第二十五話 復讐道(リベンジロード)
自分の持つ風魔法や光魔法ではキメラゴーレムは倒せない。
キメラゴーレムがシールドバイパーの能力を使い始めた以上、並の攻撃ではこちらがいたずらに魔力を消費するだけだ。
最大威力の魔法なら防御能力を崩せるかもしれないが、それも一時的なものだろうし、仮に倒せたとしてもアズサ・ソメヤがまた新たなキメラゴーレムを造ったらそれで終わりだ。
圧倒的な力が必要だった。
脳裏に浮かぶのは黒い復讐の騎士の姿。
憎悪のまま敵も味方も関係なく破壊する暴力的な力。
…目の前のキメラゴーレムと何も変わらないじゃないか。
自嘲しながらも右手を見る。
黒い鎧をまとっていない、いつもの自分の手だった。
「………」
『復讐を果たす』
その誓いは忘れてはいない。
全てを奪った者達へ復讐を果たす為に俺は契約をした。
その為にこの力を手に入れた。
その力の大きさに恐怖もした。
…今も不安はある。
今度、この力を使えば二度と今の自分には戻れないのではないのか。
忘れていた自分の芯を思い出し、恐怖は克服した。
だが、それはあくまでも今までと同じ、ただ魔法が使えるようになっただけだ。
目の前のキメラゴーレムやアズサ・ソメヤには『今まで』では足りない。
『これから先』へ進む更なる力がいる。
「オオオ…オオオオオ!」
目くらましから回復し始めたのか、キメラゴーレムは少しずつ落ち着きを取り戻していた。
「オオオオオオオオオオオオオオ!」
もう時間はない。
覚悟を決め、魔法を発動する。
「…闇魔法――――」
その瞬間、全ての動きが止まった。
時間が止まったように誰も何も動かない。
キメラゴーレムの叫びも、こちらを見ていたアズサ・ソメヤも、風で揺れる草木も何もかもが止まっていた。
「!」
ガチャリ、ガチャリ
その中で唯一動くモノがあった。
ガチャリ、ガチャリ
正面からその姿を見た事はなかった。
ガチャリ、ガチャリ
黒い鎧が歩く度に音を鳴らす。
ガチャリ、ガチャリ
静止したキメラゴーレムを通り過ぎ、それは俺と向かい合うように足を止めた。
「お前は…」
黒い鎧に、禍々しい仮面。
復讐の騎士が俺の前に立っていた。
【…ここから先へ進めば後戻りは出来ない。】
「!」
頭の中に直接、声が響いた。
それが目の前の騎士の言葉であることはすぐに分かった。
【『復讐を果たす』と言う誓いと『守りたい』と言う願い…矛盾する思いはいつか破滅へと至る…】
復讐の騎士は背を向け、一歩前へ踏み出した。
【それでも進む覚悟があるのか?】
動けない俺に対し、復讐の騎士はさらに足を進める。
「…………」
俺は復讐の騎士の言葉を考え、行動を決めた。
「ああ…」
俺の言葉に騎士の足が止まった。
【覚悟は――】
続けて俺は言葉を繋ぐ。
「ないよ、そんな覚悟は。」
騎士が振り向き、俺は表情の見えないその仮面へ自分の思いをはき出す。
「俺の覚悟は『破滅へ進む』覚悟じゃない。」
『復讐を果たす』誓いと『守りたい』と言う願いが矛盾している事はとっくに分かっている。
いつかはどちらかを選ばなくてはならない事も理解している。
それでも…
どちらかを捨てないといけない道があるのなら…
どちらも選ぶ道だってあるはずだ。
一歩。
ゆっくりと、確かに、踏み出し、俺は騎士に並ぶ。
「…俺の覚悟は『どちらも諦めない』覚悟だ。」
守れなかった人達がいた。
守りたいと言う願いさえ無くしていた。
もう無くしはしない。
隣に並び立つ騎士の姿になったとしても、この思いは誰にも奪わせない。
【…そうか。ならばその生き様、見せてもらおう。】
騎士の声が言い終わると同時に、俺の両腕に騎士の纏っていた黒い鎧が装着されていた。
「…これは。」
戸惑う俺が騎士を見ると、いつの間にか騎士の姿は消えていた。
【その名は…】
「オオオオオオオオオオオオオオ!」
止まっていた時間が動き出し、キメラゴーレムの叫びが再び周囲を震わせる。
目くらましから回復したキメラゴーレムは俺の両腕の鎧を警戒してか油断なくこちらを睨み付けながらタイミングを計っている。
「なんですの?あの鎧!?」
アズサ・ソメヤも突然現れた俺の両腕の鎧に驚いているようだ。
俺はキメラゴーレムへ構えながら、魔法の名を口にする。
復讐の騎士が託した力。
矛盾する思いを諦めない覚悟を刻んだ名。
「闇魔法【復讐道】」




