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番外編 密談の数時間前(裏)


 秘書が部屋から出て行ってから数分が経った。


 机には山のように置かれた書類。


 サティナの長となった日から続く私の仕事だ。


 そんな日課と戦っていた私は首にかけたペンダントから小さな振動を感じた。


 ペンダントに軽く触れると頭の中に声が響く。


(『街で有名な肉料理は』?)


 そんな突拍子のない質問に声を出さず、伝えたい事だけ念じる。


(『スルアのステーキを炭火でこんがりが一番』。)


 そう返答し、こちらから質問をする。


(『上質な薬草はどこに卸すご予定で』?)


(『セルケアの問屋一択』。)


 その返事を聞き、私は相手からの反応を待つため、黙る。


(………)


(………)


 沈黙が続く中、私はそのまま仕事に取りかかった。


*******


(…久しぶりだな、ゼム。)


 三時間が経ち、書類の山が半分ほどになった頃、ようやく返事がきた。


(毎度の事ですがさすがにきついですよ、(あね)さん…)


 私はようやく本心をぶちまけた。


 姐さん…ワイズ・フールの存在は有益と考える者が多いが、その逆も少なくはない。姐さんはそんな連中を警戒してか、突拍子もない合い言葉や決まりを作っている。


 それも一人一人、まるで違うものを。


 私の場合は待ち時間がきついが、楽な方だ。


 『合い言葉を言い合い、三時間通話を切る事なく無言でいる事』だからだ。


 『屋敷のドアの特定の場所を正確に蹴りながら、【ごめんくださ~い!ニャンニャンメイド服をお持ちしましたニャン!】と言わないと姐さんに会えない男に比べれば…


(…姐さん、あいつそっちに行ってますよね?)


 私はそう伝えながら、書類作業を行っている。

 秘書はすでに戻ってきているが、私がやっている事に気づく様子はない。

 そもそもこのペンダントが【制限魔具(リミッター)】であり、通話も出来るものだと分かる人間はいないだろう。


 それに周囲にはこのペンダントは強化の魔具と言っている。


 『それなりの強さ』と周知されているからこそ、誰も疑う事はない。


(……)


 姐さんは黙ったままだが、否定はしなかった。


(次元魔法の魔力のゆらぎが残ってました。それに今日の『強欲の森』での異常な魔力も目撃者が大勢…さすがにこれは隠せませんよ。)


 次元魔法の痕跡だけならどうにもみ消せるが、目撃者には箝口令ぐらいしか出来ない。

 名目上は余計な混乱を避ける為としてあるが、そう長くは続かないだろう。


 さっさと本題に入るとしよう。


(と言う訳で、賢者アズサ・ソメヤと今夜密会し、情報提供を行います。)


 アズサ・ソメヤとは『契約』を交わしている。

 今回の件も報告しなければならない案件であり、知らぬ存ぜぬではサティナに危機が及ぶ。


(…ゼム。アズサ・ソメヤを『強欲の森』まで誘い出せるか?)


 姐さんからの質問に数秒考えた後、私は応える。


(…あいつがいる情報だけだと難しいかもしれません。姐さんからもらったサンプルを見せても効果があるか…)


 アズサ・ソメヤの性格上、森ごと吹き飛ばすという強行策をとってもおかしくない。いや、ほとんどの確率でその手段をとるだろう…

 

 姐さんからもらっていたサンプル…森の植物や鉱石は未発表の新種とすれば森への攻撃を防げるか?

 

 アズサ・ソメヤがそれらを貴重と判断しなければ無意味だ…


 「サンプルだけあればいい」と言ってもおかしくない。


  一体どうすれば…


(なら、こう言えばいい。『ワイズ・フールがあの森に住んでいる』と。)


「なっ!?」

 

 思わず、声が出てしまった。

 秘書が怪訝な顔でこちらを見たので、とっさに目についた書類を渡す。


「この報告書に書かれている経費だがどうも気になる。少し調べてくれ。」


「かしこまりました。」


 秘書は書類を受け取るとそのまま部屋を出て行った。


 扉が閉まり、足音が聞こえなくなった事を確認し、通話を再開する。


(…姐さん、本気ですか?)


 確かにアズサ・ソメヤはその情報に食いつくだろうし、森へ単身向かうはずだ。


(あいつは私の研究を奪いたくて仕方がないはずだ。森を吹き飛ばせば、それも出来なくなる。)


 言っている事は分かるが…

 アズサ・ソメヤと敵対すればいくら姐さんでも分が悪い。

 【賢者】の称号は『権力』と言う力も持たせているのだ。


(心配するな。私だって、それなりの『力』はある。それにな…)


 姐さんは一度言葉を切ると、強い口調で話した。


(あれだけの事をされて、黙っていられる性分じゃないだろ。お互いに…)


 思念による通話では当然顔は見えない。

 しかし、私は姐さんが今どんな顔をしているかはっきり分かった。


(分かりました。ではこちらも…)


***********


 姐さんとの通話を終え、私は戻ってきた秘書に翌日の予定のキャンセルを伝えた。


 秘書は何も言わずに頷き、すぐさまスケジュール調整を始めてくれた。


 これで私も強欲の森へ向かう事が出来る。


 情報が正しければ、追い詰められたアズサ・ソメヤは『あのゴーレム』を出すはずだ。


 そうなれば状況は一気に逆転しかねない。


 私の役目はアズサ・ソメヤの足止めだ。


 【制限魔具(リミッター)】を外せば、それなりに戦えるだろう。


 うまくいけば『あのゴーレム』を倒せるかもしれない。


 その為にも…


「行くか…」


 そう口に出し、私は賢者との待ち合わせとなる屋敷へ向かった。


 明日の戦いを成立させる為には、今夜始まる密会が重要となる。



 その為なら、小賢しい権力者にでも、権力にしっぽを振る小物にでも、何にでもなろう。


 それで目的に近づけるなら安いものだ。


 どんな手を使おうとも、誰にどう思われようとも、構わない。


 私は全てを懸けよう。


 私を救ってくれた友の為に… 

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