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番外編 執事長は世話を焼く

「執事長、審判をお願いしたいんですがよろしいですか?」


 リロ君からそう言われた時は驚きましたが、話を聞きその役を受けさせていただきました。

 

 長い眠りから目覚めた少女。

 恩人であり、客人である彼女はどうやらすぐに旅立つと言って聞かないそうです。



 …確かに、バース商会が与えた報酬は謝礼と言うには異常なものだと私も思います。何かしらを感じ取り、面倒ごとに巻き込まれる前に出立したいと考えてもおかしくはありません。


 ですが、三日も眠っていた人間が起きてすぐに街を出るなど、あまりにも危険です。

 そこで、リロ君が提案した『試合』と言う形に話は落ち着いたそうです。


 屋敷の敷地内にある開けた土地…裏庭で『試合』を行う事になり、二人はそれぞれ準備を始めました。


 客人である彼女は持ち物である片手剣を振り、三日ぶりの感触を確かめています。


「刃先などに違和感がありましたら、砥石もご用意出来ますが。」


 私はそう尋ねましたが、ぶっきらぼうに「必要ありません」と言われました。

 

 …少ししょんぼりしましたが、客人は片手剣に炎を纏わせ、剣を振っています。


「……」


 その様子を見て、『ある事』に気づきましたが、口には出しません。

 試合前に余計な事を言えば心が乱れます。

 例え乱れがごく小さなものだったとしても、そのわずかな乱れが勝敗を決める事もあります。

 リロ君が素手のみで防具も着けない事だけは伝えていますが、目に見える動揺はないようです。

 私は客人に礼をし、次にリロ君の様子を見ました。


「………」


 準備運動してました。

 試合と言うより、ジョギングする前に行うようなそこそこの準備運動です。

 執事服でアキレス腱伸ばしをしている姿は中々シュールなものですが、本当に彼は軽く走り始めました。


 ジグザグに走ったり、突如止まっては少し足踏みしてまた走ったり、歩いたり…


 一方、客人の彼女はほとんど動かず剣を振っています。


「…なるほど。」


 対照的な二人を見て、ようやくリロ君が何をしていたのか分かりました。


 同時に勝負の結果も。


 もちろん審判は公正に行います。


 リロ君が私に審判を頼んだのも「『執事長』の立場の人間なら不正は行えない」と考えたからでしょう。

 

 本心はリロ君に勝ってほしいですが、不正をすればバース商会の名に傷を付ける事になります。


 客人もそれを理解しているからこそ、試合を受けてくれたのでしょう。



 さて、そろそろ始めましょうか。




********




「そこまで!」


 私は勝負を止め、勝者の名を宣言します。


「リロ・ルーシャの勝利!」


 予想通りでした。


 試合はリロ君の勝利に終わりました。


 客人は呆然としていますが、勝負は始める前から決まっていました。


 炎の剣を振るい、鋭い剣戟を繰り出す客人でしたが、試合前から剣を持つ手がわずかに震えていました。体に力が戻っておらず、愛用の武器とは言え、腕への負担が大きかったのでしょう。

 試合前に素振りをしていた時、ほとんど動かなかったのも体力を少しでも温存しておきたかったからですね。


 一方のリロ君は執事服を着て戦う事が初めてだったようです。

 準備運動をしていたのも、執事服を着た状態でどこまで動きが制限されるかを確認する為。

 裏庭の地面の状態も、走ったり、足踏みをして確かめ、試合に影響があるかを調べていました。


 …どうやら、その事を客人に言うつもりはないみたいですね。



 試合が終わり、客人の名前がルナ様と分かりました。

 ルナ様はしばらくこの屋敷で療養する事を約束してくださいましたので、これで一安心です。


 おっと、その前にお話しなければならない事がありました。


「ルナ様、少しよろしいですか?」


 部屋に戻ろうとしたルナ様に声をかけます。


「なんですか?」


 先ほどと違い、態度も大分柔らかくなったようです。

 今のうちに用件を済ませましょう。


「失礼ですが、剣を見せてもらえますでしょうか?」


「?ええ、どうぞ。」


 ルナ様はさっきまで使っていた片手剣をためらう事なく私の手に渡してくれました。


「…ありがとうございます。」


 鞘から抜き、刀身の状態、柄の模様、造りを見ます。


 …思った通りでした。


「お返しいたします。」


 私は剣を鞘に戻し、ルナ様の手に片手剣をお返ししました。

 そのまま小さな声でささやきます。


「ルナ様、もう少し武器の扱いを考えたほうがいいと思います。」


「え?」


 戸惑うルナ様に私は静かに忠告します。


「…ルナ様が使っている『本当の魔法』。今のままだと気づく人は気づきますよ。」


「!?」


「ご安心ください。その事を口にするつもりは一切ございませんので。まずは、簡単に武器を見せない事から始めてください。」


 失礼します、と頭を下げ、口を開けたままのルナ様を置いて私は屋敷を見回ります。


 それなりの歳になったからか、元々あった世話焼きがさらに強くなったと我ながら思います。


 少しは自重するべきですかねえ。


 …それにしても先ほどの戦いは中々でした。


 ルナ様も強いですが、リロ君は想像以上でした。


 …現役を引退してもう十年以上経ちますが、久しぶりに血が騒ぎました。


 私もリロ君と手合わせ願いたいところですねえ。

 

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