第二十八話 救援
「はあっ!」
もう何十体になるのだろうか。
彼の周りにはモンスターの亡骸やゴーレムの残骸で埋め尽くされ、その身は返り血で赤く染まっている。
それでも壁は途切れない。
主を守る為、彼らはその身を賭けてわずかな時間を稼ぐ。
その主が逃げてからそれなりの時間が過ぎている。
「間に合うか…」
彼はそうつぶやくが、その心は焦っていない。
彼の役目はここにある。
立ちふさがる敵を倒す事。
それが今やるべき事だ。
「いくぞ…!」
気合いを入れ直し、再び彼は拳を握った。
一方、アズサ・ソメヤは思わぬ展開に困惑していた。
森の中を走っていた彼女が何かの気配を感じ、身を隠すと見覚えのある男の姿を見た。
「!」
彼女はその人物をよく知っていた。
魔法都市サティナの長『ゼム・シャール』。
細身で整った顔立ちから女性からも人気が高く、若くしてサティナの長となった人物だ。
とは言っても、魔法の能力はそこまで高くない。
それなりの強さはあるが、あくまでもそれなりであり、胸に着けているペンダントも魔法強化の魔具と噂で聞いた事がある。長に就任したのも魔法の能力と言うより、策謀や暗躍のおかげらしい。
そんな人間が何故、強欲の森と言う危険地帯にいるのか。
アズサ・ソメヤはゼムの様子をしばらく観察する事にしたのだが、ゼムは突如大声を出したのだ。
「賢者様、ゼムです!応援に駆けつけました!」
「?」
森の中で最もモンスターの出現する【危険エリア】であるにも関わらず、大声で呼びかけるゼムの姿に彼女は警戒を一段階落とす事にした。
隠れていた場所から出て、ゼムの前に現れたのだ。
「賢者様!ご無事ですか!?」
ゼムの心からの安堵の表情に対し、アズサ・ソメヤはいつもの冷静な口調で応える。
「ええ、なんとか。それより、どうしてあなたがここに?」
返答次第ではいつでも攻撃出来るように魔具を構える彼女に対し、ゼムは慌てて説明をする。
強欲の森にアズサ・ソメヤが入った直後、心配になったゼムは単身で森の近くで待機していたのだが、そこで大きな魔力の衝突を感じ、護衛を待たずに森へ入ったらしい。
「魔具を使い、モンスターを避けてきましたが…命がいくつあっても足りませんな、ここは。」
そう言いながら、ゼムは懐に入れていたペンダント型の魔具をじゃらじゃらと出した。
「…本当なのですね。」
アズサ・ソメヤはゼムに聞こえないようにぼそりとつぶやいた。
自らの力のなさを隠す事なくさらけ出すそのおろかぶりに彼女はゼムの秘書がこっそり話してくれていた事を思い出した。
『魔具で強く見せているだけで、本当はすごく弱いんです。』
どうやらゼムは【身体強化】もまともに使えないそうだ。
金と権力で大量の魔具を持ち、それを自身の力とするその姿には哀れみすら感じる。恐らく、ここに来た理由も賢者への『心配』ではなく、賢者に『恩を売ろう』という考えからだろう。
それでも単身で強欲の森へ来た事は評価しようと考える彼女だが、あくまでも『駒』としてだ。
必要がなくなれば容赦なく捨てる。
むしろ、この敗走の姿を見た以上、今すぐにでも処分しようかと考えたが…
そんな彼女の本心には気づかないように彼は魔具を懐に戻すと、周囲を警戒しながら言葉を続ける。
「さあ、早く脱出しましょう。賢者様も【大地滅亡】なんて使った以上、お疲れでしょうし。」




