が待っている。


 それに…


 あの【スキル】を説明されてからずっと気になっていた事があった。


 私の行動はずっと操られていたと、暗殺者は言っていた。


 なら、リロさんに感じていたこの気持ちも『作られた』ものじゃないのか。


 それが私の心に重くのしかかっていた。


 暗殺者がいない今では確認も出来ないし、自分でも確認する勇気はない。


 もし、答えがあったとしても、その答えも偽物かもしれない。


 そう考えると自分も、何もかもが信じられなくなっていた。




 コンコン



 ドアがノックされて一拍置いて、


「ルナ様、少しよろしいでしょうか。」


 執事長さんの声が聞こえた。


 私は返事をする気力もなかったけど、執事長さんはそれをオーケーと受け取ったみたいで、静かにドアを開けて入ってきた。


「………」


 執事長さんはいつも紅茶とお菓子を置くカートを部屋に運んできたけど、上に乗っているのは華やかなカートとはあまりにも似合わない寸胴鍋だった。



「さて…」


 執事長さんが寸胴鍋のふたを開けると、部屋中に食欲を爆発させる匂いが充満した。


 それは当然、私にも届き、


 く~~~~~~~~


 お腹が大きく鳴り出した。


「!」


 すぐに真っ赤になってお腹を押さえると、


「お腹が空くのは生きている証です。」


 執事長さんは笑うこともなく、淡々とスープを皿に注いでいた。


「…まずは食べましょう。後悔も反省も食べてからです。」


 暖かい皿を私に持たせると、執事長さんは少し微笑んだ。


「味には自信があります。」


 私はスプーンを受け取り、ゆっくりとスープを口に運んだ。


「!…おいしい。」


 久しぶりに口にする暖かい食事に手は止まらなくなり、スプーンを動かす手がどんどん早くなっていった。


 すぐに皿は空になった。


 濃厚な味のスープだったけど、具材は入ってなくて、一皿ではとてもお腹は満たされなかった。


 むしろ、今まで忘れていた空腹が暴れ回る呼び水となったようだった。


「おかわりはいくらでもあります。」


 私の様子を予想していたのか、別の皿には新たにスープが並々と注がれていた。


「!」


 私は無我夢中でスープを飲んだ。


 一皿目は具材は何も入っていなかったが、三皿目からは大きな野菜や肉が入り出し、十皿目を食べ終わる頃には私は満腹となっていた。


「…落ち着かれましたか?」


 執事長さんは私が食べ終わるまで黙って給仕をしてくれたけど、いつの間にか新しい皿にまたスープを準備していた。


 私がもう食べられない事は分かっているはずなのに…


 その答えはすぐに分かった。


「せっかくです。私も休憩させていただきましょう。」


「え?」


 客人扱いの自分の前で食事の休憩をする…


 執事長さんらしくない言動に思わず声が出たけど、執事長さんは気にする事なくスープを飲み始めた。


 一口、二口と味わった後、まだ雨の止まない窓を見て、執事長さんは唐突にこう切り出した。


「ルナ様、真実を知りたいですか?」


「…え?」


 執事長さんは真剣な顔で私を見ていた。

 

 …怖い。


 本当の事を知る事が怖い。


 いや、怖いのはこの気持ちが『操られたモノ』と言われる事だ。


 すごく怖い。



 だから、


「はい。」


 私はそう答えた。


 怖い気持ちは変わらない。


 でも、私は何も知らない。


 あの後、何が起きたのか。


 どういう結末になったのか。


 私は知らなくてはならない。


 例え、それがどれだけ最悪のモノだとしても。


 執事長さんは私の答えにうなずき、


「…私の知る事をお話しましょう。」


 そう前置きして、話し始めた。


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