第二十六話 決着
「闇魔法【復讐道】」
その名前を告げた瞬間、鎧が鈍く光った。
力が溢れてくる。
指先から肘までを覆った黒い鎧から流れてくる力は強く、しかし飲み込まれそうなものではない。
力は鎧から全身に満ち渡り、これまでにあった体の疲労も消えていた。
何より、憎悪による暴走の気配が全くなかった。
これまで復讐の騎士の姿になった時は常に憎悪に振り回され、自分を見失っていた。
右腕だけに鎧が具現化した時があったが、あの時もすぐに暴走していた。
だが、今は自分の意識がはっきりとある。
鎧を纏った両腕もその力が流れる体も自分の意志で動かせている。
…分からない事はまだ多いが、今は目の前の敵に集中をする。
キメラゴーレム。
ゴーレムにモンスターを組み合わせた合成獣。
シールドバイパーやグリードスパイダーなど、取り込まれたモンスターの能力を操る強敵だ。
たった数分前までは劣勢だった。
それでも今は負ける気がしない…!
「いくぞ…!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
にらみ合いに耐えきれなくなったのか、動いたのはキメラゴーレムだった。地面をその驚異的な膂力で蹴り、矢のように飛び込んできた。
右腕にはかぎ爪、左腕には毒針、さらに獲物を喰らおうとする口、自身の持つ三つの武器を同時に使う攻撃は一つでも当たれば致命傷になるものだ。
「【身体強化】」
ドクン!
鎧の力も重なってか、身体強化の速度、強化が桁違いに大きくなった。
感覚も強化されたのか、キメラゴーレムの動きも冷静に判断出来る。
俺は両腕に纏っていた鎧でかぎ爪と毒針を鎧で滑らせるように受け流し、キメラゴーレムの懐に潜り込む為に体を低くした。
キメラゴーレムの牙がさっきまで俺の頭があった空間を喰らいつく。
「オオ?」
自分の攻撃が全て不発に終わったとキメラゴーレムが気づいた時には遅かった。
握りしめた右拳に鎧から流れる力を集中する。
狙うは一点。
胸部中心。
「ウオオオオオオ!」
咆哮と共に一撃を撃ち放つ!
ズバアアアアアアアンッ!
重く大きな音が周囲に轟いた。
キメラゴーレムも俺も一歩も動かなかった。
ただ、一つの感覚をこの手に感じた。
…終わったと。
キメラゴーレムの胸部には大きな風穴が空いていた。
シールドバイパーの防御能力も何もかもを打ち抜いた一撃がその胸を貫いていた。
キメラゴーレムにはすでに意識はなかった。
何度攻撃をしても立ち向かってきたはずのキメラゴーレムは活動を停止していた。
「……」
胸部を狙ったのはなんとなくだが、そこが弱点だと感じたからだ。
具体的な根拠はなかったが、その結果が現状だ。
恐らくこれも鎧の力なのだろう。
貫いた右手を引き抜くと、キメラゴーレムの体にヒビが入り始めた。
同時にキメラゴーレムの体からアズサ・ソメヤが投げ入れた本のページが飛び出す。
五枚のページはキメラゴーレムから排出されると同時に燃え上がり、キメラゴーレムの体が砕け散った瞬間に、跡形もなく燃え尽きた。
目をつむり、ほんのわずかな間だけ、倒した敵に黙祷する。
ただの自己満足だが、それでいい。
「…覚悟はいいか。」
自分の出した声とは思えないほど低い声に相手が反応したのが分かった。
燃え上がる憎悪が復讐を臨む。
先ほどの攻防でも傷一つ付かなかった鎧からさらに大きな力が流れる。
「アズサ・ソメヤ…!」




