表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/130

番外編 やがて奇跡を起こす者へ


「待って…ください…」


 『どうでもいいモノ(人間)』達を抹殺した私に声をかけた『どうでもいいモノ(人間)』がいた。


 血だまりとなった地面を這いずり、私へ手を伸ばしたのは女だった。


「……」


 暗殺対象は全て始末している。


 この女は暗殺対象達に連れ込まれた…被害者と言っていいだろう。



 かろうじて生きてはいるが、放っておけば明日を迎える前にその命の灯火が消えるのは明白だ。


 身体に巻いているボロボロの布きれは地面に流れる鮮やかな色とはかけ離れた色に染まっており、身体だけでなく整っていたであろう顔にも暴行の跡が数多く見受けられる。


 …たった今殺した『どうでもいいモノ(人間)』達にそういう事(・・・・・)をされ続けたのであろう。


 だが、私にはどうでもいい事だ。


 例え、死にかけの命であろうと興味はない。


 殺す理由はないが、わざわざ助ける理由もない。


 それだけだ。


「何だ。」

 

 だから、その言葉が私の口から出た時、私自身が一番驚いていた。


 何故、そんな言葉が私から出たのか。


「たすけて…ください…」


 顔を上げる力もないのか、女は自分を苦しめた『どうでもいいモノ(人間)』達の血で顔を濡らしながら、無様に私の足下へ手を伸ばした。


「………」



 落胆した。


 残りわずかな命を使ってまで、名も知らぬ誰かにすがりついてまで、生きようとする浅ましさに…


 ……落胆?


 …私は何かを期待したのか?


「断る。何をしようがお前は死ぬ。」


 自分でも分からない苛立ちからか、私は口にするべきではない言葉をぶつけていた。


 女が伸ばした手は私に届く事はない。


 この女はここで死ぬ。


 それだけの話だ。


 …命令は果たした。


 さっさと領域に帰り、次の命令を待てばいい。


 女の手が届く前に足を動かそうとするが、


「…い…彼に…会い…たい…」


 足が止まっていた。


「………何?」


『会いたい』と言ったのか? 


「…『生きたい』のではないのか?」


 思わず聞き返していた。


 この女はこれまでの『どうでもいいモノ(人間)』達と何かが違う。


 今までの『達はひたすら『生きたい』とだけ言っていた。時には数秒前まで手を取っていた仲間すら俺に差し出してまで…


「……」


 いつ以来だろう。


どうでもいいモノ(人間)』に興味を持ったのは。


「お前はどうして助かりたい?」


 こうして会話するのは何百年ぶりだろう。


「…会いた…い…から…彼…と…もう、いち…ど…」


 言葉を紡ぐほどに急激に女の命が消えていくのが分かる。

 傷もだが衰弱も激しく、明日どころかこのままではあと数時間ももたないだろう。


「生き…た…い…会…いたい…から…!」


「…!」


 血まみれの手で、死にかけの命で、女は私の…暗殺神の足下を掴んだ。


 振り払う事は簡単だった。


 その簡単な事を私は出来なかった。


「死ね…な…い…まだ……」


 女は顔を上げ、その眼に光を宿しながら、


「私は…会うんだ…!」


 命を燃やして足掻いていた。


「!」


『いつか、人間(私達)を信じられる時が来たら…』


 ああ、そうだった。


 もう、名前も顔も思い出せない…『誰か(人間)』とのはるか昔のどうでもいい話の一つだ。


 …何もかも忘れていたが、この眼の光だけは覚えている。


 決して諦めない、前だけを見る眼だ。


 これまで殺した『どうでもいいモノ(人間)』達の濁った眼とは違う。


「…『奇跡』。」


 『誰か(人間)』と交わした言葉。


 長い年月で諦めていたそれを信じてみたくなった。


 この女は『奇跡』を起こせるかもしれない。


『いつか、人間(私達)を信じられる時が来たら…少しだけ力を貸して。』


 女の手が力尽き、地面に落ちる前に気がつけば私は女の手を取っていた。


「…ああ。」


 忘れてしまった『誰か(人間)』との約束を今、果たそう。




 …女の目はもはや焦点すら合っていない。


 一刻も早く対処しなければならないが、私には傷を癒やす力などない。


 あるのはただただ殺める事に特化した力だけだ。

 

 …【契約】をすれば、女の命は助かるだろう。


情報撹乱(シャッフル)】を【スキル】として与えればどうにかなる。


 それでも死の運命を無理矢理書き換えるには…代償は明らかに大きくなる。


 恐らくは…



「…いいか、よく聞け。私と【契約】すれば、貴様は『生きる』事は出来る。だが、貴様は多くの代償を払う事になる。これまでの記憶も想いも全てを失い、二度と戻る事はない。」



『領域』の干渉を受けなければ、与える【スキル】を複数にする事が出来る。


 それをあえて一つに絞る事で一つの【スキル】をさらに強化する。


 死さえも退ける程に。


 その為には通常の【契約】の代償では足りない。


 この女が積み上げてきた全て…記憶も信念も想いも誇りも何もかもを代償として初めて【スキル】は成り立つ。



「……わ…すれ…る?」


 女の手から力が徐々に失われていく。

 眼から光が失われようとしていく。



「だが!貴様の『生きたい』と言う願いだけは消えない!」


 声を荒げ、強くその手を握る。


「綺麗な想い出を持ったまま死ぬか、何もかも忘れて生きて生き抜いてもう一度会えるかもしれない『奇跡』を起こすか選べ!」


 自分の中のさび付いていた感情が蘇る。


 無くしていた熱が灯っていく。



「……会え…る…の?」


 女の目に力が戻り始めていた。


 その女の問いかけに私は正直な言葉を伝える。


「…砂粒のような可能性だ。起こす事が出来れば『奇跡』だろう。」


「……『奇跡』…………ええ、本当に。」


 女は涙を流しながら、笑みを浮かべた。


「!」


 何故、笑える?


 何故…


「【契約】…します……ありがとう、神様…これは……」





 『奇跡』のような出来事でした。





 それが女の最後の言葉だった。


 私には女の笑顔の意味が分からなかった。


『生きたい』と言う願いだけをその身に宿し、『会いたい』と言う想いと『彼』を忘れた。


 私は貴様を安らかな死から、更なる地獄へ堕としたのに何故…


 いつまで経っても答えは分からなかった。




 その後、私は領域に戻らず、『彼』と接触した。

 女の死へ干渉した影響からか、力のほとんどを失いつつあった私だったが、『彼』と【契約】を行い、【スキル】も渡せた。


 …互いの命をつなげると言う代償を使ってはしまったが。


 二人がもう一度会う事は出来るのか。


 あの笑顔の意味が分かる日がくるのか。


 何も分からない…


 今は少しだけ眠らせてもらおう。


 『人間』が起こす奇跡を信じよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ