第三十二話 辿り着いた場所
「ゼムが来ている。」
キメラゴーレムとの戦闘時に屋敷へ避難したワイズが俺にそう教えてくれた。
その言葉があったからこそ、大量の足止めを受けても俺は焦る事なく、目の前の山のようなモンスター達に対処出来た。
時間はかかったが障害を取り除き、追いかけようとした矢先、森全体に響くほどの戦闘音と、離れていてもはっきり分かるほどの激しい魔力を感じた。
「ゼム…」
それはゼムからの合図だった。
その方向へ駆け抜けていくにつれ、いつしか戦闘音は消えていたが、魔力はまだ感じられた。
やがて見えたのはアズサ・ソメヤの後ろ姿と、明らかに異様な雰囲気を放つ鎌を持ったゴーレム。
そして―――。
「…!」
傷だらけで地面に倒れているゼムだった。
「どうせ知っているんだろう、このゴーレムについても。」
首元に鎌の刃を当てられたゼムは黙ったままだが、俺は気配を殺しながら聞き耳を立てていた。
「この【マーダーゴーレム】は『殺す』と言う一点だけに特化したゴーレム。これと戦ってまだ生きていると言う時点で賞賛に値する。」
アズサ・ソメヤの声を聞き、俺は小さく舌打ちをした。
【復讐道】を使える事に俺は自分でも知らない内に浮かれていたのだろう。
考えてみればあり得る話だった。
アズサ・ソメヤが俺との戦い、その後の逃亡の為、全てのカードを使い切ったと思い込んでいたが…
奴は『あんな魔具』を平然と使っているような人間だ。
出すつもりのなかった危険なカードを持っていても不思議でもない。
ゼムはその存在に気づいていたのだろう。
【制限魔具】を外したのも俺に自分の位置を知らせる為だけではなく、アズサ・ソメヤに今度こそカードを切らせる為だったのだろう。
さすがに【制限魔具】を外したゼムにはアズサ・ソメヤもカードを使うしかなかったようだ。
話を聞くにつれて、あのゴーレム…マーダーゴーレムの能力も分かった。
ワイズが作れたとしてもすぐにたたき壊すような、気分の悪い能力だ。
ゼムとアズサ・ソメヤは話を続けているが、とうとうしびれを切らしたのか、アズサ・ソメヤがマーダーゴーレムに処刑の命令を下した。
振り上げられる鎌、アズサ・ソメヤとマーダーゴーレムの視線がゼムに集まる。
「っ!」
この瞬間、このたった一度の場面、それがゼムの狙いだったと気づいた俺は【復讐道】を纏った右手から【風魔法】を撃っていた。
ゼムとアズサ・ソメヤのやりとりでマーダーゴーレムの弱点も分かっていた。
圧縮し、球体となった【風魔法】は狙い通り、マーダーゴーレムの頭を音も無く吹き飛ばし、振り下ろされた鎌の狙いもゼムからそれた。
アズサ・ソメヤは少ししてマーダーゴーレムの状態に慌てて魔具の本を開くが、
「無駄だ。」
俺はそう言い、二発目の【風魔法】でマーダーゴーレムの腹に大きな穴を空けた。
マーダーゴーレムは今度こそ、姿を保てず塵になった。
絶叫するアズサ・ソメヤは立ち上がったゼムにも背後から近づく俺にも気づかないようなので、俺はわざと両腕の鎧の音を鳴らした。
ガチャリ
その音でアズサ・ソメヤの叫びが止まった。
今更俺の気配に気づいたのか、それとも今の自分がどういう状況に置かれているか思い出したのか…どっちでもいいが…
「今度こそ、終わりだ…」
俺の声にアズサ・ソメヤは恐怖にかられたかのように震えだした。
ようやく、ここに辿り着いた。
やっと、追いついた。
「…お前。」
そう声をかけてきたゼムは立ってはいるものの、体中傷だらけ、服も血まみれだった。
ゼムは俺に何かを言おうとし、
「……いや、俺が口を出す事じゃない。」
そう口にすると、黙ってその場でゼムはペンダントを首に付け直した。
「そうしてくれると助かる。」
俺はゼムに感謝の言葉を言ったものの、ゼムはなんとも言えない表情のままだった。
俺に何があったかはワイズから聞いているだろう。
本心は復讐を止めて欲しいと思っているかもしれないが、ゼムは決してそれを言葉にしない。
何も失っていない自分が、失った者にかけられる言葉はないと分かっているからだ。
「と、取引をしましょう!」
突然、甲高い声でアズサ・ソメヤが声を出した。
「取引だと…?」
その提案が無駄だとこいつは気づいているはずだ。
俺が一切の交渉に応じない事にも。
キメラゴーレムを倒した直後にそんな余裕はこいつから消えたはずだ。
下手な事を言えばどうなるのかも分かっているはず。
「この場を見逃してくれるなら、スピア達の情報を教える!」
「………」
…その程度で応じるわけがない。
ゼムがいる以上、スピア・ローズ達の情報は俺へ入りやすくなる。
苦し紛れに話す不確かな情報に興味はない。
俺の沈黙を否定と受け取ったのか、アズサ・ソメヤは慌てて言葉を続ける。
「あ、あなたとシャール国がどうして狙われたか、その本当の理由も教える!」




