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第四十六話 襲撃


 走る。


 いつかと同じように森の中を走り抜ける。


 森と言っても、エアウルフから逃げていた森とは違って、ここにはモンスターもいないし、それに地面も荒れ果ててはいない。

 あるのは高くそびえる木々だけで、岩や川などの障害物は一切ない。


 でも、それはつまり…


 考え事をしたその瞬間、風を切る音が聞こえたと同時に、焼けるような痛みが私の左肩を襲った。


「っああ…!」


 痛みでバランスを崩した私はそのまま地面に転がった。

 受け身を取ったけど、転んだ拍子に口も切ったようで血の味が舌に広がっていく。


「はやく、はやく…!」


 逃げないと…!


 両腕に腕に力を入れて立ち上がろうとするが、左腕には全く力が入らないどころか、痛みで動かす事すら出来ない。


「この…!」


 右腕だけを支えにして立ち上がり、近くの木の陰に身を隠す。

 追撃はないが、私へ向けられた殺気は確かに感じられる。

 警戒しつつ、激痛の続く左肩に目を向ける。

 月明かりに照らされた左肩からは血が流れ、細長い黒い何かが深々と刺さっていた。

 

 一瞬だけ迷ったけど、私は動く右腕で刺さっていたモノを掴み、覚悟を決め一気に引っこ抜いた。


「くっ、ああああ!」


 力任せに異物を抜いた鈍い痛みと同時に、(せき)となっていた物がなくなった事で血が勢いよく流れ出す。

 冷える体温と薄れる意識を感じながら、私は右手に魔力を集める。


「…【火炎】」


 右の手の平に小さな炎が浮かぶ。

 魔力を纏った右手でさえも長くは持つ事の出来ない炎。

 その炎を持った右手を朦朧とする中、私はーーーー


「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 左肩に受けた熱が私の意識を覚醒させた。


 熱と痛み、肉の焦げる臭い、全て私が意識を失う事を許さなかった。


 時間にしては三十秒も経っていないだろう。


 地獄のような時間を終え、私は左肩を見た。


 炎の熱で無理矢理焼き付けた事で左肩の出血は止まっていた。一方で、こんな荒技をした代償に大きな火傷が左肩に残っていた。


「はあ、はあ…」


 まだ荒い息を落ち着かせながら、私は空を見上げた。


 満天の星が空に散らばっていた。

 街中では見えないほどのたくさんの星の輝きにわずかだが痛みと今の状況を忘れる事が出来た。


 そして、改めて分かった。


「帰ろう…」


 この星を一緒に見たい人がいる。

 その人が待っている場所がある。

 

 だから、帰ろう。


「生きて、帰るんだ…!」


 自分に聞かせた言葉が力をくれた。

 立ち上がり、走り出そうと一歩踏み出す。


 ヒュッ


 風を切る音が前から聞こえた。


「あ…」


 確実な死を心も体も認めてしまったからか、全てがゆっくりと動いている。

 駆けだしたはずの私の体は二歩目をいつまで経っても踏み出さないし、闇夜から放たれたナイフも私の顔へ向かってきていた。


 襲撃者はすでに私の前方に回り込んでいたんだろう。


 投げられたナイフの動きは目で追うことは出来ても、体は避ける事も出来ない。


 黒いナイフがもたらす死を待つ事だけが私に残された最後の時間だった。


 ああ、こんな事なら…


 もう一度会いたかった。


 その後悔を胸に残しながら、私は全てを受け入れ目を閉じた。


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