番外編 復讐神の領域
退屈だった。
あらゆる世界、あらゆる時代から、復讐の声がこの領域には届く。
『恋人を奪われた』
『家族を殺された』
『財産を盗まれた』
『地位を壊された』
『尊厳を汚された』
…つまらない。
復讐神として私は存在するが、私はほとんど世界に干渉をしなかった。
ここには声が届くが、私に響く声はない。
私が力を与えてもいいと思う存在がいないのだ。
…また聞こえた。
『復讐の為に俺の全てを捧げる!』
確かこいつは妹を悪魔と呼ばれるようになったせいで、職も友も何もかもを無くし、その妹も迫害から逃げる最中に殺されたんだったか。
『俺に力を!この命全てを捧げる!』
…お前如きが全て捧げたところで私が力を渡すと思うのか?
『全てを捧げる』など、都合の良い口約束だ。
そういう奴は復讐を終えると決まって、
「生きる目的が出来た!まだ死ねない!」
とあたかも自分を運命に立ち向かうヒーローのように振る舞うのだ。
自ら望んだ契約を目的が達成されれば一方的に破棄し、契約を強行すれば手のひらを返し、殺しにくる。
そんな愚かな者に渡す力などない。
もし、本当に覚悟があるなら、私のいるこの領域まで来てみるがいい。
あらゆる復讐の声が魂に語り続け、まともな人間なら一分で廃人になるこの復讐神の領域に。
…そんな人間が本当に現れたのなら、話ぐらいは聞いてやろう。
最もこの領域で無事でいられる人間なんて、光魔法や神の祝福を持つような復讐とは縁がない人間だろうが。
この退屈はいつか終わるのだろうか…
私はただ待つ。