第四十二話 武器屋
「…すごい。」
ルナは本日二度目となるその言葉を口にした。
店の中に広がるのは古今東西、ありとあらゆる武器がところ狭しと並べられていた。
剣、弓、槍、斧、杖、盾、ハンマー、大鎌…
剣だけでも片手剣、両手剣、大剣、双剣…ルナにも分からないほどの種類が置かれている。
「助言はするが気に入ったモノを持って行ってもいいぜ、お嬢ちゃん。手ぶらで帰すと執事長の顔を潰しちまうからな。」
さっきまで野菜を売っていた店主はそう言うと、ドアに目を向けた。
「…あの兄ちゃんはやっぱり入ってこないか。」
店主の不満げな顔にルナは申し訳なさそうに頭を下げる。
「ごめんなさい。『自分の命を守る武器だから、余計な人間はいないほうがいい』って。」
「で、外で待機か…『裏通り(ここ)』じゃかなり目立つぞ。」
店主が言ったように今、ルナがいる店は先ほどまでのメインストリートから離れた『裏通り』と呼ばれる場所だった。
ここはメインストリートと違い、人通りは少なく、治安もあまり良くない。
一方で表だって売りさばけない怪しい品物を扱う店もあり、『知る人ぞ知る』隠れた名店も多く存在する。
ルナ達が訪れているこの武器屋もその類いだった。
「大丈夫ですよ、リロさんかなり強いですし。」
ルナの自信満々の言葉に店主は難しい顔でうなった。
「いや、心配はしてねえけどな。相当な腕利きってのは分かるからよ。」
「……」
あっさりとリロの実力を見抜いた店主に驚くルナ。
そして、一目でリロの強さを見抜いたこの店主こそ、執事長が紹介状を書いた武器屋の店主、ゴド。
元冒険者であった事以外、経歴は不明だが、現在はメインストリートでは八百屋、裏通りには武器屋を構える男である。
年齢こそ五十際を越えているものの、無駄のない引き締まった体をしており、バース商会の会長とも交流があると言われている。
「とりあえずは、お嬢ちゃんの剣の状態を説明するか。」
そうルナに言ったゴドは店に入る前に預かったルナの片手剣を鞘から抜いた。
剥き出しの刀身にゴドは鋭い目を向ける。
「お嬢ちゃんの持っていた剣は本来、魔法を纏うなんて事は出来ない剣だ。もし纏わせれば剣が魔力に耐えきれずに折れるか砕ける。」
武器は魔力を流せばどんなものでも強化されたり、魔法を纏わせる事が出来る訳ではない。
【身体強化】のような強化を施せば確かに武器はより強固になったり、より鋭さや威力を増したりする。
だが、それは武器が【魔力】に耐えられた場合だ。
【魔力】に耐える特殊な素材を使い、作られる事で、初めて武器は【魔力】と言う激流を受け止める事が出来るモノとなる。
当然ながら値段はそれ相応の価格となる。
一方で、安価で手に入る武器には【魔力】に耐えられるほどのモノはほとんどなく、仮に耐えられたとしてもほんの数秒で砕けてしまう。
ゴドは剣を静かに鞘に戻し、割れ物でも扱うかのように丁寧にルナの手に渡した。
「お嬢ちゃんの場合は…魔法が特殊ってだけじゃなく、魔力のコントロールも相当レベルの高いものだったんだろ。負荷に耐えきるはずのない剣だが、絶妙な加減をする事で折れる事も砕ける事もなかった…」
「だったら…」
どうして、とルナが聞く前にゴドは問いかける。
「最近、いつもとは違う感覚で魔法を使わなかったか?」
「……あ。」
ルナはエアウルフに襲われた時の事を思い出した。
あの時は必死で逃げていた為、【火炎刃】を使った時の魔力のコントロールが若干だが雑になっていたのだ。
ゴドはルナの反応を見て、店に置かれている剣を一本取った。
「ほんのわずかでも魔力が乱れれば使い物にならなくなる。むしろよくあれだけ使い込んだもんだ。」
ゴドが持ってきた剣はルナの持っていた剣とよく似た片手剣だった。大きく違う点があるとすれば、何の装飾もなかったルナの剣と違い、柄の部分に白く輝く宝石が埋め込まれている事だ。
「お嬢ちゃんの持っている剣と全体の長さと重量はほぼ同じだが、魔力伝導率も高く、強度、切れ味も申し分ない。万が一『魔力暴走』した場合も、この宝石が魔力を逃がすから大きな被害は起きにくい。」
ゴドはルナに剣を渡そうとするが、ルナは自分の持っていた剣を抱え込むように抱いたままだった。
「……」
ゴドにはルナの気持ちもよく分かっていた。
自分の命を預け、戦ってきた武器には誰しも愛着が沸くものだ。
特にルナの場合は今まで見てきた人とは違う、愛着以外の何かをゴドは感じ取っていた。
ゴドは少し迷っていたが、心を鬼にして事実だけを告げる。
「その剣を使う事が命より大事って言うなら止めはしねえ。」
「……え?」
「…だが、お嬢ちゃんの剣は見た目こそ問題ないが、次に魔力を通すか、全力で振れば剣は柄ごと確実に砕ける…」
「………」
それは紛れもない事実だった。
これまで多くの武器を見ていたゴドの目にはその未来がはっきりと映っていた。
「すでに内部が崩壊して、修復はほぼ不可能だ…だからな、お嬢ちゃん。」
店主はルナの目を正面から見て、
「その剣、俺に預けてもらえないか?」
そう頭を下げた。
「…え?」
唖然とするルナにゴドは頭を下げたままだった。
「いつか必ず直してやる。それまで代わりにこの剣を使ってくれないか?」
『修復はほぼ不可能』…それは誰の腕でも、ゴドの腕でも同じだ。
直すと言っても出来る保障はどこにもない。
そして、同時に『絶対に直せない』保障もなかった。
「もちろん、気に入った武器があるならそれも持って行っていいし、無理にこの剣を持って行かなくてもいい。お嬢ちゃんの好きにしな。」




