第十五話 波乱
成体のグリードスパイダーは同種であろうと群れる事をしない。その大きな理由はグリードスパイダーの固有能力【グリード】が原因だ。【グリード】で手に入る能力は一点だけではなく、数に制限もない。特化した力を複数持つ相手を喰った場合はその複数を手に入れる事が出来る。
つまりグリードスパイダーが最も多くの能力を確実に得られる獲物とは同種のグリードスパイダーとなる。
成体のグリードスパイダー同士が出会えば、地形を変化させるほどの戦闘が始まり、どちらかが喰われるまで終わる事はない。
それが俺の知るグリードスパイダーだ。
だが、今俺の前で起きているのはこれまでの常識を覆す状況だった。
体長五メートル超えの二匹のグリードスパイダーが互いに協力をして戦っていた。
周囲にはすでに糧になったであろうモンスターの残骸達が転がっている。
一匹は積極的に接近戦を仕掛けている。【グリード】で得た力なのか、足が鋭い刃となっており、近くの巨木や岩も難なく切り裂いている。よく見れば硬化魔法が全身にかかっており、防御と攻撃を兼ね備えた状態だ。
もう一匹は傷だらけで距離を置き、遠距離から魔法の援護を行っている。水や風の攻撃魔法だけでなく、タイミングを見計らっては近接型を支援する為の硬化魔法も使っている。口元の血の痕や傷ついている様子から、どうやらこっちが先に戦っていたようだ。
支援型の叫びにモンスターだけでなく近接型も反応したようだが、相手が相手なだけに共食いではなく共闘を選んだのだろう。
無理もない。
魔法が使える状態の俺でもアレは相手にするのは骨が折れる。
二匹のグリードスパイダーが戦っている相手は、軽く十メートル以上の高さの岩の巨人【ゴーレム】だ。
魔法によって製造された岩の兵士。術者によってはその姿、形、操れる数などは大きく変わる。一般的な人型のゴーレムは人間の身長と同じ大きさのモノが多いが、これは規格外過ぎる。サイズが大きければその分扱いも難しくなり、動きも鈍重になるはずだが、このゴーレムはグリードスパイダーの攻撃を簡単に躱すほどの俊敏性を持っている。
近接型が口から毒糸を吐き出すが、ゴーレムは簡単によける。そこへ支援型が水の魔法でゴーレムの立つ地面を浸水させ、体勢を崩そうとするが、ゴーレムはその攻撃が完了する前に高く飛び上がり、コンマ数秒で沼になった地面から脱出していた。
まるで生物のように行動するゴーレムの姿に驚きの連続だが、見ていておかしな点もあった。
支援型が行っている硬化魔法が切れた数秒間、接近型が無防備な状態が何度もあったのにゴーレムは攻撃を行っていない。あの素早さからすれば反撃は十分に可能なはずだ。持久戦に持ち込む事が狙いだとしてもあれだけの動きをするゴーレムなら魔力消費もとんでもないものになるはずだ。むしろ、消耗を抑える為に短期決戦を望むはずだが…
そもそも…
どうして、ゴーレムがここにいる?
グリードスパイダーの共闘のインパクトが強すぎて気にしていなかったが、あれほど精度の高いゴーレムはワイズでも造るのは難しいはずだ。
あれだけのゴーレムを造れる術者…心当たりはある。
「そろそろ飽きてきましたわね。」
ゴーレムの背後から女性が現れた。
長い金の髪に体にぴったりと合うような白いドレス。まるで舞踏会に参加する貴族の令嬢のような姿をしたその女性の顔を見て、
「っ!」
心に憎悪が沸き上がった。
あの顔は!
あの声は!
あの女は!
拳を握りしめ、感情を押し殺す。
「では終わりにしましょう。」
女は持っていた古めかしい本を開き、構えた。
「サティナの長が言ったようにここは珍しい生物ばかり。支援魔法を使えるグリードスパイダーは是非とも欲しいですわ。」
異質な魔力が女の持っていた本から噴出した。
重く濁ったような魔力には覚えがある。
そのような魔力がもたらす魔法がどれだけ惨いかも。
あの魔法はまずい…!
グリードスパイダーも危険を感じたのか、近接型も支援型も慌てて糸を吐き出し、森の奥へ退避行動を取り始めた。
「【監獄へ本を(ジェイル・ブック)】」
その言葉と同時に本から放たれた光の球が二匹のグリードスパイダーに命中した。グリードスパイダーの姿は消え、命中した光の球が女の本にまた帰って行く。
「これでまたコレクションが増えましたわ。」
うれしそうにアズサ・ソメヤは笑っていた。
グリードスパイダーが喰い散らかしたモンスターの血液で地面が染まったこの場所で。
「それはそうと…いい加減目障りですわね。」
そして、その目は次の獲物である俺を見ていた。




