第五十三話 終わりの代償
ポタリ、と水滴が落ちた音が聞こえた。
その音が傷のあった腹部ではない場所から流れた血だと気づいた時には、それが始まった。
「ぐああああああああああああああああああああああああ!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい!
肉が、骨が、頭が、耳が、目が、腕が、足が、心臓が、全てが!
地面をのたうち回りながら、叫ぶが痛みは変わらない。
暗殺者との戦いで腹の傷をかき回された時よりも、スピア・ローズとの戦いで受けた傷の痛みが大した事がないと言えるほどの、激痛が俺の全身を走り回っていた。
「ああああああああーーーーっあ!」
叫びで喉が潰れるが、こんな痛みが増えたとこで何の意味もない。
全身を駆け巡る痛みの波は激しさを増していく。
口からは赤い泡、目からも涙がこぼれるが、その涙も赤く、視界が真っ赤になっている。
腕や足の血管が破裂し、あちこちから出血が止まらない。
「あ、あああああああ!」
身体の中身が全て焼かれているような痛みに耐えきれず、地面に頭をぶつけ、自ら気絶しようとするが、
「ああ…ああああああ…!」
額が割れた痛みよりも強い痛みがそれを許しはしない。
潰れきった喉から出ていたかすかな声の代わりに血の塊が流れる。
死んでもおかしくない状態だが、報復の覚悟】が死へ至らせない。
「だ、れか…たす…て……」
もはや声と呼べない音でそれだけを口にする。
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どれくらいたったのだろうひがのぼっているまぶしいいたみはきえないもうさけぶちからもないうごくこともできないいたみがただつづいていくだけだもういやだくるしいたすけていたいあついつらいきついしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬ…
ころして…
ころしてくれ…
【…それがお前の選んだ代償だ。】
だれこのこえどこかでしっているだれだろう…
【片腕すら使いこなせない者がはるか先にある力を求めた報いとも思え。】
……はるか先?
【そうだ。お前がいつか手に入れる力はこんなものではない。】
いたみでうめつくされたし考がその声で鮮明になる。
【…お前はこんなところで終わるつもりか?】
そうだ。
これは俺が望んだ結果だ。
俺が自分で決めた事だ。
分かっていた事じゃないか。
まだ終わるつもりはない。
まだ先に求めるものがあるのなら、
「俺はまだ終わらない…!」
激痛を無視し、顔を上げ、声の主を見る。
禍々しい仮面と黒い鎧を纏った騎士はこちらを見下ろしたままだったが
【………】
気のせいなのだろう。
表情は分からないはずなのに。
笑っていたように見えた。
「…ありがとうな。」
なんとかそれだけ絞り出す。
話をしてくれたおかげで気が紛れたのか、それとも感覚が麻痺したのか、痛みが静かに引いていくのを感じる。
それに伴い、瞼がゆっくり閉じていくのが分かった。
魔力と体力を使い切った反動の強制睡眠だ。
だが、まだ…今は…
まだ、俺は…
【…今は休むがいい。安心しろ、お前は守ったのだ。】
鎧の騎士が指し示した方向を最後の力で見る。
そこには昨夜戦っていた暗殺者が倒れていた。
【…スキルの封印は成功している。だから、休め。】
「…そうか。」
そして、俺の意識は途切れた。




